退職代行を使ってみたら

俺は2年前に退職代行を使って会社を辞めたことがある。
もちろん辞めたのはブラック企業。
ブラック企業は心も身体も壊すので、今、悩んでいる人がいれば
その参考になればと思う。

2020年、俺は海外で働いて4年目だった。リクルート関連だ。
そこで労働基準法に触れていたし、企業からも求職者からも
様々な相談を受けていた。
日本には多くのブラック企業があるが、その国の日系企業にも
ブラック企業はあった。多くは物流関連だった。
そこで働いていた日本人と付き合いがあったが、心が壊れてしまっている人もいた。
電話が怖い、元上司に似た人を見かけるだけで身体が震えるなどで
次の職場でも似たような状況になると出社出来なくなっていた。
「会社をすぐ辞めるのは良くない」「続かない人と思われる」と
数年我慢してしまった結果、こうなってしまったのだ。

そして2020年末にコロナによる業績悪化で帰国した。
翌年2月から就職活動を開始したが、すでに52歳、数か月後には
53歳になるので状況は厳しかった。
そんな中、ハローワークで紹介された企業が面接してくれるという。
書類選考はなしで、まずは面接するというのだ。
自宅から数キロ、歩いてでも行ける距離の工場だった。
面接官は同年代、同じ地元で同じ知り合いもおり意気投合した。
すぐに最終面接の日程が決まった。
翌週に最終面接をし、その数日後には採用が決まった。
正社員で管理職だった。

勤務初日から研修が始まった。
管理を担当する生産ラインを見学し、作業員に質問、問題点を見つけ
それをレポートにまとめるというものだ。
そこで一つ目の「ひっかかり」があった。
ここは作業員の6割が派遣社員なのだが、最も長く勤めている人でも3か月だったのだ。
地元の工場で昼勤のみで残業もほとんどない、この条件なので若い人が多いのだが、それが3か月もたないのだ。
次がその派遣会社が「名前も聞いたことのない零細業者」だったことだ。
俺の経験からするとこれは「大手から取引停止された」もしくは
「コンプライアンス的に大手と取引できる状態にない」ことを意味する。
雲行きが怪しくなってきた翌週、社員の中にパワハラ体質の奴が二人いた。
一人が俺を面接した奴、もう一人が準管理職の女だった。
この女がたちが悪かった。口の利き方をしらず、自分だけが仕事が出来ると思っている。
こういう社員をそのまま働かせている会社はろくなもんじゃない。
これも経験から言えることだった。
そして決定的だったのが他の管理職が深夜1時、2時まで働いていることだった。
更にこれを異常だと思わず「お前昨日何時まで?俺は1時」などと笑っている。
ここから状況は更に悪化する。
ハローワークや面接時に聞かされていない、担当外の仕事を振ってくるようになったのだ。そして深夜組の一人が飛んだ。
会社に来なくなり、連絡も取れなくなった。
この飛んだ社員への対応も酷く、気遣う声も同情もなかった。
そしてこの飛んだ社員の仕事まで俺に振ってくるようになってきた。
これが入社3週間目だった。
そしてその翌週に決定的な場面を目にする。
ある若手社員、製造ラインにいる社員が報告書を作るために残業するという。
この会社では残業するには事前申請が必要で、彼は上司に申請しようとした。
するとこの上司は「お前の仕事はなんや?モノ作ることやろ!書類作って会社に利益生むんか!考えてからしゃべれ!」と叱責していたのだ。
彼は残業し、残業手当は支払われない。
後にわかることだが、深夜まで残っている管理職たちも
「管理業務には残業手当は払わない」というルールの元でタダ働きだった。

これで俺の心は決まった。
「壊される前に辞めよう。他で働けなくなる。」
帰宅後すぐに「退職代行」を調べた。
業者には「法律事務所系」「労働組合系」「それ以外」があるようだった。
「それ以外」は会社に「〇〇さんは本日付けで退職します」と連絡するだけで、交渉も何も出来ないらしいが、その代わりに安い。
「法律事務所系」は全部任せられるが高額。
「労働組合系」は団体交渉権をもって交渉可能らしく、料金は中間。
会社のパワハラ体質を考えれば、退職連絡後も俺に直接何か言ってくる可能性があったので「労働組合系」を選択した。
業者は熊本の労働組合のようだった。
料金35,000円を払い、組合加入の手続きをした。
すべてLINEでの連絡だった。
実際に辞めるのはこの3日後だ。
翌日は何食わぬ顔で仕事をするも、机、ロッカーの私物をすべて持ち帰り定時で帰宅。
帰宅後にすぐ作業服をクリーニングへ出す。受け取りは翌日だ。
翌日は会社に「体調不良で休みます」と連絡し、退職へ向けての準備だ。
クリーニングした作業服を受け取り、箱詰め、そこに退職届を同封する。
退職届の文面は業者と話し合いながら作成したものだ。
箱詰めが終わったら宅配便業者へ向かう。
翌日朝9時に確実に届ける必要があるため、コンビニなどではダメ。
近所の集配センターに行って手続きをした。
箱に作業服と退職届が入った写真、宅配便の控えの写真を業者に送る。
いよいよ退職当日。
朝から宅配便のサイトで荷物の配送状況を追いかける。
9時前、荷物が届けられたのを確認して業者に連絡、業者からは
「それでは今から会社に電話します」と。
俺は万が一を考えて地元を離れて新幹線で博多へ向かった。
博多はコンパクトで料理も夜の街も大好きだ。
向かう新幹線内で業者から「電話しました。会社側は対応を検討中です」と
連絡が入った。おそらく顧問弁護士に相談しているのだろう。
俺は「相談しても無駄じゃ、ボケ。死ね。」と缶チューハイをあおった。
博多に着き、ホテルにチェックイン、博多駅から中洲、天神へ歩いた。
そして公園で休憩している時に業者から
「退職関連書類は自宅に送ればいいですか?」と連絡が入った。
会社側の敗北宣言だ。
書類は自宅に送ること、手続きの進捗状況を報告することを
業者に依頼して俺の退職は完了した。
コンビニで缶ビールを買い「ざまぁみろボケ。潰れろブラック企業」と
乾杯した。
ホテルまでの帰り道は景色が違って見えた。
「これこれ、これが通常なんだよ。そしてこれから再出発だな」と
関係ないのに博多の無料求人誌を手に取った。
いろいろな仕事がある。
こんなに仕事があるんだからブラック企業で我慢しなくていい。

博多で二泊して帰宅した。
郵便受け、自宅の留守番電話などをチェックしたが会社側から何もなかった。
それから二週間後、源泉徴収票、雇用保険関係などの書類が届いた。
早速ハローワークに行き求職活動を再開した。
と同時に業者に組合を抜けると連絡した。これで終わりだ。
今思えば会社は「社外と電話・メール連絡が出来、ワード・エクセルの経験がある人」なら誰でもよかったのかもしれない。
地元は田舎なのでそういう人材を見つけるのが難しいのだ。

あれから二年ほどが経過した今、俺は派遣社員として働いている。
資格が活きているので時給は地元ではほぼ最高額。
8時17時の残業なし、休日出勤なし、土日祝休み、有給も4日消化済だ。
外部と連絡することはなく、パソコンの前に座ることもない。
なにより一緒に働く社員さん、職人さんが楽しい人ばかりなのが最高だ。
「今日は暑いですねぇ」「腰痛くなりますよね」
なんて言いながら一緒に荷下ろしする毎日が輝いている。

これで俺は一人で暮らすには十分な給料と、趣味を楽しめる心と時間を手に入れた。
こうやってnoteにも書けるようになった。
退職代行料35,000円はとっくに取り返した。

最後に、くたばれブラック企業、くたばれパワハラ社員

以上


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