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朝木直子東村山市議会議員の議席譲渡を否定した最高裁判所の判決 ~宇留嶋瑞郎著「民主主義汚染 東村山市議転落と日本の暗黒」を読む 1~

民法を学ぶ学生が最初期に学ぶ判例と東村山問題

 近年の司法試験受験生が読む基本書に内田貴先生の「民法Ⅰ」「民法Ⅱ」「民法Ⅲ」があります。この基本書は、民法の条文の順番に学ぶのではなく、「民法Ⅰ」で民法総則、物件総論の順に、「民法Ⅱ」で債権総論を、「民法Ⅲ」で債権総論、担保物権の順に学ぶというのが特長となっています。ただ、私が民法を学んでいるときに流行っていた有斐閣双書は民法総則、物権総論、担保物権、債権総論、債権各論という民法の条文の順に学ぶ基本書でしたし、現在でも民法の条文順に学ぶ講義はかなり広く行われているものと思います。
 条文順に民法を学ぶ学生がおそらく最初期に学ぶ最高裁判所の判例に生活の本拠が住所であるという平成9年8月25日最高裁判所第二小法廷判決があります。この判決が東村山問題を考えるうえで非常に重要な判決であることを知ったときに大いに驚いたのを覚えています。

主文

原判決を破棄する。
平成七年四月二三日執行の東村山市議会議員選挙の当選の効力に関する審査の申立てに対し被上告人が同年九月四日にした裁決を取り消す。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
(略)
2 これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、Dが従前東村山市に生活の本拠としての住所を有していたことは明らかである(記録によれば、同市を本籍地とし、昭和四二年出生以来同市に居住し、本件選挙当時は、母、弟らと同居していたこともうかがわれる。)ところ、Dは、本件選挙の当選人の告示の後、当選を辞退し、次点者のEを当選人とすることを目的として、急きょ、松戸市への転出の届出をしたものであり、同女が単身転出したとする先は、父の部下一家が居住する社宅であった上、その後、わずかの間に、いずれも松戸市内とはいえ、二度にわたり転居の届出をしているというのである。そうすると、仮に、Dが、現実に平成七年四月二六日以降松戸市aで起居し、同年五月二九日以降は松戸市cのマンションを生活の本拠としているとしても、松戸市aの前記社宅は生活の本拠を定めるまでの一時的な滞在場所にすぎず、せいぜい居所にとどまるものといわざるを得ない。
これによって、従前の全生活の中心であった東村山市から直ちに松戸市に生活の本拠が移転したものとみることはできない。原審は、住所を移転させる強固な目的で転出届をしていることを、住所移転を肯定する理由の一つとして説示するが、前示のとおり、一定の場所が住所に当たるか否かは、客観的な生活の本拠たる実体を具備しているか否かによって決すべきものであるから、主観的に住所を移転させる意思があることのみをもって直ちに住所の設定、喪失を生ずるものではなく、また、住所を移転させる目的で転出届がされ、住民基本台帳上転出の記録がされたとしても、実際に生活の本拠を移転していなかったときは、住所を移転したものと扱うことはできないのである。結局、原審の認定する事実によれば、記録に現れたその他の事情を勘案しても、平成七年四月三〇日までに、Dの生活の本拠が松戸市内に移
転し、Dが東村山市内に有していた住所を失ったとみることは到底できないものというほかはない。

平成9年8月25日最高裁判所第二小法廷判決

 この最高裁判所第二小法廷の判決は、次点で落選した矢野穂積さんを当選させるために朝木直子さんがなした議席譲渡を完全に否定するものでした。
 平成7年4月26日執行の東村山市議会選挙に、朝木明代東村山市議会議員(当時)ら政治グループ「草の根」は、所属議員を増やすため、朝木明代さんに加えて、朝木明代さんの娘の朝木直子さん、政治グループ「草の根」の実務を取り仕切っていた矢野穂積さんを立候補させました。選挙結果は、朝木明代さんが2期連続のトップ当選、朝木直子さんが4位当選、矢野穂積さんは落選したものの次点と政治グループ「草の根」の選挙戦略は成功したように思われました。しかしながら、政治グループ「草の根」はそうは考えていませんでした。政治グループ「草の根」のブームとなったこの選挙で落選した矢野穂積さんは前述の二人と比べると知名度や有権者の支持が著しく劣っており、政治グループ「草の根」は、この選挙で当選しなければ矢野穂積さんが東村山市政に関わることは難しいと考えていたのです。そこで編み出した奇策が議席の譲渡でした。そして、その奇策は東村山市だけでなく、草の根市民クラブそのものを不幸に突き落とすことになってしまうのです。