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コンビニ強盗 with 通訳
(あらすじ)
深夜のコンビニ。そこへ突然、押しかけてきたのは、銃を持った外国人の強盗と、その通訳だった!
(登場人物)
矢野♂:コンビニ店員。ツッコミ属性。29歳。
岡崎♂:コンビニ店員。矢野の後輩。飄々としている。20歳。
トム♂:コンビニ強盗。英語圏の人。27歳。
レイチェル・キムラ♀:通訳。年下好き。24歳。
・コンビニにて。
岡崎:暇っすねえ
矢野:だなあ
岡崎:お客さんも来ないし
矢野:クソ田舎の、それも深夜だもんな
岡崎:何か事件でも起きないっすかね
矢野:バカ、お前、フラグ立てんなよ。万が一、このタイミングで強盗でも来てみろ。俺たち二人じゃ、ひとたまりも……
・店内に銃を持った男が乱入してくる。
トム:Freeze!
矢野:うわあ! 何だ!? 外国人!?
トム:Put your hands up!
矢野:銃を持ってる……! 強盗か!?
岡崎:あーあ、先輩がフラグ立てるから
矢野:お前のせいだろ! っていうか、どうすんだよ!?
キムラ:動かないでください
矢野:は?
キムラ:手を上げてください
矢野:えっと……どちら様?
キムラ:申し遅れました。わたくし、通訳のレイチェル・キムラと申します
矢野:通訳!? コンビニ強盗の!?
キムラ:ここからは同時通訳でお届けします
矢野:マジかよ……
トム:This is my pistol.
キムラ:これは私の拳銃です
矢野:見りゃわかるよ
トム:It's so cool.
キムラ:カッコいいだろ
矢野:知らねえよ!
トム:Collect all the money.
キムラ:ありったけのお金をかき集めてください
矢野:くっ……! レジの中の金はこれで全部だ……
トム:Isn't there more money in the safe?
キムラ:まだ金庫にお金が入っているのではありませんか?
矢野:そ、それは……
トム:I am convinced that you must have hidden money.
キムラ:あなたがお金を隠し持っているに違いない、ということを、トムは確信しています
矢野:そいつの名前、トムなの!?
いや、確かに金庫はあるんだけどさ。俺たちじゃ開けられないんだ
トム:Why not?
キムラ:何故ですか?
矢野:鍵の場所がわからねえんだよ。店長しか知らないんだ
トム:Really? Do something!
キムラ:本当ですか? 何とかしてください
矢野:ああ、店長と連絡さえ取れれば……
岡崎:あ、自分が知ってますよ、鍵の在り処。この前、店長から教えてもらいました
矢野:おいいいい! アホか、お前!
岡崎:どうしたんすか、矢野先輩? 発情期のピグミーマーモセットみたいに興奮して
矢野:どんな例えだよ!? 俺たちが鍵を開けられることがバレちゃまずいんだよ!
岡崎:はあ、そうなんすか
矢野:ったく……店長に連絡するフリして、警察に通報するつもりだったのに…………はっ、しまった!
トム:Did you plan to cheat me?
キムラ:トムを騙すつもりだったのですか?
矢野:あ、いや、その……
トム:I am convinced that the Japanese are very scary.
キムラ:日本人はとても恐ろしい、ということを、トムは確信しています
矢野:いや、銃で人を脅す奴に言われたくねえよ!
トム:Yes,I have a gun.
If you don't want to die,unlock the safe and bring its contents.
キムラ:そうです、トムは銃を持っています。もし、あなたたちが死にたくないという考えを示すのであれば、金庫の鍵を開けて、その中身を持って来てください
矢野:わ……わかった。
仕方ない……岡崎、こいつらの言う通りにしろ
岡崎:はい、先輩
トム:Make it snappy! You son of a bitch!
キムラ:早くしてください。メス豚のお尻の穴からひり出された、ドブのような臭いを放つゲロ以下の哀れな息子たち
矢野:口悪すぎない!? 本当にそこまで言ってる!?
キムラ:意訳です
矢野:直訳でいいんだよ
岡崎:金庫の中身、持って来ました
矢野:ああ。
いくら入ってた……って、何だ、こりゃ?
岡崎:蒲焼さん五郎、五百枚っす
矢野:なんでだよ!?
岡崎:それが店長、また誤発注やらかしたみたいで……バレると恥ずかしいから、金庫に隠してたみたいっす
矢野:あのアホ店長っ……!
トム:Put it in.
キムラ:詰めてください
矢野:はあ?
トム:Put it into the bag.
キムラ:この鞄に詰めてください
矢野:これを詰めろって……どういうことだ……?
岡崎:もしかして、この人たち、日本の紙幣のことがよくわかってないとかじゃないっすかね?
矢野:そうか……じゃあ、これを札束だと勘違いして……よし、詰めるぞ、岡崎
岡崎:了解っす
矢野:…………待たせたな。ちょうど五百万円だ。持って行ってくれ
トム:Thanks.
キムラ:ありがとう
矢野:《わざとらしく》うう、悔しいぜ……十日分の売り上げをみすみす奪われてしまうなんて……!
岡崎:うわ、演技、下手!
トム:My favorite food is Kabayakisan-Goro.
キムラ:トムの好物は、蒲焼さん五郎です
矢野:モロバレじゃねえか!
トム:Anyway,bring money quickly.
キムラ:ところで、お金はまだですか?
岡崎:全然、誤魔化せてなかったっすね
矢野:ガッデム!
キムラ:こんちくしょう
矢野:訳さなくていいから!
岡崎:すんません。ちょっと手違いがあって、もうお金残ってないみたいなんすよね
トム:Screw you!
Prepare the money by whatever means!
キムラ:……
矢野:えっと、あの……キムラさん? トム、何て言ってるの?
キムラ:……はっ! 失礼しました。そちらの店員さんがあまりにイケメンだったので、つい……
矢野:岡崎が……? 趣味悪いな、あんた……で、何て言ってるの?
キムラ:そうですか。なら、仕方がないですね。お手数をお掛けしました
矢野:え? この人、そんなしおらしいこと言ってるの?
トム:If you don't care about it,I'm gonna fuckin' kill you!
矢野:え? これ、トム、ぶち切れてない? 大丈夫? ファッキンとか、めっちゃ聴こえてくるんだけど、マジで大丈夫?
キムラ:お金は諦めるので、代わりに岡崎さんの連絡先を教えてください
矢野:いや、絶対そんなん言ってないよね!? あんたの私情だよね!?
岡崎:急に要求が可愛らしくなったっすね
キムラ:あら、わたくしが可愛らしいだなんて、そんな……
矢野:なんで、あんたが照れてんだよ
トム:Shut up!《発砲》
矢野:ひいいっ! 照明が撃たれた! やばいやばい! あの銃、真物だよ!
岡崎:あれ……? よく見れば、その銃って、スミスアンドウェッソンM49……通称ボディガードっすよね?
トム:You know?
キムラ:わかるのですか?
岡崎:勿論っす。モデルガンの収集は自分の趣味の一つなんで。
いやぁ、真物が間近で拝めるなんて感激っす
トム:It's a young man who has a lot to see when he sees the goodness of this.
キムラ:これの良さがわかるとは、なかなか見どころのある青年ですね
岡崎:ちょっと触らせてもらっていいっすか?
トム:No problem.《拳銃を渡す》
キムラ:お安い御用です
岡崎:くくく……形勢逆転っすね!《銃を構える》
矢野:よっしゃあ! でかしたぞ、岡崎!
トム:Damn it!
キムラ:しまった
矢野:だーっはっはっは! 間抜けな犯人どもめ!
さてと、それじゃあ、岡崎、俺は今から警察に通報するから、お前は……
岡崎:撃っちゃっていいっすか?
矢野:……へ?
岡崎:この犯人、撃っちゃっていいっすかね?
矢野:いや……いやいやいや、流石にまずいだろ、それは……!
岡崎:だって、生身の人間相手に実弾ぶっ放せる、またとない機会じゃないっすか。正当防衛ってことにすれば、余裕でいけるっしょ
矢野:うっ……こいつ、眼がマジだ……!
お……落ち着け、岡崎……! 冷静になれ……! もっとこう、よく考えてだな……
岡崎:あ、そういえば、今日の掃除当番、どっちでしたっけ?
矢野:え? 俺の番だけど……それがどうかしたか?
岡崎:そうっすか
じゃあ、死体の後片付けは任せましたよ、先輩
矢野:おいおい、待てよ……!
トム:Oh my god,help me!
キムラ:神さま、助けてください
岡崎:さよならっす
矢野:やめろ! 岡崎いいいい!
トム:Nooooooooo!!
岡崎:ばーん!
矢野:ひいっ!
岡崎:…………なーんて、ははっ、冗談に決まってるじゃないっすか
矢野:お前の場合、冗談に聞こえねえんだよ、こええんだよ……!
トム:……This sucks.I didn't actually want to do this.
No matter how hard I try,it's too difficult for me to live a normal life in a foreign country.
キムラ:もう嫌です。本当は、こんなことしたくありませんでした。慣れない異国では、どんなに頑張っても、普通の生活を送るのがとても難しいです
矢野:トム……何か止むにやまれぬ事情でもあったのか?
トム:……
矢野:話してみろよ。俺たちでよければ、聞いてやってもいいぜ
トム:Sales clerk A……
キムラ:店員A……
矢野:誰が店員Aだよ!?
岡崎:やれやれ、先輩の悪い癖っすね。そうやって、すぐ誰にでも世話を焼きたがるんすから
矢野:うるせえ、ほっとけ。
で、どうなんだよ?
トム:I was in a bad moodbecause of losing in Pachinko.
It's a pain to work,so I wanted money to play quickly.
キムラ:パチンコで負けて、むしゃくしゃしていた。働くのも面倒なので、手っ取り早く、遊ぶ金が欲しかった
矢野:ただのクズ野郎だった!
トム:I am very sorry now.
From now on,I will change my mind and live properly,
so please forgive me.
キムラ:今はとても反省しています。これからは心を入れ替えてまっとうに生きるので、どうか赦してください
岡崎:いや、そんなんで済むと思ってるんすか? こっちは、照明が割られて損害だって出てるんすよ? 見過ごせるはずが……
矢野:わりい、岡崎! その照明さ、さっきモップ掛けしてるときに手を滑らせて、俺が割っちまったんだ!
岡崎:は? 矢野先輩、何を……
矢野:なあ、頼むよ、店のみんなには、そういうことで口裏を合わせておいてくれないか……?
岡崎:……なんで、そこまでして、そいつを庇うんすか?
矢野:俺もな、今までの人生、順風満帆ってわけにはいかなかったからさ、何もかも嫌になって爆発しちまう気持ちがわからなくもないんだよ。
ましてや、トムは外国人だ。俺たち以上にうまくいかないことだらけだろうよ。
そういったはみ出し者のやるせない思いの丈を、二十四時間営業で、いつでも受け止めて支えてやるのが、俺たちコンビニ店員の、大袈裟に言えば、使命ってやつじゃねえのか
岡崎:まったくあなたって人は…………ふう、わかりました。
その代わり、どうなっても知らないっすよ
矢野:すまねえ、岡崎。無理言っちまって……
岡崎:仕方ないっす。先輩からお人好しを取ったら、あと、耳毛くらいしか残らないっすから
矢野:もう少し残すとこあるだろ!?
キムラ:ああ、素敵……! カッコいいです……!
矢野:おいおい、俺に惚れちまったか? まったく、モテる男は辛いぜ……
キムラ:さっきの、銃を構えた岡崎さんのドSな表情……キュンキュンしちゃいました!
矢野:時間差で感想言うのやめてくれる!? 紛らわしいから!
トム:Excuse me.Somehow I'm hungry.
キムラ:すみません。何だかお腹が空いてきました
矢野:お前も自由だな! ったく、しゃあねえな……店にあるもん、何でも食っていいぞ。俺が奢ってやる
トム:Mr.Karaage,please.
矢野:ミスターからあげ!? いや、言いたいことはわかるけど!
……ほらよ、ありがたく食え
トム:Thank you.
キムラ:ありがとうございます
矢野:美味いか?
トム:It’s delicious.
キムラ:美味しいです
矢野:へっ、そうかよ
トム:I'll never forget the kindness I received from clerk A.
キムラ:店員Aから受けた恩は一生忘れません
矢野:いまいち信用ならねえな!?
トム:Anyway,I have a question.
キムラ:ところで、一つ質問があるのですが
矢野:何だよ?
トム:Who is this woman who has been next to me for a long time?
キムラ:さっきからずっとトムの隣に居るこの女性は誰ですか?
矢野:……は? 何を言ってる? お前の通訳のキムラさんだろ?
トム:I don't know anything about her.
キムラ:トムはキムラのことを何も知りません
矢野:はあ!?
岡崎:トムさんの仲間じゃないとなると、キムラさん、あなたは一体、何者なんすか……?
キムラ:えっと……ただの客、ですかね……?
矢野:ちょっ……なんで、ただのお客さんが強盗の通訳なんてしてたんだよ!?
キムラ:わたくし、翻訳業に携わっている者なのですが、外国語が耳に飛び込んでくると、ついつい通訳をしたくなってしまう性分でして……
矢野:はた迷惑な話だな、おい!?
岡崎:まあまあ、キムラさんがたまたま居合わせてくれたお陰で、こうやって円満に解決できたんじゃないっすか
矢野:そうか? 余計にこじれたような気がせんでもないが……
岡崎:それより、キムラさん、何をお望みっすか?
キムラ:はい?
岡崎:お客さんとして来たんすよね?
キムラ:あっ、そうでした……。その、わたくし、仕事帰りにコンビニでプリンを買うのがささやかな楽しみでして……
岡崎:ああ、プリンならちょうどオススメの商品があるんすよ
キムラ:そうなんですか?
岡崎:《商品を出して》超なめらかプリン。蒲焼さん五郎風味っす
トム:Oh,great! Fantastic!
矢野:トム、めっちゃ食いついてきた!
トム:I have another question.
キムラ:もう一つ、質問があるのですが
矢野:今度は何だよ?
トム:Why am I called Tom?
キムラ:何故、私はトムと呼ばれているのですか?
矢野:知らねえよ!!
(了)
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