西への旅はシウマイ弁当。

少し長い列車での移動のときは、必ず食べ物を買う。
朝早い新幹線なら、サンドイッチと甘いパンとコーヒー、
もしくはおにぎり2個と唐揚げなどが入ったおかずセットにお茶。
朝はビジネス客が多く、不思議と大体みんな行動が同じ。
席に着くとお弁当を食べ始め、そして食べ終わるとパソコンを出す。
着いた先での会議やプレゼンで使う資料を確認しているのか、
メールのチェックと連絡なのか。とってもいまどきな風景だなと思う。

もう少し遅い時間の出発のときに買うのは崎陽軒のシウマイ弁当。
東京駅の崎陽軒の売店は、東海道・山陽新幹線の乗り場とは
ちょっと離れた東北新幹線の乗り場も突っ切ったほうにあるので、
時間がギリギリだったりすると、かなりあせる。
それでもやっぱり崎陽軒のシウマイ弁当を持って新幹線に乗りたいので、
小走りで売店まで行って買い、また乗り場に戻り、
発車のベルを聞きながら新幹線に駆け込んだことも何度かある。

このお弁当にはファンも多く、それぞれに愛が語られているけれど、
本当に駅弁としての完成度が高いと思う。
少し硬めの白いごはん。シウマイ、鶏の唐揚げ、マグロを焼いたもの、
かまぼこ、卵焼き、そして忘れちゃいけない竹の子の甘く煮たもの。
この竹の子の煮物が小さい頃から大好きで、
これだけを食べたいという気持ちがあるものの、
いや、やっぱりこれはシウマイ弁当の中にあるから美味しいんだ…という
気持ちとで、いつも葛藤している。

そうそう、箸休めというか、デザート的に入っている
干しあんずもシウマイ弁当の愛すべき存在。
どのおかずが欠けてもダメ。
そして、これ以上なにか付け足す必要もない。
完璧な布陣。

シウマイ弁当は冷めているからこそ美味しい。
美味しいお弁当はいくらでもあるけれど、
そこが大きな違いだと思う。

正直にいうとときどき深川めしに浮気をしている。
でも、やっぱり本命はシウマイ弁当。
ごめん、本当に愛しているのはお前だけだ。
とくに京都や大阪、西のほうへ向かうときは、
なぜだかこれでなきゃという気分になる。

東京駅を出るとともに、前の座席の背に備え付けられている
テーブルを出し、シウマイ弁当とお茶、
仕事ではないときなら断然ビールをセットする。
ひもをほどき、龍が描かれた黄色い紙とはずし、木のフタを取る。
おなじみのおかずと白いごはんが並んでいる幸せ。
木のフタの裏についたひと粒のお米さえ愛おしい。
きっとこの瞬間のわたしの顔はにまにまと、
気持ち悪いくらい笑っていると思う。

食べている間に品川を過ぎ、そして新横浜にも着く。
シウマイ弁当よ、キミのふるさと横浜だよ。

このとき、品川や新横浜から乗ってくる乗客が窓際の席だと、
テーブルを上げなきゃいけないので、
できる限り窓際の席を取るようにしている。
もちろん景色が見たいのもあるけれど、
この至福のお弁当タイムを邪魔されたくないのだ。

食べ終わったら、ゴミをまとめて袋に入れ、
ワゴン販売のコーヒーを買い、
座席のポケットに入れておいた文庫本を取り出し、
少しだけリクライニングの椅子を倒し、
iPodにイヤフォンを挿す。ここで旅スイッチもオン。

窓の外には海が見えてくる。
いくつもの川を渡り、トンネルをくぐり、新幹線は西へ西へ。
おなかもいっぱい。本も読みたいけれど、
いつのまにかうとうと寝てしまうのがお決まりのパターン。
移動する時間に身を委ねる心地良さ。
旅する幸せのとき。

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