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3月20日の夢

「今日の0時に死ぬ人」が選ばれる。
私は選ばれた。

ビルからの脱出ゲームで脱落した人から選ばれる。
せっかく友達が逃してくれようとしたのに
グズグズしてたらゲームオーバー。
参加者は何百人。
まさか自分が、なんて思って少しも怖くなかった。
自分じゃない誰か、だと思ってた。
自分だった。

今日の0時に死ぬ。
今はお昼過ぎ。
ガラス張りの大きな建物。
社員さんに扮して中へ。
人の服は全員
青と白と黒。
その色がガラスに反射して綺麗だった。
差し込む光も反射して
光る洞窟みたいだった。

今日の0時に死ぬ。
今は夕方。
共演者数名と船に乗り街の間を流れる川をゆらり。
川の周りは高いビルだらけ。
窓が全部夕日で光っていて眩しかった。
夕日だけど赤じゃなくて
紫の世界。
一人が「あれは何色?」と聞くと
一人が「あれは紫の19番」と答えた。
私は手元のカラーチャート表を見ながら
紫の19番を探した。

ここで初めて私は死ぬ事が嫌になった。
余りにも目の前の色が綺麗で
世界に反射する色が綺麗で
これがあと数時間後には見れないのかと
そこで初めて泣いた。

今日の0時に死ぬ。
あと3時間。
沢山の女の子達とご飯。
彼女達は私が選ばれた事を知らない。
明るい彼女達は皆生き生きしていて
楽しそうでパワフルだった。
刻一刻と迫る時間。
ご飯を食べ終えた私は唐突に
どうしようもなく怖くなって
玄関で発狂した。
叫んで耳を塞いで蹲って。
泣いても何も変わらない事に苛立って
どうしようもなく怖くて泣いた。

何も知らない彼女達は驚いていたけど
私を笑って楽しそうだった。

残り30分。
母は今どこかと尋ねた。
寝ているよ。
急いで寝室に向かうと
気持ちよさそうに母が寝ていて
尋ねた私に気付いてくれたけど
その瞬間、起こして申し訳なくなって
一言話して母はまた
気持ちよさそうにベッドに消えた。

残り10分。
恋人の声が聞きたくて
泣きながらボタンを押した。
仕事中なのはわかってたけど
出てくれる、出て欲しいと
ずっとかけ続けた。
一人っきりでいなくなる事が怖くて嫌で
せめて声だけでも誰かに傍にいて欲しかった

声を聞くことはなかった。

残りあといくつ?
部屋で一人消えるか
せめて雑踏でも人に囲まれて消えるか
悩む私はもう泣いてなくて
争うことの出来ない時間を受け入れていた。

もうあといくつかで
色も音も何も感じなくなる
私は消える
それだけが残っていた。

体はまだ生きてるし
そこにあるのに
魂がもう先に抜けたような
空気だけが入って形作っている感覚だった。

今日の0時に私は死ぬ。

そこで目が覚めた。
起きた。

感情がリアルな夢を見ると
起きてもそれがあったことの様に
まだ錯覚しているから
世界を認識するのに時間がかかる。

私が見ていた事は夢だった。
私は起きれた。
私は生きていた。

嬉しかった。
生きている事が嬉しかった。

目に映る色を一通り口に出す。
夢の世界ほど美しくは映らない。
それはあれが夢でフィルターがかかっているのと
私がまだ生きていて
これらの価値に気付いてないからなのかな。

たかが夢。
夢の話ほど人に話してつまらなそうにされるものはない。
でも私は見た夢を覚えているし
嫌な思いも沢山するけど
夢の世界が好きだ。
色々なヒントが転がっていて
現実では見れないものを見せてくれる。

この夢も、誰かの想像力のヒントになったら
見て書いた甲斐があるってね。

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