とんびとの攻防戦

とんび。

風に乗り、高く空を舞い、円を描く。
ときどき、ピーヨロロロと鳴く。

優雅だ。

しかし、しかし、やつらは増長している。
人間の食べるものを奪うことに味をしめている。
カラスのようにゴミを漁るのではなく、とんびは奪う。
マヌケな人間をあざ笑うがごとく。

やつらの主戦場は海岸だ。

砂浜やコンクリートの堤防に腰掛け、雄大な海を見ながら、
「何かを食べたい」という人間の心理をよくわかっている。
空の上から機会を狙い、まさに食べようとした、その瞬間を逃さない。
手にしたおにぎりを、からあげを、サンドイッチを、そしてアイスクリームまでを、音もなく急滑降してきて、後方から奪い去っていくのだ。

ドンッ!
手元に強い衝撃。
「な、な、なに?」と慌てて、手元を見るも、
やつらはすでに高く舞い上がっている。
その足にはしっかりと、わたしが食べようとしていたおにぎりや、からあげ、サンドイッチやアイスクリームを握っているのが、遠目からもわかる。しかし、人間には傷ひとつ与えない。
そのワザは見事としか言いようがない。

「くっ、やられた…」という悔しさ、食べ損なった未練の気持ちが渦巻く。そして周囲に人がいた場合の恥ずかしさ。
「海岸でモノを食べるなんてシロートめ」と、
たぶん近所に住むひとは思っていると思う。
そして「こういうヤツがいるから、とんびが味をしめて、被害があとを断たないのだ」とも。
ごもっともです。反省。申し訳ない。

しかし、わたしが幼少〜学生時代には決してそんなことはなかった。
浜辺にレインボーカラーのビニールシートを敷いて、
家族で食べた、母親お手製のおにぎりやからあげ。
高校時代は、ときどき学校をさぼり、
海に降りる階段に座ってお弁当を食べたり、
放課後にマックのハンバーガーを友人と食べながら恋バナをしていても、
とんびに奪われることはなかった。

この攻防戦にはもう勝てないだろう。
だって、とんびは「奪う」喜びを知ってしまったから。

きらきらと輝いていた子どもの時間、
そして青春の日々よ、さようなら。

とんびは高く高く、空へと舞い上がる。
わたしの感傷的な気持ちさえも持ち去っていく。


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