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『カフネ』〈読者インタビュー〉「どんなに悲しいことがあってもおなかは空くし。だから泣きながらご飯を食べたことがある人にはぶっ刺さる」

2024年の注目作、阿部暁子さん最新作『カフネ』。本記事では、本作を読んで電車内で何度も泣いたという宣伝統括部「S」さんにインタビューを実施しました。

◆『カフネ』内容紹介
法務局に勤める野宮薫子は、溺愛していた弟が急死して悲嘆にくれていた。弟が遺した遺言書から弟の元恋人・小野寺せつなに会い、やがて彼女が勤める家事代行サービス会社「カフネ」の活動を手伝うことに。弟を亡くした薫子と弟の元恋人せつな。食べることを通じて、二人の距離は次第に縮まっていく。

ーー『カフネ』は、それぞれの登場人物の境遇に照らし合わせて「自分と近い」と感じる人が多いのかなという気がしていたんです。この作品には様々な要素がちらばっていて、それが共感される理由かと思ったんですが、それだけでは説明しきれないような気がしていて。そこで「S」さんが『カフネ』にいたく感動したと耳に挟んだのでお話をお聞きしたく。

「S」さん(以下「S」):そうですね。本を選ぶときって、そのとき自分が読みたい本。泣きたいときなら「私、これで泣けるかも」と思って手に取ったりするんです。そういう選び方、ありますよね。

ーーもちろんあります。

「S」:ちょうど私、少し前に大切な人が亡くなっていて。急だったし。準備もできていなくて。それで浄化しきれない思いが残ったままだったんです。

ーーそうでしたか。それは『カフネ』の主人公・薫子と状況が思いっきり重なりますね。

「S」:『カフネ』は、主人公が弟の急死に直面するところから始まりますよね。「大切な人の死がどんなふうに表現されていて、どう乗り越えたのだろう。この主人公は」。そう思って読み始めたんです。

ーーそういう事情があったんですね。ネットギャリー(発売前作品の先読みサービス)に寄せられたカフネのレビューを見ると、「泣けました」というものが多くて。ここまで「泣ける」という感想が次々と寄せられる作品はあまりないので驚きました。それで泣いた人は、この作品のどのあたりがどのように刺さったのか気になっていたんです。もちろん人それぞれ、刺さるポイントはまったく同じではないでしょうが。

「S」:主人公の薫子が子どもが授からなくて妊活をしていた時期があったっていう。そういうのも年齢的にわかるし。他にも共感できる設定が多いんですよね。

ーーたとえばどういうところですか?

「S」:細かいことだから普段の生活では言わなくてもいいけど、だけど本当は心の内で思っていることを書いてくれていたり。みんなが言わずにグッと飲み込んでいることを書いてくれていたり。

ーーそれは僕は気づかなかったです。どのシーンだろう。今の話を聞くと読み直したくなりますね。

「S」:こんな大変なことがたくさん起こる人生の話を書かれているのって、きっと著者の方は生きることと死ぬことをすごく考えたんだろうという気がしました。

ーーはい。

「S」:大切な人をなくす物語っていっぱいありますけど、「その人のぶんまで強く生きていこう!」みたいな綺麗ごとになっていないのもいい。

ーー日々生きるための食べ物を描きつつ「それでも食べていかなきゃいけない」っていう。

「S」:そうですね。どんなに悲しいことがあってもおなかは空くし。だから泣きながらご飯を食べたことがある人にはぶっ刺さる。最初のほうにいちごパフェや豆乳の温かい食べ物が出てくるんですけど、この先そういうのを見るたびに、この物語を思い出しそうだなって。

ーー喪失から再生していくっていう。かんたんにいえばそういう話だと思うんですが。

「S」:そうですね。

ーーもしかしたら僕は「そんな簡単に人は再生できるのだろうか?」と、斜に構えたまま読み進めてしまっていたかもしれません。

「S」:たぶん、再生できないまま生きていってるんですよね?  結局みんな悲しみを抱えたまま生きている。

ーーそうか。そうですね。この物語は。

「S」:でも一人で生きていけないから同じ悲しみを抱えた人と協力して。ご飯を一緒に作ったり。あ、まさに投げ込みチラシにレシピが出てましたね。

こちらが書籍内に挟まれています。
豆乳の温かい食べ物とは「豆乳煮麵」でした。

「S」:私も自分のためには料理をしないけど、家族のためにはするから。

ーー今頃になって本の内容を思い出しながら泣けてきて……。もう一度、読みたくなってきました。

「S」:生きることは食べること。そのメッセージがいろいろ経験している人には、特に響くような気がしますね。

『カフネ』阿部暁子


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