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【ジャーナル】[Part1]こうち100人カイギ vol.19 アスタ(Yuhei Ogawa)さん(高知大学 農林海洋科学部 森林科 2回生)/石川 拓也さん(写真家/とさちょうものがたり編集長)


2019年1月よりKochi Startup BASEにて始まった「こうち100人カイギ」。
高知の様々な分野で活動するゲストを、毎回5人お呼びして、生き方やその思いについて語っていただいております。全部で100人になったら、終了なこの企画。

今回は、2021年5月25日(火)にKochi Startup BASEでの現地開催とzoomを使ったオンライン開催にて行った100人カイギvol.19で登壇いただいた6名、1人1人の話にフォーカスを当てています。


参加したくても参加できなかった方、この方のお話が聞きたかった、など様々な方に読んでいただければ幸いです。


<こうち100人カイギ vol.19の登壇者>
5名それぞれの話をもっと深く知りたい方は、こちらの記事もチェック!※お名前をクリックすると、その記事に飛べます。

アスタ さん(Part 1掲載)
石川 拓也さん(Part 1掲載)

岸本 憲明さん(Part2掲載)
仙頭 杏美さん (Part 2掲載)


滝野 結公さん (Part 3掲載)
山中 由貴さん (Part3掲載)


1人目の登壇者は、高知大学 農林海洋科学部 森林科 2回生のアスタ(Yuhei Ogawa)さん。

SA705708のコピー

2001年生まれ。高知県出身。
高校2年の時、「遊びたい!」が自分の核であることに気づき、小さな林業に出会う。小さな林業が盛んな高知で、現場と学びの距離が近い高知大学-農林に進学。「いい森ってどんな森?」を探求すべく、集落や林業現場、ときどき土佐清水に行ったり、イベント(解釈の世界旅行、19才)を企画し活動している。全力で楽しむ!がモットー。活動ネームである「アスタ」は4つの段階で進化していくが、今はまだ1段階目であり育成中。


土壌の生成と種の発見

「いい森ってどんな森ですか?」「あなたはどのように生きますか?」と会場に問いかけたアスタさん。植物を例にして、この問いが芽生えた自身の背景について話し始めました。
植物が育つためには土壌、種、そして栄養が必要になります。
まず自分の中の土壌。アスタさんが思春期の頃、同級生との人間関係のもつれがありました。その経験から2つ得たものがあります。ひとつは、自分と他人の区別がきちんとついたこと。自分の考えと他人の考えは違う、自他の区別ができるようになり、自分勝手な期待をしなくなったと言います。もうひとつは、団体活動での集約や後輩を育成する立場になった際の人材育成や組織開発という部分、『教育』に興味を持ちました。
次に、種の発見。高校2年目に入り、進学や就職など、様々な選択肢が広がる中、自分自身はどうしたいのか、と見つめ返ったとき、自分には何かが足りないと感じました。何が足りないのか、考えた末辿り着いた先にあったのは、『遊び』。自然のなかで思い切り身体を動かすといった『遊び』が自分の原動力だということに気づきました。


森林を『遊び場』に

種が発芽するためには栄養が必要となりますが、では、その栄養は何なのか。自分の種である『遊び』を中心に考え、どのフィールドで遊ぶかを考えました。平地、公園はたくさんあるものの、小さい子ども用の公園や遊具しかありません。「ないなら作ったらいい」そう考えたときに、高知県は山や森林に恵まれているので、森林に作ろうと思いつきました。
森林に遊び場をつくるためには、山に対する知識や技術が必要になってくるため、遊ぶ場所を作る手段として、林業に目をつけました。中でも興味を持ったのは、『崩れにくい作業道』を扱う自伐型林業。詳しく調べていくうちに、自分が今後していきたいことのほとんどが自伐型林業で実現できると知り、林業の道に進むことを決意しました。加えて、同じ時期に受験のためのネタ作りとして、以前から興味のあった集落にボランティアにいくことになりました。その経験から、自分の種の核心はやはり『遊び』であり、その根を張るための栄養が、森林、林業、そして集落だと気づきました。
森林、林業、そして集落。これらは今でもアスタさんの中で豊潤な栄養源となっており、今後も自分の成長、そして遊び場の実現に向けて考えを巡らせていきたいと思っています。

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いい森ってどんな森

最初に参加者に投げかけた「いい森とはどんな森ですか」という問い。これは自分自身、答えがまだ見つからず探し続けている問いです。世間一般の林業は、木を育てるための森林。しかし、アスタさんは森林を遊び場と捉えているため、その考えに対してつまらないと感じていました。しかし、「じゃあ自分の理想とする森ってどんな森か」と考えたときに何も答えが見つかりませんでした。林業を志している自分でも答えづらい質問。では林業関係者以外の人が森林に対して考えたり、つながる瞬間はどんなときなのか、と考えたとき、生き方、暮らし方の部分に真理が見えてくるのではないかと気づきました。一般の人が生き方や暮らし方について考えたとき、そもそも森林が結びつかないかもしれませんが、もしかしたら森林と結びつく瞬間があるかもしれない。今の段階ではわからない答えでも、いろいろな人に問いかけし、暮らしと森林の掛け合わせを考えながら問いの答えを探していきたいと言いました。

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アスタという名

最後に自身を「アスタ」と名乗っている由来を話してくれました。スライドに一輪の花を映し、「この花がアスターという名前で、赤色の花の花言葉が変化を好むという意味があり“すごくいいな”と思ったので名乗るようになりました。」と言い、加えてその名に期待している4つの役割を話しました。
一つは、自分のニックネームとしての役割。二つ目は、ブランド名。将来的に林業家を目指しているのですが、第一次産業である『林業』は付加価値をつけてナンボの世界。林業家として、木材を加工して製品なりを作る場合につける名になればいいと思っています。三つ目は、文化そのものを形作るもの。自分自身が森林に対しての思いや思想を作り、この名に文化を与えたいと思っています。そして、最後は継承のため。いつか自分の子どもや自分の思いに共感してくれた人にアスタが考え、思う森林を引き継いでもらいたいと思っています。
最後に参加者に向けて「いい森ってどんな森だと思いますか。あなたは今後どのように生きますか」と問いかけ、自身の話を締め括りました。


2人目の登壇者は、写真家/とさちょうものがたり編集長の石川 拓也さん。

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90年代アジア・アフリカ・ヨーロッパなどを旅し、1996年よりアメリカ・ニューヨークに住む。2002年に帰国、以来東京を拠点に雑誌や広告などの撮影を手がける。2016年8月より高知県土佐町在住。ウェブサイト「とさちょうものがたり」編集長。ウェブサイト:http://ishikawatakuya.com/

半分公務員のフリーランス?

世界を旅した後、東京を拠点にフリーランスの写真家として活躍されてきた石川さん。現在はフリーランスで写真家の仕事を継続しながら、土佐町役場が運用している『とさちょうものがたり』というメディアの編集長も担っています。感覚としては、フリーランスに近いといいますが、土佐町役場の職員として所属もしているため、半分公務員という意識を持って欲しいと言われることもある、と笑って場を沸かせました。
石川さんが土佐町に移住したのは2016年の夏。そこから約5年が経ちますが、楽しい事しかなかったと振り返ります。『とさちょうものがたり』が生まれたきっかけは、土佐町役場内で市町村のオフィシャルサイトとは異なる、新しいウェブサイト作成の話が持ち上がったこと。これまで写真家として活動してきましたが、土佐町から依頼が来たときは、自分を信頼して依頼したのではなく、他にやる人が居なかったからなのでは、と感じていたと当時の心境を語ります。しかし、「メディアのプロではないことを承知の上で依頼をするのであれば」と役場職員に伝え、話を引き受けることにしました。

感覚を伝えるウェブサイト

市町村などの自治体でオフィシャルサイト以外のウェブサイトをつくる場合、よく見かけるのは飲食店や行楽施設の紹介をしているもの。『とさちょうものがたり』が生まれる前段階、石川さんはそのような内容も面白いとは感じつつも、自分がつくるべきメディアはそうではない、と考えました。
それは、東京で写真家として仕事をしていたときの撮影経験が大きな要因でした。情報を伝えるための写真ではなく、そのものの持つ美しさといった、言葉では表現できない感覚を落とし込んでいく写真。自身が持っていた感覚や経験が、土佐町で暮らす人々の美しさやかけがえのなさといった、その場に流れるふわふわとした空気のような、言葉では伝えにくいことをウェブサイトで届けたいといった考えに繋がりました。

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明確化された違和感

東京で仕事をしていた頃は、雑誌や映画のポスター撮影など、芸能界にとても近い場所で活躍していた石川さん。写真を撮る仕事はとても面白く、一生懸命働いていましたが、一方で本当にこのままでいいのだろうか、という違和感もうっすらと感じていたと言います。そんな中明確に変化が起きたのが、2011年に起きた東日本大震災。震災をきっかけに、価値観の変化を自分の中でもごまかせなくなりました。
土佐町に訪れ、山の中で農家さんから直接もらった美味しい野菜を食べたとき、脳が認識して喜ぶのではなく、身体が自然と喜んでいるような感覚に陥りました。そういった感覚を伝えたい。そんな想いが自分の根本には流れており、それは土佐町への移住の決め手でもあったと話します。

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ウェブサイトから広がる活動

もともとウェブサイトから始まった『とさちょうものがたり』ですが、現在は雑誌形態のものが生まれたり、高知市内でイベントが開催されたりと、新たな取組みへと発展していっています。例えば、版画の用にプリントできる、シルクスクリーンという技法を用いた、ポロシャツの作成。これを土佐町や嶺北地方の障がいを持った方の仕事にできないか、と取り組みを続けています。他にも、鹿の角を加工した1点もののおまもりを売る『鹿の角ガチャ』や、カレンダーの作成など、障害者の方の賃金になるようなプロジェクトも広がっています。
ここまでのお話で用意してくださったスライドの半分程度。「あと2時間くらいはなしていいですか?」と笑顔をみせる様子は、土佐町や『とさちょうものがたり』への思い入れの強さを物語っていました。


【総括】

自らの成長を植物に置き換えて話してくれたアスタさん。自身に必要なものを分析し、そのためにどのような動きをすればいいのかといった、若いながらにも自分自身にきちんと向き合っている真っ直ぐな姿勢を感じられました。
たくさんの人との関わりや自分自身の成長で、『アスタ』の文化が拡がっていくのを心待ちにしています。

また、石川さんが東京で感じられていた違和感であったり、土佐町で感じた言葉にできない空気感や、感覚といったものは、目に見えないがゆえにないがしろにされてしまったり、表現することを諦めてしまう場合も多いと思います。しかし、時間をかけながら、言葉にできない感覚を丁寧に切り出しているのだということが、お話からとても伝わって来ました。
メディアだけでなく、普段のコミュニケーションや、関わりの中でも、見習っていきたい姿勢だと感じました。


(レポート:畠中 詩織/檜山 諒)

100人カイギとは 
一般社団法人INTO THE FABRIC 高嶋 大介氏が「同じ会社に勤めていても、1度も話したことがない人がいる」と気づいたことをきっかけに、会社、組織、地域の"身近な人”同士のゆるいつながりを作るコミュニティ活動を始めました。 2016年六本木で「港区100人カイギ」スタートさせたのを皮切りに、渋谷区、新宿区、相模原市、つくば市、雲南市など全国各地へ広がっています。
100人カイギの一番の特徴ともいえるのが、「ゲストの合計が100人になったら会を解散する」ということ。100人の話を起点に、肩書や職種ではなく、「想い」でつながる、ゆるやかなコミュニティを作ります。


問い合わせ
Kochi Startup BASE®️
住所:〒780-0822 高知県高知市はりまや町3-3-3 GAIAビル2階
運営:エイチタス株式会社 高知支社
Mail: ksb@htus.jp
Webサイト:http://startup-base.jp/


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