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三遊亭圓歌一門内「パワハラ」裁判第1回口頭弁論詳報 1

師匠の三遊亭圓歌さんとの会話を早い段階から録音していた井上雄策さん

 師匠である三遊亭圓歌こと野間賢さんのパワーハラスメントなどを理由として300万円の金員の支払いを求めて民事訴訟を提起した元三遊亭天歌こと井上雄策さんの事件ですが、詳しく調べれば調べるほど、弟子である井上さんの苦悩や戸惑いを感じるものとなっています。
 よく寄席見物をする私の認識では、最初は師匠となる噺家の高座を客席などから聴いてこの師匠ならと弟子入り志願し、師匠と弟子として濃厚な時間を過ごしていくうちに、弟子は師匠の、師匠は弟子の欠点やだらしない点も知るようになるものの、本当の家族のようにお互いを理解するようになるのが噺家の師匠と弟子であると思っていました。おそらく井上さんも歌之介時代の師匠の芸に惚れて弟子入りして濃厚な関係を築きつつあったのでしょう。
 その築きられつつあった関係は2010年から2013年ごろに崩れ始めます。2013年1月27日、居酒屋での歌之介(当時)門下の弟子一同で行った勉強会で、井上さんの弟弟子がシャツを出しっぱなしだったことに、歌之介さんが激怒して店内の板の間に正座させ、見ていられなかった居酒屋の常連客が歌之介さんを諫めたにもかかわらず、歌之介さんは弟子に命じた正座をやめさせようとはしませんてした。
 そして、2017年7月11日、現在は閉店している寿司屋において、歌之介さんは弟子の井上さんら2名を呼び出し、眼鏡をはずさせて顔面を殴打するのです。そして、そのときのやりとりについては、井上さんが音声データとして残していたのです。

師匠とのやりとりを録音する弟子の思いを推察すると

 この事実を知ったときに私はやり切れない気持ちになりました。音声データとして歌之介さんとのやり取りを録音しているということは、井上さんが師匠である歌之介さんとのやり取りのほとんどを録音しているということでもあります。その芸に惚れて弟子入りした師匠との会話を録音しなければならないとき、師匠とのやり取りを録音したものの師匠からの暴力やパワーハラスメントがなかったとき、本当に暴力やパワーハラスメントがあった音声データをしっかりと保存しているときの井上さんの気持ちを察するとやり切れない気持ちになりました。なぜこのような師匠と弟子の関係になってしまったのか、噺の稽古をする時間を削って録音の準備や録音データの整理をする自らの姿に対する様々な思い、そして噺家としての自らの将来に対する不安などの感情が井上さんの心を蝕んだことでしょう。
 師匠による暴力やパワーハラスメントはその行為によって弟子の身体や心を傷付けるだけでなく、それの対策を立てようとしたときの弟子の心も痛めつけていたのだと私は思います。そして、証拠として音声データを提出した2017年から最近に至るまで井上さんはそのような感情と同居しなければならなかったことになります。