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【ジャーナル】こうち女性起業家塾『SHE program』第3回: 「事業創造プログラム」


こうち女性起業家塾『SHE program』は、起業を考えている、新しい事業を始めてみたいなど、自分のプランを形にしていきたいという女性を対象に基本的な事業創造手法を学ぶ連続講座として実施しています。

第3回目のゲスト講師は、本山珠里さん(本山印刷株式会社 取締役・Paper message 代表)。事業を始めた背景や、起業して大変だったことや嬉しかったこと、今後の課題などについて、現在進行形のリアルなお話を聞かせていただきました。

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本山珠里さん(本山印刷株式会社 取締役・Paper message 代表)

1976年生まれ。父親の転勤で1999年より高知で暮らす。
2000年より本山印刷株式会社(創業81年)で勤務。印刷を受注して作るだけではなく、もっとたくさんの人に印刷の面白さや紙ものの楽しさを知ってもらいたい、とオリジナル商品の制作をスタートし、2009年に高知でPaper message1号店、2012年には東京吉祥寺に2号店をオープン。
自社工場にて、印刷から仕上げまで職人の手によって丁寧に行なっており、今までに見たことのない紙ものづくりを追求しています。


紙の面白さを伝えたい

元々は事務員として入社していた本山印刷で、3代目のご主人と結婚し、現在は取締役として、そしてPaper messageの代表としても事業を行っている本山さん。

印刷業が縮小し始めた頃、ネットプリントが登場し、高知でも価格競争が起こります。何社かで見積もりを取って、安いところに頼むのが主流となりつつある中で、「自分たちに出来ることは何か?印刷業として、どう生き残っていくか?」と模索をし始めて、何年か悩んだ挙句に行きついたのが『Paper message』でした。
会社にいると、紙もインクの種類も沢山あって選べて、何でもない紙から色んな物が出来ていくのがすごく楽しい、と感じていた本山さん。印刷会社はB to Bが主流ですが、自分発信で紙の面白さを何とかして伝えられないか、というのが事業のスタートでした。


ショールーム的な位置づけの店舗

印刷の面白さを知ってもらえたら、作りたい、楽しいと思ってくれる人が必ずいるんじゃないか、そう思ったことがきっかけで、構想した『Paper message』の事業。
紙の見本を置いて、気軽に印刷がオーダーできる場所にしたい、と始めたものの、お客さんは紙を見せられても、何を作ったら良いか、どうしたら良いか分からない、という反応でした。
そのとき、紙から素敵なものが作れるというものを見せることが重要だと気づいた本山さんは、見本としてアイテムを見てもらえる、ショールーム的な位置づけで商品開発を始めることに。

世の中の大きな文具メーカーは、マーケティングをして売れるもの、人気があるものを基に商品を作っていますが、『Paper message』はそうではありません。
商品開発のベースは、デザイナーが作りたいもの、欲しいもの。実用性がなく、機能的でもない。だけど、かわいくて、私たちがこんなの欲しいよね、と思うものから始めました。

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商品開発の源はお客さん

商品を買ってくれるお客さんから「これの〇〇はないですか?」「このサイズはないですか?」という問合せが徐々に増えてきました。お客さんの反応が見られたり、生の声が聞けたりするのが、実店舗の強みでもあり、商品開発の源です。

自分たちの作りたいものだけ作る、だけではいけませんが、お客さんの欲しいものだけを作ることだけをしてしまうと、ただの文具屋になります。お客さんが欲しいと思う要素も取り入れながら、デザイナーのアイデアを加えて、見たことないものを作りたい、と常に考えています。
いつも、デザイナーと一緒にワーワー言いながら、商品開発をしているイメージだ、と本山さんは笑って話しました。

現在、メインで働いているデザイナーは1人ですが、東京で活躍しているフリーランスが4、5人集まったデザインチームがいます。お給料を沢山支払うことはできませんが、その分、作りたいものを作れる、やりたいことをやれる環境を提供している、Win-Winの関係だと話は続きます。


妄想を繰り返す

Paper message』の事業は、マーケティングをほとんど行っていません。その理由は、デザインや感性に関わることは情報を入れすぎると、真似をしたくなるからだ、と話します。
また、本山さんの事業は、社内起業という立場。同じように起業に関する情報は意識的に入れないようにしています。資料やインターネット上にある記事を読むことよりも、自分が最大の顧客であり、ターゲットだと考えています。

日々、頭の中で仮説を立てて検証して、の繰り返し。
これだ、と思ったらシミュレーションをして、一人でずっと妄想をしています。例えば、子連れの人やデザイナーさんが来たら、こういう人は違うかな、など、こんな風に考えるのが昔から好きだと話します。
本当は、調査をしたり、人に聞いたりすることが出来れば良いかもしれませんが、本山さんが意見を求めるのは、信頼している身近なデザイナーさんのみだそうです。


家族の協力が得られない

事業は、はじめから順調に上手く行ったわけではありません。
当初、組み立てた方向性は、経営していく中で軌道修正していきましたが、根本にある「気軽に紙がオーダー印刷できるようになったら、やりたい人や喜んでくれる人がいる、印刷の楽しさを伝えたい」というベース部分は絶対に変えませんでした。
「確固たる自信を持ってぶれずにやる」と決めているからです。

しかし、現実には、こうした信念を貫くのが難しい状況もあります。
今は成功しているように見えますが、最初に『Paper message』の話をしたときの周りの反応は、良いとは言えないものでした。
会社の役員、社員、家族からまでも「そんなことをやって何の意味があるんだ」と白い目で見られ、協力も得られない状況。さらに同業者からも「本山印刷が馬鹿なことを始めた」と言われていた、と当時を振り返りました。


負けてはいけない

そんな状況から何年もかけて、売り上げやお客さんが増えたり、メディアに取り上げられたり、と実績が出始めた頃から少しずつ周りが理解してくれるようになりました。
新しいことを始めるときに反対されるのは当たり前のこと。
そこでくじけるくらいなら、最初からやらない方が良い、と本山さんは自分の経験をもとに参加者に向けて話しました。

それは、やりたいことをやるためには、それなりの信念と、責任を持ってやり遂げるしかない、ということ。「負けてはいけない」と想いがこもったメッセージを伝え、話は続きます。
実は東京に出店するときも、銀行、会計士を含め、周囲から大反対を受けました。しかし、本山さんにとっては「今しかない」というタイミング。会社に迷惑をかけないように自分の預貯金を出しました。
その結果、東京の店舗がなかったら今はなかった、というほどに事業は成長。もし高知の店舗だけだったら、5年位でやめていたかもしれない、と本音を漏らしました。


説得できるプランを持つ

何をするにしても、一人では出来ることは知れています。だからこそ、周りに協力してもらうことが必要です。身近な人を説得できる、それなりのプランを持つこと。周りの人を納得させられてこそ、お客さんに共感してもらうことができます。
最初は時間がかかる上に、全てを受け入れてもらうのも難しいことです。ですが、一人の人を説得できないと、誰も説得できないのと同じ。そこで諦めず、乗り越えることが大事だ、と今までの経験からのメッセージが語られました。

最近は、売り上げが伸びてきている『Paper message』の事業。最初の目的は「高知の人にお店の存在を知ってもらうこと」でした。
昔は名刺交換をするときも、お店の説明から入っていましたが、今では知ってくれている人が増えていることを本山線はとても嬉しく思っています。展示会に行くと、大手の文具メーカーさんがお店のことを知ってくれていたり、行ってくれたりしたことを聞き、興奮と驚きが止まりませんでした。
大きな企業なら知ってもらえるチャンスはありますが、小さい会社はなかなか覚えてもらえません。自分の会社を知ってもらえていることや、お客さんの生の声は一緒に働いている社員さんのモチベーションにもなっています。


おもしろいものを作りたい

最後に、今後の課題をお話しいただきました。
沢山の課題がある中で、特に大切にしているのが、社員さんとのコミュニケーション。本山さんは、社員を雇い、チームで仕事をすることに社会的な意義を感じています。そして誰かのために、皆に喜んでもらうために、お客さんのために、仕事をすることで大きな力が生まれる、と実感しています。
「一人だったら、『Paper message』もやっていないし、できない」という言葉の通り、関わる人たちのために仕事をするのが、本山さんにとって大事なことであり、周りの人たちが協力してくれていることが支えになっています。

色んなことが起こる毎日、心が折れそうになったり、迷ったり、ぶれそうになることもある、と言います。それでも、頑張れるのは皆がいるから。
社員さんが『Paper message』で働いて良かった、と還元していきたい、という想いを持っています。お店が成長すると、より能力のある人が来てくれて、一緒にものづくりが出来ます。
「お客さんに喜んでもらえるような、もっとおもしろいものを作るのが今の課題です」と笑顔で話してくれました。

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共有の時間
今回は事前課題として行った、プロジェクトシートの発表と共有を行いました。

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受講生のプロジェクトは、子育て中の女性を対象にしたものや、自身の関わる地域の課題を解決するものなど様々。これからブラッシュアップしていく中でどんな風になっていくのか、楽しみな内容のものばかりでした。
全体の共有が終わったあと、本山さんからはヒントになるようなお話や、感想をいただきました。


チェックアウト
最後は、本山さんのお話を聞いた感想や、プロジェクト発表で気づいたことなどが挙げられました。

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総括
 今回は、3回目ということもあり受講生同士の関係性がより一層深まったことを感じました。お互いに声をかけ合ったり、自然な会話が生まれたり、という場面も増えたように思います。ゲスト講師の本山さんの現在進行形の悩みや葛藤が含まれたお話は、響いた部分や刺さった部分が多かったという感想が非常に多く聞かれました。次回以降もどんな雰囲気になっていくのか楽しみです。


(レポート:上野 伊代)


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