五つの水系別茨城の酒について

2022年10月20日開催 五つの水系の茨城酒を飲んでみよう
会場 Premium Sake Pub Gashue

出品順
森島酒造(日立市) 富士大観純米大吟醸
根本酒造(常陸太田市) 上丸純米吟醸55
井坂酒造店(常陸太田市)日乃出鶴美山錦純米吟醸
 以上久慈川水系
明利酒類(水戸市) 水府自慢10号純米大吟醸
月の井酒造(大洗市) 月の井純米
 以上那珂川水系
府中誉(石岡市) 渡舟濾過前55純米吟醸
磯蔵酒造(笠間市) 稲里 純米山田錦 月
浦里酒造店 URAZATO  PROTTYPE
廣瀬酒造店 白菊 ひたち錦特別純米原酒  ※東沢さん提供
 以上筑波山水系
㈱武勇 武勇辛口純米
結城酒造 結ゆい 特別純米赤磐雄町火入れ
 以上鬼怒川水系
愛友酒造 友寿 純米吟醸
青木酒造 御慶事 純米吟醸ふくまる
 以上利根川水系

会の趣旨と目的 水系別に酒蔵を紹介することにより茨城酒の地域特性と水系別に違いを見つけられるかを探る

茨城の酒の全体的な特徴
 茨城県酒造組合所属の藏元 35 ※北関東一位
 県の酒造好適米 ひたち錦
 酵母 明利小川酵母 他に県工業技術センター由来酵母
 全国でも有数の農業県であり、県の面積も広い
 県南部を中心に関東地方の穀倉地帯
 比較的大きな河川が県内を流れる
 越後杜氏、南部杜氏が多い
  ※越後杜氏は現在では県内には殆どいない

茨城県独自の取り組み 地酒振興策 
 常陸杜氏選定制度
  県工業技術センターでの研修、筆記試験、論文、唎酒、面接を通じ
  常陸杜氏を選出

 いばらき地酒ソムリエ制度
  茨城地酒振興と普及を目的とし、筆記試験を通じ選出
  令和3年よりS級開設 筆記費試験に加え実技(唎酒)も実施

 いばらき地酒バー 水戸店、つくば店
 地酒イベント実施  いばらき地酒めぐり 茨城地酒まつり

 西海一人著「いばらきの銘酒地図」より

 当時の茨城県酒造組合会長根本保氏(久慈の山 根本酒造社長)の言葉「東北の酒は処女の如く 灘の酒は濃艶なる女の如し 関東の酒は人妻の香り 茨城の酒は主婦の味なり」と女性に例えて表現

各出品酒と酒蔵について

富士大観(森島酒造):茨城県で海に最も近い場所に蔵を構える。「大観」の酒名は太平洋戦争後北茨城に縁の深い横山大観に依頼したもの。東日本大震災の折に津波により蔵の建屋、機械の損傷、酒の流失等の被害を受けるも、酒造りを継続。六代目正一郎氏は31歳の時に南部杜氏試験に合格。その後杜氏制度を廃止し、蔵元と社員による酒造りに取り組む。更に正一郎氏は常陸杜氏第1号となる。 フレッシュな吟醸香と米の旨味が感じられる爽醇酒。

久慈の山(根本酒造):奥久慈大子町の手前、旧山方宿、久慈川沿いに構える創業慶長8(1603)年の歴史ある酒蔵。当代朗裕氏で20代を数える。仕込み水には酒造りに必要なミネラル(マグネシウム、カリウム、リンなど)を適度に含む、駒形神社の御神水を使用する。東日本大震災後に誕生した新ブランド「カミマル」は根本家の旧屋号にちなんだもの。シルバーラベルの純米吟醸は地元の酒造好適米ひたち錦を使用。淡麗ながらも旨味を充分に含んだ酒。

井坂酒造店(旧里美村):江戸時代末期に創業した地元で長く愛される酒蔵。現当主の長男井坂統幸氏は東京の企業に勤めていたが、地元の人にずっと飲んでもらえるようにと家業の酒造りを継ぐことを決意。ラベルデザインを一新した日乃出鶴無濾過生純米吟醸は地元産の美山錦のポテンシャルを存分に引き出した爽醇酒。

明利酒類(水戸市):言わずと知れた明利小川酵母(協会10号酵母)が生まれた蔵。そこから派生したM-310酵母は人気の酵母。特徴としては低温な気候でもよく発酵し酸味が少なく、優れた香気を持ち、高級酒によく使われ、吟醸酒の一時代を築いた酵母。日本酒以外の主力商品としては醸造アルコールとリキュール類だが、中でも「百年梅酒」は人気の商品。

月の井酒造(大洗市):一昨年より元竹鶴の石川達也氏が杜氏として酒造りの指揮を執る。もともとオーガニックの酒を造っていた蔵だが石川氏を迎えたことによりその土地と蔵の環境から授かる酒を目指す。今までの月の井とは異なり、かなり生酛に近い印象。

府中誉(石岡市):大正~昭和にかけて地元でも栽培されていた幻の酒米「渡船」の復活栽培に全国で初めて取り組み成功させたパイオニアの蔵。社長の山内孝明氏によれば「造り半分、詰め半分」と言い、酒を造り搾った後の管理、火入れ、瓶詰の工程にかなり気を遣い、そのための設備も一新している。渡舟濾過前55純米吟醸は山内氏が最も自分らしい酒と言う酒。ちなみに社員の労務管理にも気を配り、高校同期の社会保険労務士が労務管理を行う。

磯蔵酒造(笠間市):地元の水と米を使用し、多くの人との関わり合いの中、伝統手造りによる「技と心」で、米の味と香りのするライスィな日本酒を目指す。本当に地元で愛され多く飲まれている酒。国会議事堂にも使われた良質の御影石(稲田石)の産地でもある。山田錦のバランスの良さとキレを感じられる良酒。浅草に直営の地酒バー「窖」がある。

浦里酒造店(つくば市):6代目蔵元 浦里知可良が醸す新ブランド「浦里」。その名前は明利小川酵母の分離に成功した小川知可良氏にちなんだもの。今回お出ししたURAZATO  PROTTYPEは白麹を使い洋食や中華にも合わせやすい新しいタイプの日本酒を目指した研究醸造によるもの。

武勇(結城市):結城紬の里結城市で三季醸造による酒造りを続ける。敷地内にある深さ約150mの井戸より水を汲み上げ、武勇独自の精密濾過装置を通して一年中安定した量と安全な水質を確保。鬼怒川水系の水が軟水の為、発酵はゆっくりとした低温で進み、きめの細かいお酒となる。辛口純米はキレと旨味の調和した純米らしい素朴な酒。

結城酒造(結城市):全国に女性杜氏は増えてきているが、中でも珍しい嫁杜氏の浦里美智子氏は常陸杜氏第1号の一人でもある。今年の春に失火により蔵が全焼。現在美智子氏は北海道東川町の三千櫻酒造にて蔵人として酒造りを継続。蔵の復活を目指す。赤磐雄町純米吟醸は岡山県産赤磐雄町を100%使用。甘味とコクのある美智子氏らしい酒。通常なら赤い色のラベルだが、火災の際ラベルが水を被ってしまったため、急遽地元の商工会議所が作成したグレーのラベルを一枚ずつ手貼り。

愛友酒造(潮来市):利根川をはさむ水郷地帯の酒蔵。江戸時代には水運で栄えた。創業者の意志「四海皆兄弟」小印の精神を受け継ぎ、多くの人に愛される酒造りを続ける。大生(おおう)神社の神泉「思井戸」は酒づくりに最適なミネラル分を含んでいる。友寿(ともじゅ)五百万石純米吟醸は爽やかな香りとスッキリした後味。愛友酒造三代目当主の名前から名づけられた。

青木酒造(古河市):古河市唯一の酒蔵。元々越後杜氏を招いていたが、2013年より会津杜氏の箭内和弘氏を迎える。劇的な酒質向上で数々の日本酒コンクールで毎年受賞。昭和後期に建てられた5階建ての鉄筋コンクリート造の製造棟は当時としては画期的な構造で、上から浸漬、蒸し、製麹、酛、仕込み、貯蔵の順で重労働を削減、効率よく造りが出来る。御慶事ふくまる純米吟醸は地元の飯米ふくまるを使用。粒が大きく酒造りに適した米。米のふくよかな旨みと、後からほのかに香るフルーティーな香りを持つ、まさに「古河のお酒」。


総論:水系別に2蔵ずつと自分が推したい蔵を2つ、計12種類に飛び入りの酒を加えて13種類を呑み比べてみたが、水系別の明確な特徴は感じられなかった。「酒屋萬流」と言われる通り、酒米と酵母の組み合わせにより蔵ごとに様々な酒が生み出されている。小森先生からご提供いただいた2014年度FBOアカデミーシンポジウムでの研究発表では北部で濃醇、南部で淡麗という傾向があるとのことだったが、今回選んだ蔵の酒を飲んだ限りでは明確な差は感じられず、どちらかと言えば北部が淡麗という印象だった。ただ5つの水系のうち筑波山水系だけが他とは異質で、筑波山を由来とする伏流水については他の水系とは違いがはっきりする(ミネラルを多く含む硬質な水で発酵がよく進み味にキレがある)のではなかろうか。筑波山周辺の地層の構造が大きく関わっていることが予想される。酒蔵も多く残っており、酒造りに適した良質な水に恵まれていることの証左である。

今後もしこのような企画を行うとしたら、地元普通酒での比較、地元の食材との組み合わせで味の違いを探るといったアプローチが考えられる。






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