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Wide Uncoveredとスリップストリーム

前置き

ホープフルSの自分なりのレース分析を書こうと思ったのですが、どうしてもWide Uncoveredとスリップストリームについて書かないと話にならないと思い、今回の記事です。

それというのもですね、GⅠをたくさん勝った元騎手の安藤さんがこんな事をおっしゃっていたらしいんですよ。
『直線で伸びず5着に終わった1番人気ミッキーカプチーノについては「抜群の位置取り。3角手前で手応えなくなって、ちょっと解せない負け方」と評価』

いやいやいや、それは違うんじゃないか?
安藤さんの騎手としての実績は素晴らしいモノがありますが、あれはWide Uncoveredという不利ですよ。
以前から日本と海外で先頭を走ることの考え方の違いを感じていたのでここで自分の考えをハッキリさせておきます。

スリップストリーム

陸上の中長距離走、スピードスケート、自転車競技、フォーミュラ1、どのスポーツを見ても風の影響は大きい。
先頭を走り後続の風よけになるのが不利だということはよく知られているはずです。
スケートの団体パシュートや、ロードレースの「トレイン」などは、スリップストリームの使い方が勝敗を左右するほど効果が大きい。

フォーミュラ1などのモータースポーツでよく聞く『スリップストリーム』というのは、

『前走車との距離が近ければ近いほど効果が大きい。 90km/hで走るトラックの後方を乗用車が走った場合、車間距離30mだと、燃費改善率が11%になるというデータがあるので、これがひとつの目安となるだろう。 ただし、90km/hで30mの車間距離というのは近すぎる』

これは競馬にも当てはまります。
日本語の記事がないので英語圏から参考に

スリップストリームは最大で66%も空気抵抗を減少させる


上の写真が空気抵抗を減少させるいい例です。

『Science has shown that when two horses are racing in front of one horse, drag of the training horse is reduced by 66 percent』
2頭の馬の後ろを走る馬の空気抵抗は66%減少する。

その他にも縦一列の空気抵抗

愛チャンピオンS2021


『When four horses are racing in a row one behind the other, the drag of the last horse is reduced by 54 percent』
4頭の馬が写真のように縦一列に並んだときは最後尾の馬の空気抵抗は54%減少。


『When two horses are running with one closely behind the other, the drag of the lead horse is reduced by 6.5 percent while the drag of the trailing horse is reduced by 38.5 percent』
2頭の馬が前後にくっついて走っていると前の馬の空気抵抗は6.5%減り、後ろの馬の空気抵抗は38.5%減る。
逃げ馬とその後ろの番手の関係ですね。
欧州でよく見るペースメーカーと本命馬の関係ですね。
わかりやすいのがシンダーの凱旋門賞。

先頭を走るペースメーカーの後で空気抵抗を減らしてじっくり溜めて直線抜け出す。
日本だと今年の皐月賞のイクイノックスージオグリフですね。
あれは外枠で前に馬を置けずに前に行ってしまったイクイノックスの後ろに『偶然』同厩舎のジオグリフがおさまってその恩恵を受けたレース。

『In a situation where five horses are side by side, the drag of the centre horse actually increases by 25 percent』
これは直線レースや新潟外回りに見られる状況ですね。
横に5頭が並んで走るとその中心の馬の空気抵抗が25%上昇する。

車でも時速90キロのトラックの後ろを走った乗用車の燃費が車間距離30mで11%、3mでは39%も改善されるとのことです。

競走馬のスピードはだいたい時速50~70キロ。
ハロン11.0秒で時速65.4キロ。
車の例を考えればすぐ後ろはもちろん、5m位離れていても空気抵抗は軽減されるでしょう。

つまり、前に馬を置くことで、空気抵抗が減り、体力の消耗も少なくできるという事です。

さらに馬の場合は今回のミッキーカプチーノのように気性面の問題も有ります


馬を無理やり抑えても機嫌を損ねたり走りのリズムを悪くしたりと気性面に問題のある馬は前にフリースペースがあると自分の好きなように走りたくなります。
特に幼い2歳馬はレースに勝とうとか、今回どのくらい走るとか全く知らないので基本は自由に走りたいのです。
それを前に馬を置いたり、馬群の中に入れて馬の集団で走る習性を利用して折り合いをつけさせるのです。
大外枠で前に馬を置けずに外の先頭に出てしまったミッキーカプチーノ君。
2000mずーっと前で風を受け、しかも内側から3列目で距離ロスも大きい。

日本では走行距離が出ないのでオーストラリアのコックスプレートを例にとると、外を周って追い込んで勝ったリスグラシュー(11枠)の走行距離は2089m。
2枠から内ラチ沿いを逃げたマジックワンドの走行距離は2078m。
11mも違う。
その距離ロスを無効にするのが馬の後ろにつけることによる空気抵抗減と燃費減。
より長く距離を走ることにはなるが、後ろで燃費をおさえられたので体力は先頭の馬より残っているから後半にスピードをだせるのだ。

それが外側を走って内側の馬よりも余計に距離を走り、さらに先頭で風も受け続けていたらどうだろうか?
とんでもない不利だろう?
そんなことをしたミッキーカプチーノに「抜群の位置取り。3角手前で手応えなくなって、ちょっと解せない負け方」はないだろう?
そりゃー外で風を受けながら余計な距離を走ったらスタミナ消耗して手ごたえもなくなるだろうよ。
ミッキーカプチーノはそれでも5着と良くがんばったよ。むしろ見直したよ。

Wide Uncoveredという不利

香港やオーストラリアでのレースアナライズにはよく出てくるのがWide Uncoveredという不利。
例えば今年の香港ヴァーズのブルーム

右端の白い帽子がブルーム

香港ではレースインシデントレポートとうのがあります。
『インシデント』というのは「好ましくない事件や状況」という意味です。

そこでハッキリとブルームは外を走ってカバー(風除け)がなかったよ、というのが好ましくない状況として報告されています。

先頭を走って逃げるのにはいくつか有利な点があります。
内ラチ沿いの最短距離を走れる事。
自分のペースで走れるてレースの主導権を握れる。
馬場のいい場所を優先的に走れる。

それが3列目以降外側の先頭だと余計な距離を走り、自分のペースでなく逃げ馬のペースにあわせないといけない、いい馬場も選べないと何もいいことがありません。


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