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【第12回】地域ビジネス実践ガイドブック

 Kochi Startup BASE®︎では、地域課題解決や地域資源を活用した事業化に向けた基本的な知識獲得と実践に向けたグループワークを行う「地域ビジネス実践講座(全5回)」を開催してきました。

 今回、講座内で使用するオリジナルテキスト『地域ビジネス実践ガイドブック』の内容を全20回にわたって配信します。第12回は、「4.地域ビジネスに求められるマネジメントの視点―03 地域ビジネスにおけるマネジメントの対象」についてご紹介します。

4.地域ビジネスに求められるマネジメントの視点―03 地域ビジネスにおけるマネジメントの対象

 マネジメントの対象は、事業や組織に限定されるものではありません。特に、地域ビジネスの場合はその対象は一般的なビジネスに比べて広い点に特徴があります(図表12)。

【 図表12 地域ビジネスにおけるマネジメントの対象 】

P53_図12_地域ビジネスにおけるマネジメントの対象

①自分自身のマネジメント

 「他人をマネージしようとしたら、まず、自分をマネージできなければならない。」というドラッカーの言葉に代表されるように、マネジメントの最小単位は自分自身です。これはただの格言ではなく、近年の研究でその重要性が指摘されています。

 すべての意思決定を行うのは自分自身です。しかし、多くの意思決定は無自覚なバイアスの上に成り立っていることが知られています。そこで、なぜそれを選択したのか、自分自身はどういう思い込みの中にいるのか、過去の成功体験に縛られ適切な判断ができないなどの問題を引き起こします。

 そこで大切になるのが、セルフマネジメントの存在です。セルフマネジメント研究の第一人者であるジェレミー・ハンターによれば、セルフマネジメントの目的は、「自分のフィルターを外し、より良い結果を導くため」であるとされます(ハンター、2020)。そして、そのためには、自分自身を安定した状態に保ち、心と体の状態をさらに向上、改善させることが必要だとされています。

 先にも述べた通り、自分の内面を見つめ、自分の感情や願望がどこから生まれているのか、今の自分の状態がどのようなものなのかをありのままに受け入れ、そのうえで自分の外の世界に働きかけていくことがマネジメントをよりよく進めるための最初の一歩になります。

 特に地域ビジネスにおいては、セルフマネジメントを丁寧に行うことが、仲間との関係形成はもちろん、事業アイデアの構築、そして、事業への共感を引き出す際に影響を与えることになります。加えて、困難な状況に立ち向かうことで生じる精神面への影響を適切にコントロールする意味においても重要となります。

②事業・プロジェクトのマネジメント

地域ビジネスが対象とする領域やテーマはとても幅広いことが知られています。
 図表13のように、地域での取り組みは、大きく「攻め」と「守り」に分類することができます。

【 図表13 地域サポート活動の3類型 】

P55_図13_地域サポート活動の3類型

 攻めの活動は、価値創造活動と呼ばれるもので、地域に新たな経済的な価値をもたらすための取り組みを指します。地域資源を活用した商品開発やカフェの立ち上げ、体験観光や地域プロモーションなどが例として挙げられます。

 守りの活動は、生活支援活動・コミュニティ支援活動と呼ばれ、生活支援活動は、地域の見守り活動など、地域住民の暮らしで生まれる困りごとをサポートし、日常の生活を支える活動を指します。コミュニティ支援活動は、環境保全や地域のお祭りなど、これまで地域で続けられてきた諸活動へのサポートを指します。

 地域ビジネスというと、華やかな価値創造活動にばかりに注目が集まりがちですが、地域の暮らしは、価値創造活動だけでは改善されません。攻めと守り、双方の活動がバランスよく展開されていることが重要となります。

 したがって、事業やプロジェクトをよりよく運営するという視点に留まらず、自分たちが取り組む事業が地域にとってどういう位置づけや役割を担うものなのか、また、活動する地域においてはどの領域の取り組みが不足しているのかなどを丁寧に見極めたうえで、マネジメントを進めていくことが求められます。

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③チーム・組織のマネジメント

 複雑で困難な課題の解決に取り組むためには、チームや組織として最大限の力を引き出すことが必要になります。

 ここで重要になるのは、心理的安全性の高いチーム、組織を創り出すことです。

 心理的安全性とは、「対人関係においてリスクのある行動をしてもこのチームでは安全であるという、チームメンバーによって共有された考え」と考えられています。具体的には、関連のある考えや感情について、人々が気兼ねなく発言できる雰囲気がある、同僚が見ているところで支援を求めたり、失敗を許したりできる、厳しいフィードバックを与えたり、真実を避けずに難しい話し合いができる、何かミスをしても、そのために他の人から罰せられたり、評価を下げられたりすることはない、と感じることができる状態を指します。

 ここで注意が必要なのは、心理的安全性が高い状態は、単に「仲がいい、雰囲気がいい」という状態ではないということです。つまり、高い信頼関係のもと、目標達成に切磋琢磨できる状態を指します。

 近年、経営学では、メンバー間の関係性の質が組織の成果に影響を与えるという研究結果が報告されています(図表14)。つまり、メンバー間の良質な関係性を創り出すことが結果的に良質な結果を生み出すことにつながるということになります。そのため、メンバーが相互にお互いの価値観を共有し、お互いを尊重し合えるための環境設定を行うことが重要になります。

【 図表14 組織の成功循環 】

P58_図14_組織の成功循環


(第13回へつづく)

ガイドブック ダウンロード方法

こちらのオリジナルテキスト、「地域ビジネス実践ガイドブック」は以下URLより無料でダウンロードいただけますので、ぜひご活用ください。
https://select-type.com/e/?id=q9L-D4oFmnQ
<筆者プロフィール>
須藤 順
高知大学地域協働学部 准教授 / 博士(経営経済学)/ 社会福祉士

専門は、社会的企業論/社会起業家論、コミュニティデザイン論。医療ソーシャルワーカー従事後、医療関連施設の立ち上げ、福祉施設の経営コンサルティングに参画。その後、中間支援機関においてコミュニティビジネス/ソーシャルビジネスのコンサルティング、コミュニティデザイン支援、農商工連携/6次産業化等の支援を担当。(独)中小企業基盤整備機構リサーチャー等を経て、現職。ビジネス・ブレークスルー大学非常勤講師、(独)中小企業基盤整備機構TIP*S人材支援アドバイザー等。アイデアソンファシリテーターのほか、ローカルイノベーション創出、起業家育成、地域づくり、コ・クリエーション創出に向けた実践とサポート、研究を全国各地で展開。
http://www.communitydesign-kochi.jp/

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