たい焼きと冬の空。
たい焼きは冬の季語。
いや、本当はどうか知らないけれど。
でも夏の暑い日よりも、
ちょっと寒い日のほうが似合うと思う。
乾燥している冬の晴れの日。
空はハチミツを薄く溶かしたような、淡い光で包まれている。
日が暮れれば、イッキに冷え込むだろう。
そんな日こそ、たい焼き日和。
パーカの上にマフラーをぐるぐる巻きして、
ポケットに手を突っ込み、
急ぎ足で、そのたい焼き屋さんを目指す。
並んでいる列が少ないといいなと思う。
同じく老舗の和菓子屋さんの角を曲がると列が見える。
今日はそんなに多くない。
斜め前のタイ料理屋さんも美味しい。
店先にはあんこも売っていて、あんこだけ買うお客さんは、
列に並ばなくてもいいことになっている。
たい焼きはお土産に包んでもらえるし、
その場で食べることも、
お皿にのせて店先で食べることもできる。
「一匹ね。お店で食べます」
「10コください」
「5匹持ち帰りで。あと1コ食べます」
それぞれのひとが、それぞれの数のたい焼きを求め、
列は流れていく。
さてわたしの番。
「2尾ください」
手際よくお店のお姉さんが包んでくれる。
もちろん焼いたばかりで熱々。
バッグの上のほうにつぶれないように入れて店を出る。
帰りも早足。
帰り道の途中の駅の横にある小さな公園に行く。
子どもを遊ばせているお母さんや、
サークルの仲間同士らしい大学生などが、
思い思いの時間を過ごしている。
グレーの土の上には、赤や黄色の落ち葉。
葉を落とした木々は、ちょっと寒そう。
ねずみ色に暮れかけた空に、黒いシルエットをつくる。
自動販売機で小さなお茶のペットボトルを買う。
両手で包み込むと、じんわりと温かさが伝わってくる。
頬にもつける。あったかい。
運良く空いてるベンチをみつけて腰をかけ、
バッグから鯛焼きの包みを取り出す。
うん、まだまだあったかい。
まずはお茶をひとくち。
そして、ぱくっと頭からかじる。
残酷といわれようとも、たい焼きは頭から。
甘じょっぱいあんこの味。
んん〜〜〜〜。おいしい。幸せ。
お店や家に持ち帰って食べるのもいいけれど、
外で食べるのがいちばん好き。
こんな寒い日ならなおさら。
気がつくと前のベンチには、近所の高校生らしきカップル。
女の子は近所のお嬢様学校の制服。
いいですね、青春ですね。
ふたたび、たい焼きをぱくり。ぱくり。
お茶を飲んで、ふっと息を吐く。
ぱりっとした尻尾まで食べて、ごちそうさまでした。
はぁ、美味しかった〜。
空は薄墨の流したような、夜の色へと変わっている。
マフラーを巻き直して、さて帰りましょう。
バッグの中には、たい焼きがもう一尾。
夜食にしようか、朝のおめざにしようか。
そんなことを考えながら、歩いて帰る。
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