見出し画像

ぼくとしんたろう。②


帰りのホームルームも終わり、下校の時刻になった。

僕の通う楠木小学校は、楠木町唯一の小学校のため、しんたろうの地元が楠木町ならば通っていたことだろう。

ということは、交通事故で亡くなった卒業生がいるということくらいは大人から聞けるかもしれない。


一つだけ問題があるとしたら、

片っ端から大人に聞いて回るのもいいけれど、不審に思われて親に報告されてもそれはそれで困るということ。


運のいいことに、僕のクラスの担任である田中先生はとても仕事に熱心で、生徒の悩みも真摯に聞いてくれる。


一度、田中先生に聞いてみて、知らなければ大人に聞くのは諦めよう。


田中先生には「誰にも聞かれたくない悩みがある」と伝えると、誰もいない空き教室に案内してもらう事ができた。


とは言え、どう聞けばいいものか。


なかなか喋り出さない僕に気を使ってくれたのか、もちろん僕のお母さんにも伝えないからなんでも話して、との事。


その言葉を信じることにして、単刀直入に、楠木小学校の卒業生で交通事故で亡くなった生徒はいるか聞いてみた。


田中先生は一瞬驚いた表情になり、うーんと唸りながら考え始めた。

そうね……、と2,3秒の沈黙のあと、曇った表情のまま聞かせてくれた。


楠木小学校の卒業生がその後元気にしているかさすがに全員は分からないものの、

なんと田中先生は楠木小学校出身で、同級生が高校在学中に交通事故で亡くなったとのこと。

しかも、その同級生とは高校も一緒だったと。


その同級生がまさかしんたろうだとは思わないが、偶然にしてはさすがに僕も驚いた。


でも、どうして?と尋ねる田中先生を背に、僕はなんでもないですありがとうございます、とだけ告げて教室を出た。

まだ聞きたいことは山ほどあった。

けれど、聞けなかった。

それに、胸になにかつまっているかのような、モヤモヤというべきかざわつきがあった。


なにかこう、しんたろうについて調べれば調べるほど、自分が自分じゃなくなっていくような。


帰ろうと外に出ると、風が強く、校門の旗もバタバタバタと激しくうねり、泳ぎたいのにその場にとどめられているかのようだ。

そういえば、今週末は台風がくるんだっけ。


台風明けに遊園地に行こうなんて、母が言っていたような。

そんな年齢でもないんだけどな、まぁたまの親孝行も大事かな、なんて。


風に煽られながら、僕は学校を後にした。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?