見出し画像

スキを語る人たち~有隣堂しか知らない世界~

文房具が好きだ。
元々そんな気質はあったと思うのだけれど、大学に入って更に加速したように思う。理系大学生は基本的に数式が好物なので書く機会は多くなるのだ。

そのうち好物でも何でもなくなるけれど、まあとにかくそういう時期は紙に書く機会が多くなる。

授業のノートを取る筆記用具として、普通はシャープペンシルだけれど、今も連絡を取り合う友人の一人は万年筆を愛用していたし、鉛筆の奴もいた。

その中でも一番ボールペン中毒というか、とにかく理学数学が大好きな友人は使い切ったボールペンを平たい紙箱に入れて収集していたくらい、色んなボールペンを使いまくっていた。

成績優秀な彼は卒業した後、彼の地元の大学院へ進学したけれど、あの空のボールペンの山、どう処理したのだろう。

そんな自分もかなりボールペン、及び文房具は好きだった。そもそも仲は良かったと思っているが、彼とはよく文具の話もしていた覚えがある。
結局、ジェットストリームがすごいけれど、多少引っ掛かりがあった方が好きだとか、そういう話で盛り上がる。理系は基本的に個性的だ。


異常な程ノートを使うので、最安ノートを探す旅も彼とした覚えがある。結局大学で売っているものが一番安かっただろうか、もう忘れてしまった。
他にも雑多文具、定規、付箋……、まあ話し始めればキリはない。

今は時代が違うから、もう紙にもあまり書かないのかもしれない。それはそれで寂しい気もする。


ボールペンについて、自分はゼブラを使っていた記憶があるけれど、SARASAの出方はあまり得意ではなかった。アクロボールを使っている時期もあった気がする。

一番愛用していたのは逆にもう覚えていないくらい安くて、メーカーの詳細を覚えていない。

とにかく安いことと、軽さ。

その微妙な引っかかり具合が好きだった。書くときの引っかかりが少し深いというか、不快感があることによって逆に書いている感覚を感じられるというか。

そんな具合で、文具には興味が元々あったのだけれど、もう文具への深い拘りが薄れてきた頃に、たまたまYouTubeの動画が流れてきた。

それが「有隣堂しか知らない世界」である。

有隣堂は「大型」書店である。神奈川県民は全員もれなく有隣堂が全国展開されている大型書店だと思っているらしい。

ちゃんと調べてはいないけれど、実際は関東圏、東京・千葉・神奈川だったかに店舗を有する書店らしい。
もっとあると思っていたけれど、このYouTubeの盛り上がり方なら全国展開くらい大きい顔してもいいと思う。
自分の地元にも当然のようにあるので、なんとなく親しみが深い書店ではある。

有隣堂本店は横浜の伊勢佐木長者町に存在しており、創業は100年を超えている。歴史ある店だというのは本店に行けばわかるだろう、色々な意味で。

そんな地元民から愛される有隣堂がYouTubeを始めたらしいのだ。それがYouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」である。

先日3周年を迎えたそうだ。

現在登録者数24万人。書店のYouTubeでここまで登録者を集めているチャンネルは他にあるのだろうか。

本当に初期の頃は書店のお堅い動画を出していたが、思ったように伸びず、そこから現在のチャンネルの形になったらしい。


必ず登場しているのがR.B.ブッコローという鳥である。チャンネルのアイコンにもなっている鳥だ。

ブッコローはミミズクで、彼がこのチャンネルのMCになる。
このチャンネルではゲストを呼んで、このミミズクと対話形式で行うのが一般的だ。

この鳥が面白い。
競馬好き、そしてかつては合コン好き、既婚者。

また、このチャンネルが好評になったもっとも大きい理由の一つ、素直で忖度のない鳥であるところが一番の魅力だと思う。


そして度々ゲストとして登場する有隣堂の社員、文房具バイヤーの岡崎さん。
もうこの岡崎さんのことを、視聴者全員が大好きになる。

「文房具王に成り損ねた女」として紹介されているが、これは本当の話で、昔テレ東でやっていたテレビチャンピオンの文房具王決定戦に出ていたらしいのだ。
そこで2位だったか、とにかく好成績で終えたらしい。

そんな彼女、とても常識人ではあるのだけれど、感覚が変わっているところもたくさんある。次の動画でその片鱗を紹介したいと思う。

以下は「油性ボールペンの世界」と題した安価ボールペンの紹介動画である。

個人的にというのもあると思うけれど、このチャンネルのいいところ、すべての要素が詰まっている動画だと思う。
この動画を見てハマる人はハマるし、ハマらない人はとことんハマらないだろうと言えるくらいだ。

もちろん他にも面白い動画があるからここまで登録者数も伸びている。

他の動画の紹介は記事の最後に掲載するとして、この動画がなぜ有隣堂YouTubeの良さが詰まっているか、どういうところが魅力的なのかを書いていきたいと思う。

以下は上記動画のネタバレ(?)も含むので注意されたし。


要はボールペンを書き比べる企画なのだが、冒頭時点で信頼できる言葉をブッコローが発する。

「ボールペンの中で『ジェットストリーム』って抜群に書き味いい」

https://www.youtube.com/watch?v=aohwlZ6h1zo

そうなのだ、安価なボールペンの中で、圧倒的に書き味はジェットストリームなのである。
自分が学生時代に友人と共有していた感覚とほとんど同じだ。もうこの時点でかなり信頼できる。

続けてブレンという(これは自分も知らなかった)ボールペンを使うのだけれど、ブッコローはこれをちゃんと「好きくないなあ~」と言ってしまう。

この時点で笑えるのだけれど、でも本当にそうっぽいのだから仕方がない。別に有隣堂は売る立場なので、文句があれば店に置かないだけである。なんかずるい。

次にアクロボールである。こちらも微妙な反応。
かなり黒い黒さが売りだということで、たしかに黒はそうだけど、「別に……?」みたいな評価。オモロイ。


そしてここからだ。
なんとアクロボールのメーカー、パイロットの営業担当に電話してしまうのである。

ここからのブッコローの絶妙な口調が本当に面白過ぎる。ここの文言やトーンはぜひ動画を見て欲しいが、「社員27名中22名がジェットストリーム派」と言ってしまう素直さである。

電話を受けた営業担当の立ち回りも素晴らしい。
「使っていたの0.7mmですよね?」というところから、0.5mmを使わせて評価させる営業。そして結局素直なブッコロー。

実際に0.5mmを使ったブッコローが好反応だったのを聞いてか、パイロットの営業担当が「ウチが勝ってます?」と聞くのだが

勝ってるとは申し上げにくいな

どこまでも素直である。営業担当がたくさん話してくれているのに。

そしてマニアックさ見えるのがこのチャンネルのいいところである。この動画では、書店ならではの視点から来るマニアックさが見られる。

アクロボールの什器は陳列しづらい

https://www.youtube.com/watch?v=aohwlZ6h1zo

超絶マニアックあるある。自分はここで一番笑ってしまった。

もちろん、あまりきれいに並べられない事情もあって、パイロットの営業担当は説明していたけれど、その説明もしっかり営業になっているのがまたよい。

実際今のアクロボールの什器は綺麗に陳列されているとかいないとか。ここきっかけだとしたら凄い話である。


パイロットの営業担当は良い人だなと思える。

電話が終了し、なんとなくパイロット応援したいな、アクロボールを買ってみようかな、と思える満足感を覚える動画だ。

これだけで十分満足な動画だったのに、オチが凄まじすぎる。


散々これらのボールペンを紹介していた岡崎さんが最後に言い出すのだ。


岡崎さん「でもあんま使わないんですよね」

ブッコロー「え? 何をあんま使わないんですか?」

岡崎さん「ボールペン

https://www.youtube.com/watch?v=aohwlZ6h1zo

めちゃくちゃである。

岡崎さんはこういういわゆるズレている面、天然な面があって面白い。今回のもわざわざ言う必要ないのに。

でもボールペンを使わなそうなのはキャラクターを知れば知るほど、とてもよくわかる。
なんせ、「実用的だ」と、ガラスペンを紹介する人だ。

最後に少しだけ動画を紹介して、この記事を終わろうと思う。


岡崎さんと言えばガラスペン+インクみたいなところもあるので、この動画も初期だけれどとても面白いと思う。

この動画でも登場しているけれど、そういえばこの形態での最初の動画はキムワイプの紹介だった。
これも理系の興味を擽るにはもってこいの材料なのである。


岡崎さんなら、いくつかある対決企画もとても面白い。これは後編なのだけれど、衝撃の文房具が登場する。

岡崎さんの動画以外では学研の人がドラゴンの話をする回も個人的に大好きだ。

もう出版社の人が別の出版社の本を紹介するという、本当にただの趣味の話をしに来た動画になっている。

出演者、ゲストのほとんどが、特定のものがとても「スキ」なのである。それを変だとも思わない、自分のスキに誇りをもって紹介しているところがとても良い。


自己紹介記事でも書いたのだけれど、自分は強い趣味が少ないと言えると思う。
だからこそ、趣味、スキが強い人に惹かれるのかもしれない。


このYouTubeのおかげで文具熱が再燃した、正直に言えば今は少し落ち着いたけれど。やっぱりどうも長続きしないのである。

その頃は丁度ガラスペンフェアをやっていたので、ガラスペンを買ってみた。

学生時代では手の届かなかった無駄なものにお金をかけるという行為をできるようになったのが少し嬉しい。

久しぶりに出したらやっぱり綺麗だし、ちょっと書いたら面白かった。

このアカウント名らしく、ナインティナインのオールナイトニッポンにガラスペンでネタメールでも送ってみようかと、少しだけ考えている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?