ぼくとしんたろう。④
また難しい顔をしてる、しんちゃんのせいじゃないんだから、元気を出して。
二人で信号が青になるのを待っていると、隣に並ぶ“かおり”はそう言う。
気にするな、と言われても気にしてしまうのだから、それこそしょうがないじゃないか。
もし俺が、もっとはやく気付けていたならば。
母は、俺といて幸せだったのだろうか。
そばにいても、見えないものがある。
それを初めて知った。
気付けても、もう遅い。
明日から夏休み。
彼女と並んで帰るこの時間が、好きだ。
中学二年から付き合い始め、もうすぐ四年。
同じ高校にも通えて、考えてみれば二人で下校しない日の方が珍しい。
大事な人、大事な時間。
私はここにいるよ。
横断歩道を渡り出す彼女は、振り向かず、そう告げる。
いつの間にか、信号は青になっていた。
俺も歩き出さなきゃ。
彼女が、どこかに行ってしまう。
そんな気がしてしまうのは、夏の暑さのせいなのか。
慌てて追いかける。
そうだ。
今年の夏は、遊園地に行こう。
来年は受験、彼女と過ごせる、高校最後の夏休みかもしれない。
思えば、母とどこかへ出かけた思い出は、あまりない。
もっと母とたくさん話しをして、色んなところに出かけていれば、少しでも何かが違ったのかもしれない。
そう思うのは、傲慢だろうか。
強い陽射しが、彼女を容赦なく灼く。
俺は急いで彼女の隣に回り、それを遮る。
今度は、間違えない。
彼女のかわりに灼かれながら、そう誓った。
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