電車おやつ。

神奈川県にある海辺の小さな街で生まれ育った。
いちばん近い都会は横浜で、ちょうど電車で30分。東京までは1時間。
小さい頃は横浜に行くことも、ちょっとしたお出かけだった。
それらの都会へ運んでくれるのは紺とクリーム色の電車。
4人がけのボックス席だったので、
小さな子ども3人と両親だとちょうどいい感じだった。

駅は改札を抜けると広めの通路があって、そのまままっすぐに行くと、
「裏駅」と呼ばれていた小さな改札のある側に出た。
その横には海沿いを走るグリーンと黄色の小さな電車の改札があった。

通路から左右に分かれる階段を上ると、真っ正面にキオスク。
そこで何かを買ってもらうのが、”おでかけの日”の恒例行事だった。
とはいっても、買ってもらうものは、いつもほとんど同じ。
森永のハイクラウンのチョコレート、
ペンギンのイラストが描かれたロッテのクールミントガム、
そしてペプシコーラ。それを兄姉と分け合って食べた。
ハイクラウンのチョコはいつも黄色。
ガムは酔い止めの意味もあったと思う。
友人の中には「コーラ禁止」という家もあったけれど、
うちの母親はコーラが好きで、それもペプシ好きだった。

電車に乗ると窓際に座る。
窓の下の小さなテーブルにお菓子とコーラを並べて置く。
横浜、東京までの景色はとりたてて面白いものはないのだけれど、
ずっと外を見ていた。
その頃なぜか母親は「遠くの緑を見なさい」と言っていた。
これも、電車酔いをしないためだったのかもしれない。

チョコを兄姉で分けあって食べ、次にガムを嚙む。
ガムの銀色の包み紙で脚のついたカップを作って、窓際に並べた。
コーラは炭酸がきついと飲めなかったので、
少し時間が経った頃にもらった。

その頃はまだ切符の時代だったので、
切符に印字してある数字を足したり引いたり、割ったり、掛けたりして、
10にする遊びもよくした。
これはずっとクセになっていて、
いまだに4桁の数字をみるとついやってしまう。

そんなことをしているうちに、電車は横浜に着く。
おでかけ気分も盛り上がってくる。
お昼は髙島屋の食堂かな。
元町に行くなら喜久屋でケーキ買って欲しいな。
崎陽軒のシウマイは帰りにお土産にするのかな。
中華街に寄ったらアーモンドのクッキー。
山下公園にはアイスのお店出ているかな。

わくわく。わくわく。

おでかけの日はおいしい日。

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