「オープンレター」債務不存在裁判訴状該当部分 呉座勇一さん関連裁判まとめ 3
第4 被告による不法行為~法的措置の予告及び本件通知による威嚇及び侮辱
1 本件各行為
(1)法的措置の予告
被告代理人は、前記ツイッターに以下の通り投稿した(甲20)。被告は被告代理人が下記投稿をするにあたって、これに同意をしているものと考えられる。
「しかし、呉座准教授は、多勢から名誉毀損を受け続けています。呉座は不適切な投稿をしてしまったことを認め、謝罪もしています。それでも、呉座への名誉毀損は、学術的権威による虚偽の烙印とでもいうべきものであり、到底正当化できるものではありません。」
「状況の是正には法的措置を執るしかなく、事情をよく知る私が代理人として関与することが必要と考えるに至りました。」
(2)本件通知書(甲第15)の送付
前記のとおり、被告は、代理人を通じ、2022年2月17日、電子メールを使用し、公開されたメールアドレスに送付する方法で、本件通知を原告らに送り、原告らはこれを目にすることとなった。
通知書には以下の文言があった。
「本件文書には、依頼人の社会的評価を低下させる虚偽の事実の摘示が含まれており、これは名誉毀損として不法行為、犯罪行為に該当します。」
「これら(1)(2)の事実の摘示はいずれも虚偽であり、本件文書の公開及びその継続は、名誉毀損として、差出人及び署名者による不法行為に該当するとともに(民法709条、719条)、名誉毀損罪(刑法230条)の共同正犯に該当します。」
「以上のとおり、本件文書は、差出人及び署名者による名誉毀損であり、共同不法行為、犯罪行為(共同正犯)であって、これによって依頼人は甚大な損害を被っています。その損害を金銭的に評価すると少なくとも100万円を下りません。したがって、依頼人は、まずは貴殿らに対し、本書面到達から1週間以内に、100万円の損害賠償を連帯して支払い、本件文書を削除して書面で謝罪することを求めます。」
「状況の是正には法的措置を執るしかなく、事情をよく知る私が代理人として関与することが必要と考えるに至りました。」
(3)小括
以下(1)ツイッターでの法的措置予告に同意を与えた行為、(2)本件通知書発出行為を合わせて「本件各行為」という。
2 本件各行為が原告らの平穏生活権の受忍限度を侵害するものであるから不法行為にあたること
(1)規範定立
他人の平穏に日常生活を送るという利益を社会通念上受忍すべき程度を超えて侵害する場合には、不法行為責任を負う(最高裁平成22年6月29日判時2089号74頁)。
平穏な生活を営む利益の侵害が受忍限度を超えるか否かは、被侵害利益の種類、被害の程度や、加害行為の性格、被害の防止に関する措置の有無等の諸事情を総合して判断すべきである(最高裁平成6年3月24日判決判時1501号96頁、最高裁平成5年2月25日判決・民集47巻2号643頁)
(2)あてはめ
ア この点、原告らは、被告が、弁護士という法律の専門家を通して、インターネット上において公然と法的措置を予告してきたこと、及び、被告が代理人を通じて本件通知書を原告らに送付し、金100万円の支払を1週間以内に求め、かつ、本件文書の削除を要求したことにより、心の平穏を乱され平穏な生活を送ることが困難になった。
イ 原告らの受けた平穏な生活を営む利益の侵害が純減度を超えるか否かは、以下の事業を考慮すべきある。
① 本件文書の主題は、被告の事件の「背景にある仕組みをより深く考え、同様の問題が繰り返されぬよう行動することを(中略)呼びかける」ことにあり、被告による誹謗中傷事件の背景には「ネット上のコミュニケーション吉規と、アカデミアや言論、メディア業界の双方にある男性中心主義文化が結びつき、それによって差別的な言動への抵抗感が麻痺させられる仕組みがあった」と分析した上で、「中傷や差別的言動を生み出す文化」すなわち「男性中心文化から距離を取るよう全ての人に呼びかけるものであるから、高い公共性、公益目的があること。
② 本件文書は、被告が訴外北村を数年間に亘って誹謗中傷した事実、その他の女性に対して女性差別発言ををした事実を摘示し、歴史修正主義に同調するかのような振る舞いをしたと論評するものであるが、第2で述べたとおり、十分な根拠に基づく記載であったこと。
この点、被告がその他の女性に対して女性差別発言をした事実についても、訴状別紙4「被告投稿記事目録(女性差別関係)」からも明らかである。
③ 他方、被告は、ツイッターに自ら被告投稿記事目録1ないし3記載の投稿をしたのであるから、自らの投稿が本件文書に記載されたように評価されるであろうことは当然知っていた。とりわけ、誹謗中傷の被害者である訴外北村とはすでに和解をしていたのであるから、自らの投稿の評価については自認していたに等しい。
それにもかかわらず、本件文書が公開されて10ヶ月も経過しているのに、原告らに本件通知書を送り付けてきたのである。被告の主張は明らかな言いがかりであった。
とりわけ、被告代理人は、「訴状別紙2被告投稿記事目録1」の②の投稿(甲2の2)が2019年11月8日に投稿されていたことを知っていた(甲21)にも拘わらず、本件通知書には「令和2年3月から令和3年1月にかけて、ツイッターにおける複数の投稿によって北村氏を誹謗中傷したことは事実ですが」と記載しており、あえて事実を異なった記載をしている点が悪質である。
④ 原告らは、法的措置がインターネットで予告され、衆目の下で告知されたことに恐怖と同時に羞恥を感じた。
⑤ また、本件通知書には本件文書の公開行為が「犯罪行為」であるとの記載があったことから、原告自らの行為が刑事訴追に値する行為であると聞かされ恐怖と同時に強い侮辱を感じた。
ウ イ①乃至⑤の事情を総合考慮すれば、被告の各本件行為は、原告らの平穏な生活を営む権利を社会通念上受忍すべき限度を超えて侵害するものであると評価されるべきである。
(3)小括
よって、本件各行為は、原告らの平穏生活権に対する不法行為であると評価されるべきである。
3 本件各行為が原告の名誉感情を毀損すること
(1)規範定立
ある表現がある人物に対して社会通念上許される侮辱行為であると認められる場合には名誉感情に対する侵害として不法行為と評価される(最高裁平成22年4月13日判決民集64巻3号758頁)。
(2)あてはめ
本件各行為が原告らの名誉感情を社会通念上許される限度を超えて侵害するか否かも諸般の事情を考慮して判断されるべきである。
そして、前記2(2)イ①乃至⑤の事情を総合考慮すれば、被告の各本件行為は、原告らの名誉感情を社会通念上受忍すべき限度を超えて侵害する侮辱行為であると評価される。
(3)小括
原告は、本件各行為により、平穏な生活を侵害され、耐え難い侮辱を受けて、強い精神的苦痛を受けた。その慰謝料は金1万円を下らない。
また、原告は、本訴を提起するために弁護士に依頼せざるを得ず、弁護士費用として請求額の1割に当たる金1000円を負担した。
(略)
5 結論
よって、原告らは、請求の趣旨第3項記載のとおり、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、各金1万1000円及びこれに対する不法行為日である2022年2月17日から支払済みまで民法所定年3分の割合による金員の支払いを求めることができる。