説明が足りなさ過ぎてかえって誤解を招く例

凱旋門賞が近づいてきて『いわゆる専門家』という方々による記事も多く見かけるようになりました。

今朝、その一つの記事を目にして胸の中がモヤモヤ、ムカムカしたので吐き出すことにしました。

言いたいことはわかるのですが、説明が足りなさ過ぎてかえって誤解を招きそうです。

この記事では、タイトル通り、『欧州の馬場は本当に重いのか?』について語られています。
凱旋門賞くらいしか欧州の競馬を真剣に見ない多くの日本の方々が持っていると思われる『欧州の馬場は重い』というイメージに切り込んだ記事です。

この問題に関しては長期間の欧州遠征をしたディアドラの橋田調教師の見解が私は好きです。

橋田:筋肉の付き方が少し変わってきた。欧州の競馬に合う形になってきたように思う。
 ――それはパワーの必要な欧州の重い馬場に合う筋肉という意味
 橋田:それは違う。欧州の芝は重くなくて実際は硬いんだよ。ただ、水はけが良くないので、雨が降るとグシャグシャになる。日本で考えられないほどの高低差があるコースだし、低い箇所に水がたまるんだよね。英国は雨の多い国で、それが“重い”イメージを強くしているのかも。
 ――確かに良馬場の前走は日本に近いパフォーマンス
 橋田:ナッソーSの勝ち時計(2分02秒93=参考記録)はレースレコードで、それも過去のレコードより何秒も速いレベル(それまでのレコードは2006年ウィジャボードの2分04秒47)。状態が万全で天候に恵まれさえすれば、あれくらいの末脚が使える馬だし、そのような脚が使える馬場ということだよね。日本馬が英国でも走れることを示したという意味で、価値の高い勝利だった。

平松氏の説明で何がおかしいのか。その1:下り坂を無視

平松氏はロンシャン競馬場の1400mのタイム持ち出していかにロンシャンの馬場が速いのかを印象付けようとしています。
しかし、これはロンシャン競馬場の1400mが下り坂と平坦であるというコース形態を全く無視した暴論です。
馬場の差以前に、下り坂の方が平坦よりも速いのは当たり前ですよね?
ロンシャン競馬場の1400mコースは最初の600mが高低差約7mの下り坂で残りは平坦。
この最初の下り坂が速いんです。
去年の勝ちタイム1分17秒42だったパン賞のレースラップです。
12.46-10.25-10.73-11.20-11.19-11.46-11.33
最初の200mは日本式なら11.3秒ですよ?
信じられない速さですよね。
下り坂で始まるから速いんですよ。
日本でも1400m通過の最速は東京競馬場ではなく、中山競馬場の1600mコースです。
中山の1600mコースはラスト200mを除いて高低差約5mの下り。
1600mコースの1400mまではロンシャンの1400mに近いコース形態です。
トロワゼトワルが2019年の京成杯AHでマイルの日本レコードを記録した時の1400m通過タイムは1分18秒3。
これでもまだロンシャンよりは遅いですが、ロンシャンの1400mコースはさらに非常に緩いコーナーしかなく、中山の4コーナーのほうがきつい。
トロワゼトワルのタイムは、マイル戦、高低差も2m少ない、コーナーでより減速されるというのを考慮に入れればロンシャンの1400m並みのタイムも可能でしょう。
下り坂という大きなメリットが有る為にロンシャンの1400mの時計は速いのにそれを無視するのはおかしい。
ひどい印象操作だ。

その2:レース適性や展開、背景を無視

平松氏は過去に日本馬4頭が2着した時の馬場が重馬場だった事に注目し、さらに速い時計の決着だった2011年と2016年で日本馬が凡走した事を取り上げて、以下のような仮説をたてます。

つまり“時計を要す馬場は日本馬に向かず、速ければ日本馬向き”という単純な構図は成り立たないのではないだろうか。

頭が痛くなってきます。
この方は本当に長年競馬にかかわってきた方なのでしょうか?
そんな単純な構図はそれこそ都市伝説でしょう。
そんな構図は最初からない。
『速ければ日本馬向き』ではなく、『日本の速い馬場と日本のレースペースに日本馬は向いている』
それはジャパンカップに出走する外国馬を見ればよくわかる。

それにナカヤマフェスタは日本でも良馬場よりも重馬場の方が成績がいいことは戦績からわかる。
良馬場の皐月賞で1.4秒差の8着、不良馬場のダービーで0.8秒差の4着。
2010年のジャパンカップで2分26秒1で14着だけど、前の年の宝塚記念の前の東京のメトロポリタンSと同タイムでいかにも速い時計に対応できないナカヤマフェスタらしい。
重馬場が得意で高速決着が苦手なのはわかり切っているのに、そんなナカヤマフェスタを取り上げて日本馬のロンシャンの良馬場を論じるのは間違っている。

さらに良馬場で言えば、2014年の凱旋門賞では日本馬はハープスターの6着が最高でしたが騎乗ミスによるところが大きい。
詳しくはこちらの方々が述べています。

良馬場で結果が出ていないのは事実ですが、競馬は様々な要因が影響を及ぼす。
それらを無視して都市伝説的な構図を語るのはどういうものか。

その3:結論には同意する

その後のグダグダとした『2400mで欧州馬が強い』を説明するのにドバイでの日本馬の2400mの成績が1800mよりも悪い事には半分同意。

元々、同じ洋芝でもドバイの方が香港よりも路盤が柔らかく、香港よりもドバイの方が時計がかかる馬場で函館や札幌よりも欧州のヨークやドーヴィルに近い。

ドバイの1800mで勝った日本馬は全て2000m以上でのG1実績がある馬で『時計のかかる欧州並みの1800m』でのスタミナが足りていたのだろう。
2400mでもシュヴァルグランなどの中山2500mや京都3200mで実績のある馬が上位に来ている。
ただ、それでも1800mに比べて勝ち切れていないのが、日本の2400mが欧州に比べて軽くて欧州レベルでの2400m距離適性に劣る馬でも勝てるという事。
つまり、ドバイや欧州の2400mを考えた場合、日本の2500m以上を高いレベルで走れる能力が必要だ。
ただ、日本は3歳春の東京2400mを勝つことを目標に生産、育成されているので、2500m以上を走れる馬を意図して生産しておらず、結果として2500m以上を走れる馬の層が薄い。
日本の2400m馬は欧州やドバイの舞台では2400mはスタミナや持続力に欠けるところがあると言える。

逆に言えば、ジャパンカップで欧州馬が活躍しようと思えば欧州で2400mより短い2000mで結果を出している馬を連れてくるべきだ。

外国馬がジャパンカップのスピードについていけないのはそういうところもある。

平松氏の結論である以下の見解には同意する。

つまり凱旋門賞制覇を考える時「この馬は重い(と言われる)馬場に適性があるか?」と考えるよりもまずは「この馬の実績、実力で果たして2400メートル戦でも通用するのか?」を考えるべきだと個人的には思うのである。

ただ、補足させていただくと、「この馬の実績、実力で果たして欧州の2400メートル戦でも通用するのか?」と言った方がより近いのではないか。

欧州馬のように『重馬場だから回避します』ができない日本馬ではサトノダイヤモンドのような重馬場が苦手な馬は重馬場になり易い凱旋門賞には連れて行くべきではないが。

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