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フェリーでうどんを食べる

瀬戸内海の風景と空気が好きで、
高松を中心に、ここ数年、何回か通っている。

高松に行くと必ず船に乗る。最低でも往復1回。
直島や豊島、男木島、小豆島といった周辺の島々や、岡山の宇野などへ。

もともと船に乗るのが好きなので、高松の港から船に乗り、
ぽこぽことした島影を見ながらの船旅は、楽しいひとときだ。
瀬戸内海は波も穏やかで、そんなに揺れることもないので、
どんな船でも船酔いをしたことはないのだけれど、
やはり大きなフェリーが、ゆったりとしていて好きだ。

港の乗り場で切符をおじさんに渡し、トラックや乗用車が
がこんがこんと船の奥に入って行く横の通路を歩き、
急な階段を上って船室へ行く。もちろん海の風景を見たいから、席は窓際。
冬でなければ、さらに上のデッキも気持ちがいい。

フェリーは振動をあまり感じない。
これから始まる船の時間にワクワクしているうちに、
いつの間か離岸している。

船の種類によってはない船もあると思うが、
港を出たら、まず行くのは売店。もちろん、目当てはうどん。

高松にはたくさんのうどん屋さんがあって、
本当にどこも美味しい。
朝うどんならあのお店へ。
美味しい鳥天なら、あそこのお店、
夜、ちょっと〆に食べたいなら…と、行くたびに贔屓のお店も増えてきた。

フェリーのうどんは、そういったお店とはちょっと違うけれど、
高松に来たら、やっぱり絶対に食べたいもののひとつだ。

クルマを置いて、船室に上がってきたドライバーのひとたちも
次々とうどんを注文する。
天ぷらうどんは人気が高く、すぐ売り切れてしまう。
だしのいい香りともあんもあんとした白い湯気。
手慣れた手つきで、おばちゃんが器にうどんをよそってくれる。
1日、このおばちゃんは何往復するんだろうか?
どこか島の出身かもしれないなど、勝手におばちゃんの人生を想像する。

クルマではないので、
ドライバーの方々には申し訳ないと思いつつビールも注文。
昼間というか、まだ朝だけれど。まぁ、旅ですから。
プシュっという音に、気持ちも弾ける。

トレーで自分の席まで器を運び、
割り箸を割って、さて、いただきます。
もっちりとコシのあるうどん。
つゆの温かさが、のどから胃のほうまで広がっていく。

窓の外には、静かな波と名前もわからない小さな島々の風景。
顔をひねって、空を見上げれば、風に乗ってカモメが舞う。

うどんはあっという間に食べ終わってしまい、
トレーと器を売店に戻す。
「ごちそうさまでした」

席に戻って、残ったビールを飲み、やっと、ひとごこち付く。

観光シーズンでないと、
平日の朝でもなく、昼でもない便は人が少なく、結構ガランとしている。

周囲のドライバーは、運転から解放された短い時間をムダにせず、
椅子に横になって仮眠をとったり、
ワイドショーやドラマの再放送を映すテレビのモニターを眺めている。

おしゃべりするひとも少なく、静かな時間が流れていく。
ドライバーたちの眠気が、船室全体にうつったように、空気もゆるやかだ。

とくに何をすることもなく、ただ景色を見ている。
海を。
島を。
空を。
風を。

近くを。
遠くを。

考えることも放棄して、ただ見ている。
どこへ行くのかさえ、忘れてしまう。












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