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【ジャーナル】こうちアントレプレナーナイト 連続セミナー #9 猫の殺処分、高齢化、過疎化の3つの課題から生まれたビジネスアイデア

「こうちアントレプレナーナイト」は、高知県内で活躍する先輩起業家を招き、起業までの道のりや苦労話、起業するにあたっての心得など、実体験をもとに紹介してもらう、対話形式のセミナーです。
また、参加者が考えているアイデアがある場合は発表し、ゲストと参加者が一緒に、そのアイデアを磨き上げる参加型のプログラムとしても機能させていきます。


第9回目の講師は、井川愛さん(合同会社Yaika factory 代表)。
『猫の殺処分、高齢化、過疎化の3つの課題から生まれたビジネスアイデア』と題して、起業に至った経緯や事業をどのように組み立てていったのか、といった様々なお話を聞かせていただきました。

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井川愛さん(合同会社Yaika factory 代表)

京都生まれ千葉育ち。大妻短期大学国文科卒業後、就職活動を放棄し半年間カナダへ。帰国後、販売職、OL、イベント運営など、様々な職を経験。2004年から司会事務所に所属し、司会業と研修講師を10年間務める。2011年に結婚。2014年司会業から離職し主婦業に専念。その後、大好きな猫のために「港のネコとおばあちゃんプロジェクト」を立ち上げ、2016年10月、猫のおやつ作りで事業化を目指し単身高知に移住。「第二回高知を盛り上げるビジネスプランコンテスト」で最優秀賞受賞。地域おこし協力隊として1年半活動し、2018年4月に合同会社Yaika factoryを設立。現在、猫のおやつの製造販売を行っている。


現在に至るまで

短大を卒業後、海外へ行ったり、日本でアルバイトや派遣社員など色々な仕事をしたりしましたが「これといって自分がやりたい仕事が見つからなかった」と話す井川さん。
困っているときに巡り合ったのが司会の仕事でした。幼少期の家庭環境の影響から、いつも笑っていられる仕事がしたい、と思っていたことに加え、元々、人を喜ばせる仕事がしたい、という想いを叶えてくれたのが、結婚式の司会者という仕事。常に人の幸せを祝福する空間にいられることを、天職のように感じました。

しかし、仕事を続けていくに従い、高いスキルとレベルの向上を求められ、次第にクレームを恐れ、人の顔色をうかがうようになりました。体調を崩したことをきっかけに退職。結婚していたので、退職後は2年間主婦をしながら、頭の中では、「次に何をしよう。何かやりたい、こんなことはどうだろう」と常に考えを巡らせていました。

そんななか、大好きな猫のために何かやれないか、という想いに至り、2016年に『港の猫とおばあちゃんプロジェクト』を立ち上げることにしました。この事業プランは高知を訪れたことで、ばらばらだったアイデアが一つに繋がりできたプランだといいます。
そして、高知への移住を決め、移住後すぐに応募したビジネスプランコンテストで最優秀賞を受賞。
その後、中土佐町の矢井賀で1年半、地域おこし協力隊の活動を経て、2018年に会社を設立。現在の猫のおやつ事業を行っています。

ソーシャルビジネスとは何か

次に井川さんが話してくれたのは起業前の話。どういう風にビジネスプランを作っていったのか、を教えてくれました。
ソーシャルビジネスという存在を知ったのは、結婚式の司会の仕事をしていたとき。『ドリームガールズ』というプロジェクトを手掛ける温井和佳奈さんの講演を聞き、社会課題をボランティアではなく、ビジネスとして行うことに憧れを抱きました。
そのタイミングで、出会ったフリーライターの今一生さん著書「ソーシャルビジネス50の方法」を読み、大きな影響を受け、今さんご本人に会いにいきました。
自分にはいったいどんなことができるのかと、相談に乗ってもらっている時に言われたことは、「どんな社会課題を解決したいのかがソーシャルビジネスにとっては、まず大事ではある。だけど、どんな課題を解決したいかよりも、まずは、あなた自身はどんな課題を持っているかを考えること」という言葉でした。

井川さん自身は、何の不自由もなく生きている実感を持っていましたが、今さんの言葉を受け、生活している中で、「心を痛めていることはないか?」「不満を持ったことはないか?」「気づいていないだけではないか?」そう何度も問いかけます。
それは、自分自身の困りごとでなければ、課題解決は途中で他人事になってしまうから。こうした意図もあり、自分の課題を見つけることを始めました。
ただ単に不便なものではなく「当たり前に与えられるはずの権利が失われたり、我慢を強いられていたりする。不当な扱いを受けて、本来のあるべき姿になれていないことがあるはず」と伝えられます。

自分の課題は一つの価値

自分の課題を模索しているとき、自分の好きなことも大切にするようにと教わります。動物、特に猫が好きな井川さんは、好きだからこそ、猫の殺処分問題に胸を痛め、殺処処分のニュースなどを目にすると、自分も傷ついて落ち込んでいました。
そして、自分が解決したい課題は大好きな猫や犬の「殺処分問題」だと気が付きます。「猫や犬の殺処分のない世界、皆で小さな命も大事にできる社会にしたい」という想いに至りました。
そして「この世の中には、あなたが抱えている課題と、同じ課題を抱えている人が必ずいる。あなたの抱える課題を解決することで、同じ課題を抱える人を助けることになる」ということを学びます。

自分自身が抱えている課題には価値がある。このことを例として教えてもらったのが『ミライロ』という会社でした。
車椅子ユーザーの経営者は、彼ら自身だからこそわかる視点で、テーマパークのバリアフリーの設計をプロデュースするなど、当事者の課題を価値に変え、事業を行っています。
車椅子が通れる場所は、ベビーカーやお年寄りも行きやすい場所となり、車椅子ユーザーの課題解決が、結果として多くの人の課題を解決することに繋がりました。
この事例からも当事者の抱える課題には価値があることが分かります。

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仲間を集める

その後、猫を中心とした事業をやろうと構想を練っていましたが、既に同じような事業をやっている人の存在を知り、これらの事業が広まっていないことに疑問を抱きます。
猫の殺処分問題の解決に取り組む多くの事業は、猫に興味のある人、猫が好きな人だけをターゲットにした事業内容でした。井川さんは、猫に興味がない人にも広く興味を持ってほしい、と考えました。
そこで知ったのが、『Hoomdoor』の取り組みでした。その会社は、ホームレスに仕事を見つける支援だけでなく、大阪府が困っていた放置自転車問題を掛け合わせた事業を行っていました。
この事例の存在が、猫の問題だけではなく、もう一つ、課題を解決することでより多くの人に知ってもらうことができ、協力してくれる仲間が増えるのでは、とプランを見直すきっかけになりました。

ちょうどその頃、10年以上、老人ホームで生活していた認知症の祖母を亡くし、人生の終わり方について考えるようになりました。
おせっかいで、人のために何かをやってあげることが大好きだった祖母を思い返したとき、年をとっても活躍できる場所、必要とされる場所があっても良いんじゃないか、そう思いました。
その後「猫の殺処分の問題と、高齢化の問題を両方解決したい」と事業プランを再検討します。

猫のおやつを作ろう

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