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ぼくとしんたろう。③


朝、目が覚める。

やはりと言うべきか、何も覚えていない。


夢を見ないで目覚めたのは、おそらく初めてだ。

ただ、起きてなお、涙がこぼれている。


夢を見たものの、覚えていないだけ。

この涙は、そういうことなのかもしれない。


ガタガタガタと、風で窓が激しく揺れ、今にも割れて粉々になってしまいそうだ。

ここから出してくれと、僕に訴えかけているような、そんな叫びにも聞こえる。


台風がかなり近付いているようだ。

これなら、小学校も休校だろう。


連絡網でそのような連絡がきたか、母に聞いてみよう。


部屋を出て、朝ごはんをつくっているであろう母の元へ移動した。


キッチンから、いい匂いが漂ってくる。

目玉焼きかな。


料理中の母の背に、話しかける。

母は、今日はやっぱり休校だって、と言葉のあとに少し間を置いて、

あんた先生に変な事聞いたんだって?と尋ねてきた。

どうやら田中先生は、母に連絡したようだ。


こうなることも予測はしていたものの、なんて答えるかまでは考えていなかった。

どうしたものか…なんて考えていると、続けて母は




もしかして、しんちゃんのこと?




ドキッとした。

しんたろうのことを、母は知らない。

知っているわけがなかった。

今まで誰にも、話したことがないからだ。


そしてもっと不思議なことに、しんちゃんという言葉を聞いた直後から僕は、涙が溢れて止まらなかった。


それはまるで、今までダムにせき止められていた川が、ダムが決壊し溢れ出てしまったかのような。

溜め込んでいた感情が、解放されたかのようだった。





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