らくごはん(10)

 「茶の湯」 利休まんじゅうという名のご隠居創作菓子 

「ちりとてちん」と同じく、「知らない」と言えないひとの噺。 
落語には、知ったかぶりのひとが出てくる噺は多く、
「転失気」や「やかん」「千早ふる」なども
「知らない」が言えないことで、出任せを重ねていく問答や
とんちんかんな騒動を描いている。

さて、この「茶の湯」はというと…。
ある大家の旦那が隠居して、根岸に引っ越してきたが、
毎日することがなく退屈で、何か趣味を持とうと考える。
そこで思いついたのが「茶の湯」。
しかし、細かい作法や使うものがうろ覚え。
「知らない」が言えない性格のご隠居さん。
小僧の定吉に「茶の湯では、青い粉が必要だ」と言って
買い物に行かせるが、定吉は「青きな粉」を買ってくる。   
ご隠居さんは本当のことがわからないため、
「そう、それだよ」と青きな粉でお茶を点てようとする。
点て方はもちろん我流。茶釜の中に青きな粉を入れ、
茶碗にそそぎ茶筅でかき混ぜてみる。
「はて、茶の湯では泡が立ったような…
そうだ、茶の湯では何か泡の立つものが必要だった」とご隠居は
ふたたび定吉を買い物に行かせる。
泡の立つもの…と、定吉が買ってきたのは、
当時洗剤として使われていたムクの皮の粉。
これを茶釜に入れると、ぶくぶくの泡が立ち、
「これだ、これだ」と喜び飲んでみるが、ふたりともお腹を壊してしまう。しかし、間違っているとも思わないふたりは、
茶の湯をしてはお腹を壊すをくり返す。

ご隠居は相手が定吉ばかりではつまらない。
他のひとにも自分の茶の湯を披露したいと、茶会を開こうと考える。
招待されたのはご隠居の持つ長屋の連中。
「茶の湯の作法なんて知らない」と夜逃げまで考えたりとひと騒動。
こちらもうろ覚えの手習いの先生の真似をすればいいと、
しぶしぶ茶会へと出かけていく。
そこで出されたのが例のお茶。口に含んで七転八倒。
作法もあったものじゃない、まさに地獄の茶会となる。

その後もひとを呼んでは茶会を開くご隠居。
お茶はひどいけれど、お菓子は上等なものを出していたので、
それ目当ての客が出てくる。
となってくると、今度はお菓子代がかさみ、
ご隠居はお菓子を手作りすればいいと考える。
さつまいもをすりつぶし、糖蜜を練り込み茶碗に入れて、
型抜きしようとする。しかし、型からうまく抜けないので、
今度は茶碗に行灯用の灯し油を塗る。
ご隠居考案の「利休まんじゅう」の完成。
茶会のお菓子としてふるまうが…と話は続いていく。 

知らないが言えないご隠居の自己流茶の湯がもたらす騒動。
今だったら、なんでもインターネットで調べられる時代。
それこそ若い定吉がスマホを取りだし、
Googleで「茶の湯 道具 やり方」で検索。
「あ〜、ご隠居、茶の湯には抹茶ですね。釜にいれるんじゃないッスよ」と、教えてくれるかも。
そしてご隠居とふたりでYouTubeの動画を見て、作法を学んだり…。 

正しい知識が必要なこともあるけれど、
その正しさが足かせになる場合もあると思う。
 特に趣味の世界は。 

ご隠居は自己流だからこそ、茶の湯が楽しくて、
誰かまわず呼んできてはふるまいたかったのじゃないだろうか? と思う。お菓子代の支払いがかさんだら、自作のお菓子を作る。
型から抜けないと思ったら、油を塗ってみる(灯し油だけれど)。
この創意工夫こそが、ご隠居にとっての楽しさなんじゃないだろうか。

正しいやり方を知ったとして、ご隠居は茶の湯に魅力を感じただろうか?

とりあえず「ググれ」とか「調べてからやれよ」とか、
そういうことを言われない時代で良かったですね。ご隠居!  

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