退職するから、旅に出た ~ 1日目

・前回までのお話

・いざ山陰道、未踏の兵庫区間へ向けて

沓掛のコンビニを出て、亀岡市へ抜ける。
街は完全に眠りについていて、それでも時折見える24時間営業のコンビニや牛丼屋、ガソリンスタンドにラブホテルが、ここにも「夜の生活」があることを教えてくれる。
そのうち、55km/hで巡行すると信号に引っかからないことに気付いたので、右足の仕事をクルーズコントロールに任せる。
京丹波町に入る頃、フロントガラスに小さな水滴が付き始める。小雨ながら天気予報に無かった雨が降ってきた。
雲が厚くなるにつれて、オートワイパーの動きも忙しく、それまで合わせていた大阪のFM放送に乗るノイズも酷くなる。
オーディオソースをラジオから、解約済SIMの刺さっているiPhone4Sに切り替える。転送してある曲は650を超えているけれど、最初に流れてくるのはいつも決まって「あいくるしい」。落ち着いたこの曲調が、深夜の田舎道を走り抜けるにはちょうどいい。
サンルーフから聞こえる雨音と、カーステレオから流れる音楽のミックスに心を落ち着かせながら流していると、雨足が少し弱まってきた。
それならば、街が目を覚ます前に抜けて、その先の道の駅や、仮眠用駐車場でもう少し寝ておこう。幸い福知山市の国道沿いには、仮眠用駐車場の存在を示す看板がポツリポツリと存在しており、そこには自動販売機と、運が良ければ公共のトイレがある。しかも物流トラックなども止めておけるほどの余裕まである。
市街地を抜け、集落を抜けてもなお、鳥取方面側には道の駅どころか仮眠用駐車場すら見当たらない。
ついに時計の針は午前4時を指す。朝日が昇る前には寝ておきたい。
少しずつ、早い朝を迎えた地元民が動き出している。増える車に比例して、焦りが出てくる。それを嘲笑うかのように、雨足が再び強くなる。
どこで止められるのか。このまま兵庫県へ入らねばならないのだろうか。
もうこちら側の車線にはないと諦めて、対向車線側に止めてしまおうか。

そんなことを考えていた、その時。

夜久野トンネル手前だった。こちら側の車線に「P」の文字がある看板を見つけたのは。
工事用の資材置場も兼ねていた場所に、広く開けた駐車スペース。
傾斜はそれなりにあるけれど、止められないよりはましである。
車を止め、助手席側のリアシートを畳み、決して広くはないが一人なら十分寝ることができる空間を作る。
荷室にシュラフを広げて潜り込む。時刻は4時30分。
起きてからの工程を考えながら、気が付いたら眠りに落ちていた。

・出迎えは虹色で

朝8時、周囲のざわつきで目が覚める。
サンルーフに落ちる雨粒は、寝る前からまったく衰えていない。
起き上がって周りを見ると、資材置場に作業員が集まっている。どうやら、朝礼が始まったようだ。
邪魔になりそうな場所ではなかったけど、ここには誰でも用を足せる施設もなかったので、すぐに移動を再開する。
まずは目前の夜久野トンネルを抜ける。トンネルを抜けると、兵庫県はもうすぐそこだ。
兵庫県に入ってしばらく通勤する車、それを見送って買い出しに出かける車と一緒に走っているうちに、雨が弱くなる。時折太陽が雲の切れ間から顔を出したり隠したり。
気まぐれなお天道様を背に受け、ふと山間に残る霧に目をやると、虹が円を描いて浮かんでいる。現象としてあり得ることは知ってはいたけれど、実際に見かけると、なんだか不思議な感じがした。
養父市に入ったところで、信号機が縦になっていることに気が付いた。

https://goo.gl/maps/uvqGz1NsjjvoUaYs5
ああ、ここは真冬に雪が降るんだなぁ。と、信号機ひとつで感じ取れる。
まだ本格的に雪が降る前でよかった。安堵しながら、集落が切れ目なく続く市内を通り抜けると、国道は大きく右に曲がり、八木谷川が削ってできたのであろう急斜面を登っていく。登坂車線へ避けるトラックをクルーズコントロールで制限速度を維持しながら追い越し、それでも排気量3.0Lのトルクを活かして滅多に超えない2000回転を軽く超えて巡行していく。
その登坂車線が終わる頃、視界に大きく右へ、螺旋状に1回転して登っていく橋が飛び込んでくる。

関宮ループ橋と名付けられたその橋を、クルーズコントロールを一時オフに切り替えてハンドルを右に90度回して、アクセルをあわせる。
気が付けば、虹はほとんど見えなくなってしまった。どうやら虹の根本まで来てしまったらしい。
但馬トンネルを一気に駆け抜け、道の駅ハチ北で排水を済まてからは、もう止まらない。
湯村温泉の、雰囲気のいい温泉旅館で、まさにチェックアウトして出発する人をお見送りする宿の方々(特に和服の方々)を見かけて何とも言えない良さに浸りながら、気が付けば兵庫県最後の蒲生トンネルに入る。

・トンネルを抜けると、そこは鳥取県だった

だからと言って、景色は急に変わらない。
ただ谷合をひたすら走っているだけ。
それでも、兵庫とは微妙に道の作り方が違っているとこで、どことなく県が変わったことを実感する。
兵庫は狭い谷合を縫うように峠道を通しているのに対し、鳥取は谷合が少し広いのもあるが、その中でもなるべく曲線が緩くなるように、直線が比較的長くなるように通されている印象を受けた。
ただ、その峠道区間も長くない。すぐに岩美ICから山陰道に入る。
鳥取砂丘へ立ち寄ろうかとも思ったけれど、トンネルを抜けるたびに晴れと雨が目まぐるしく変わる天気に、立ち寄ることを諦めてしまった。
代わりと言ってはなんだが、時刻は午前10時。ちょうど羽田空港から飛んでくる飛行機が鳥取空港に着陸する時間だ。ここなら多少の荒天でも、濡れる心配はない。
空港の駐車場に停め、展望台へと上がる。まだかまだかと待っていると、10分ほど遅れているという館内放送が聞こえた。
展望デッキに出たところで差した晴れ間が、長時間の運転で感覚が麻痺した身体に疲労を思い出させてくれる。確かにまともに寝ていなかったし、各所随分と凝り固まったようだ。
右に左に前に後ろに、運転中に動かせない箇所を念入りにほぐしていると、東の空から飛んでくる機体が1つ。738だ。
東の端から滑走路に入り、可視範囲の真ん中でアスファルトから一瞬白煙が上がる。
飛行機は詳しくないけれど、減速するために逆噴射すると聞こえる、独特のエンジン音が、どこか懐かしい。
西の端、展望台から見切れた転回所から戻ってきた機体を確認したら、到着ロビーに降りる。冬の日本海は、思ったより冷えた。
車に戻ろうとしたら、土砂降りになっていたのは、また別の話。
ここからは山陰道の無料区間と国道9号線で、出雲大社を目指す。
ただひたすらに、まっすぐに。

つづく

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