崎陽軒のシウマイ弁当とシュウマイ

先日、ある雑誌の特集が「旅」と「お弁当」で、じっくりと読み込んでしまった。北は北海道から、南は九州まで(沖縄にもきっと美味しいお弁当があるはず)の、地元の食材を利用した美味しそうなお弁当の数々にうっとりとした。ごはんの上にど〜んと乗った大きな牛肉、飾り気がなく頑固一徹といった感じのイカめしや牡蛎ごはん、キレイに整列した穴子弁当、彩りも美しく上品なちらし寿司、老舗のお料理屋さんの昔ながらの折り詰めなどがズラリ。小さな箱の中に、美しさ、楽しさ、美味しさを詰め込んだ日本のお弁当文化は、本当に素晴らしいと思う。これらのお弁当を、移動する電車の中や、その土地の風景の中で食べることが出来たら…と想像するだけで、とても幸せな気持ちなる。

紹介されているお弁当に、優劣など全くないが、でもあえて、語りたいのが横浜が誇る崎陽軒のシウマイ弁当。それは自分にとっては特別なお弁当だ。
死ぬ前でも、死んで三途の川を渡るときでもいいが、ひとつだけお弁当が選べるとしたら、きっと崎陽軒のシウマイ弁当を選ぶと思う(母親の手作りは除外だが、順番から行ったらたぶん食べられない)。シウマイ、まぐろの照り焼き、筍の煮物、鶏の唐揚げ、かまぼこ、玉子焼き、紅しょうがに切り昆布、デザート(?)のあんずまで、本当に完璧。一切のムダなし! ごはんは硬めで、冷めているからこそ美味しいと思える。木のふたについた、一粒のごはん、黒ごまさえも愛おしい。出張でも旅行でも、新幹線に乗って西へ向かうときは、シウマイ弁当と決めている(ときどき、“深川めし”にも浮気しているけれど…)。

と、ここまで語っていてなのだが、崎陽軒のシウマイがシュウマイとしてベスト オブ ベストという訳ではない。個人的には崎陽軒のシウマイはシウマイ弁当の中でこそ輝くのであって、シュウマイ単体としては、あくまでも“フツーに美味しい”という位置づけなのだ。

崎陽軒のシウマイは、具がぎゅぎゅっと締まっていて小粒なので、ボリュームの点ではイマイチ。そして帆立が入っているせいか、あまり肉々しくはない。シュウマイだけで食べるのなら、ひき肉は粗く、脂の白っぽい部分のある肉々しいシュウマイが好み。できるなら、ひと口では食べられないくらいの大きさであって欲しい。白い皮の中に包まれた“肉”のうまみと脂を感じたいのだ。神保町の揚子江菜館や日本橋の小洞天のシュウマイは理想形に近い。というか、これらが基準になっている。

春に茨城の水戸に行ったとき、上野駅の構内で小洞天のシュウマイが売っているのを見つけた。もちろん、即買い。これにはごはんは不要。おてふきとお箸をつけてもらって、いそいそとコンビニにビールを買いに行く。

上野駅を電車が出たと同時に、ビールをプシュッとあける。シュウマイにはやっぱりビール。誰にも文句を言わせない組み合わせ。流れる風景にときどき目をやりながら、大きなシュウマイを箸で割り、口に運び、ビールをごくりと飲む。「ああ、幸せ」と思う。
シウマイ弁当もシュウマイも、その魅力は異なるけれど、旅のお供として最高なのである。

乾杯。 


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