らくごはん(4)

「長短」 まんじゅう

気が短く、いかにも江戸っ子気質の短七さんと、
気が長いというか、のんびり屋の長さんは幼なじみ。
性格は真逆のふたりだけどなぜか気が合う。
今日も短七さんの長屋に、長さんが訪ねてきておしゃべり。
だけど、気が短い短七さんは、長さんのしゃべり方もゆっくりで、
一向に核心に辿りつかない話にイライラ…。
お茶請けにまんじゅうを出せば、そのスローな食べ方にまたイライラ…。
煙草の吸い方にもケチをつける…というのが、主なあらすじ。

落語はすべての登場人物をひとりの噺家が演じ分ける芸だ。
衣装やメイクが変わるわけでもなく、声とちょっとしたししぐさや姿勢で
短気な男になったり、のんびり屋になったりする。
落語の面白いところは、この演じ分けをするときに、
とくにそんなに声色を変えているわけでもないのに、
自分の脳内に広がる世界では、完全に女性であったり、老人であったり、
小坊主、武士…それに花魁にもなる。時代劇や本などで知識はあるものの、
その見せる世界は「よく知っているもの」「自分もここで生活している」と思わせる。この鮮やかな色彩はなんだろう? と、ときどき考える。
遠い遠い、それこそ生まれる前の記憶にスイッチが入り、
見せている映像ではないか? と思うこともある。
まぁ、それだけ上手い噺家の言葉は映像的であり、
想像の世界を広げてくれる。

「長短」の見どころ、聴きどころは、
すべてにせっかちな短七さんとマイペースの長さんの対比だ。
江戸っ子のべらんめぇ調で早口にしゃべる短七さん。
語尾を伸ばして、ゆっくりゆっくり溜めに溜めてしゃべる長さん。
そのわかりやすいコントラストが楽しく、笑いを誘う。

わたしが好きなのは三遊亭歌武蔵師匠の「長短」。
元関取という異色の経歴を持つ歌武蔵師匠。
相撲の「物言い」のアナウンスの真似が得意で、よく披露してくれる。
師匠も短気な短七さんと、気の長い長さんを
テンポよく演じ分けていくわけだけれど、地声が低く体の大きな師匠は、
どちらかといえば長さんのイメージ。
とくにまんじゅうを食べるシーンが可笑しい。
1個のまんじゅうを、いつまでももっちゃもっちゃと食べている。
短七さんじゃなくても、イラぁ〜っときてしまうようなのんびりさ。
「まんじゅうなんて、ひと口かふた口で
ぱくっと食っちまいなよ」と言いたくなる。

ふたりが食べたまんじゅうは、どんなまんじゅうだろうか? と想像する。
わたしのイメージは塩瀬のおまんじゅう。
白い柔らかな皮の中に、しっとり重めのあんこがどすんと詰まった、
ザ・おまんじゅうという風情のおまんじゅう。

いまだに力士なみの体格を持つ師匠だから、
本来ならきっとひとくち。
いや、2,3個だってひとくちで食べてしまいそう。
そんな師匠が、小さなおまんじゅうを、もっちゃもっちゃと
いつまでも食べているしぐさが可笑しくて、けらけらと笑ってしまうのだ。



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