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【ハワイアンズ】ステージに咲き誇る「笑顔」の花・ラウレア美咲の、引退とその後

昨年9月に引退した「元フラガール」の小室美咲さん。かつてスパリゾートハワイアンズのダンスチームでキャプテンを務め、現在はそのハワイアンズで広報担当として働いている。そんな彼女の山あり谷ありのダンサー人生を辿りつつ「引退後」の心境などについて話を伺った。(文中、一部敬称略)

※今回は、取材のためにスパリゾートハワイアンズに宿泊費用などをご負担いただきました。


第18代キャプテンのラストダンス

  2023年9月23日、土曜日。ひとりのダンサーが、この日のステージを最後に引退した。

  ラウレア美咲。本名、小室美咲。
  ハワイアンズのフラガール「スパリゾートハワイアンズダンシングチーム」に所属するフラダンサーで、チームの第18代キャプテンでもある。

  引退当日は、深夜からの雨が昼前まで降り続け、日中はどんよりした曇り空。そんな悪天候にも関わらず、多くの人たちが、彼女のラストダンスを見ようと集まった。昼夕夜のショーは、すべて満席。合わせて5000人近くの観客が、ラウレア美咲の最後の「晴れ舞台」を見守った。

  最後のショーでの彼女は、大輪の花のような笑顔を絶やさず、ステージいっぱいに渾身のダンスを披露。踊り切った瞬間、その表情が少し崩れたものの、観客の前で涙は一粒も見せることはなかった。

 ラウレア美咲は、最後の最後の瞬間まで「プロ」として、そのダンサー人生を貫いたのだ。

  ーーーあの日から、半年が過ぎた現在。

「最後のダンスの動画は、まだ見ていません。きっとこれからも見ることはないと思います。踊り終わったら、ステージのことはもう、まったく振り返ったりしませんでした。はい。悔いはありません。びっくりするくらい、ないんですよ」

  そう言って、屈託なく笑う”素顔の小室美咲”が、そこにはいた。

  ダンサー引退後、彼女はハワイアンズに残り、現在、運営会社・常磐興産株式会社の一社員として、広報を担当している。

「いままでは自分の身体で表現する仕事でしたけど、これからは言葉で表現するような仕事がしたいなって。そんな希望を伝えたら、いまの部署に配属されることになったんです」

  引退した翌日から1週間だけ休み、その後、1か月間の社会人研修を受け、すぐに広報としての仕事がスタート。「いまだに勉強中です。もう、毎日あせりまくりなんですよね」。そう言って彼女はまた、とびっきりの笑顔を見せる。

東日本大震災〜新型コロナ、厄災続きでも輝く笑顔

  小室さんは、茨城県北茨城市の出身。高校からは隣接する福島県いわき市の学校に通い、大会に出場するためにフラ同好会を創設。そんな少女にとって、ハワイアンズのダンスチーム「フラガール」は憧れの的だった。

  2011年、東日本大震災の発生でハワイアンズは、やむなく休館。フラガールの新規募集も一時ストップした。が、募集が再開すると同時に応募して、見事に合格。翌12年7月、初舞台を踏んだ。

  それからのダンサー生活は、決して平穏なものではなかった。

  当時の福島は、復興とは程遠く、風評被害も絶えない状況。そんな逆風のなかでフラガールは「日本中に笑顔を届けよう」と、全国各地でキャラバン公演を実施。地震や豪雨の被災地などを巡って踊り続けた。

  2019年、彼女は第71代のソロダンサーに選出され「幸福・平和・友情」を意味するハワイアンネーム「ラウレア」を授与された。

  しかし、その翌年の2020年、新型コロナが全国に襲いかかる。ハワイアンズもその猛威から逃れられるはずもなく、休館を余儀なくされた。
  それでも彼女たちフラガールは、無観客の客席に向かって踊り続け、YouTubeにその動画を投稿。「日本中に笑顔を」届け続けた。
 
  そして、2021年。ラウレア美咲は、ダンスチームのキャプテンに就任する。新型コロナの爪痕が日本中にまだまだ色濃く残る時期に、約40人のメンバーを率いるという重責を担ったのだった。

  まさに波乱万丈、苦難の連続。たび重なる厄災に見舞われながらも、つねに前を向いて明るく踊り続けてきたその姿は、多くの人びとの記憶のなかで、きっと生き続けていくはずだ。

「新しい世界」への挑戦の日々

  いま、小室さんは、ひとりの広報担当者として、かつての後輩メンバーが踊る姿を見ることが少なくない。

「みんな、すごいなぁって。そんな目線で見ています。私ホントに、この同じステージで踊っていたのかなぁ、なんて。なんだか信じられないような気持ちになるんですよね」

  今でも踊ろうと思えば踊れる。でも、踊りたいという気持ちにはならない。フラガールのOGたちにも「絶対にまた踊りたくなるよ」と言われたりするが、まだそんな気持ちにはなっていない。

  きっと、ステージの上でやれること・やりたいことは、すべてやり尽くしたのだ。「たぶん、燃え尽き症候群みたいな感じだと思うんですよね」と小室さんは苦笑する。

「裏方というポジションで、ステージに寄り添えるのは、やはりうれしいですね。たとえば、ダンスが少し乱れたりした時は、ダンサーの気持ちが乱れている時。そういう時に、なにかの力になれればって思います。ダンサーたちが開花する瞬間に立ち会えたらいいなって」

  その一方で、広報担当者としての役割も少しづつ広がっている。

  ハワイアンズが定期的に発信するニュースリリースの作成をはじめ、昨年12月からは、FMいわきでラジオ番組のパーソナリティとして、ハワイアンズの魅力や楽しさを発信。念願の「言葉で表現する」という仕事に携わるようになった。

「まったく新しい世界での新しい挑戦です。一から覚えなければならないことばかりなので大変なんですが、少しずつ仕事の楽しみ方を見つけはじめているところです。そうですね、毎日とっても充実していると思います」

   現在もまだハワイアンズの館内には、ラウレア美咲がキャプテンだった頃の「痕跡」が、そこかしこに残っている。
  ショーのはじまりを告げるアナウンスの「声」。
  館内のあちらこちらに掲示されているダンサー時代の華やかな「姿」。
  ラウレア美咲は、小室美咲は、いまも、たぶんこれからも、ハワイアンズを語る上で欠かせない「伝説」のようになっていく存在なのかもしれない。

  昨年の、あの引退セレモニーでの最後のスピーチを、彼女はこう締めくくっている。

「私の大好きなハワイアンズが、そしてこのステージが、たくさんの希望と愛にあふれ、幸せな場所であり続けますように! ありがとうございました!」

  そうなのだ。どこにいても、なにをしても、きっと彼女は変わらない。訪れる人たちやフラガールの後輩メンバーたちに、そして日本中の人びとに笑顔を届けるために、大好きなハワイアンズを支える「新しい世界」での仕事を楽しみながら、これからも明るく軽やかに踊り続けていくに違いない。

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