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拝啓2030年の食卓へ

料理は幸せを与えることも、奪うこともできる。熱々の唐揚げに心が満たされる一方で、養鶏場拡大のためアマゾンの木々が燃やされるニュースにギュッと心が締め付けられる。何を想い、何のために、どうやって作るのか。料理との向き合い方が問われる時代に、自身で「問い」を考え「未来のレシピ」を考案する料理コンテストCreative Chefs Box 2030 が行われました。50人以上のシェフ・料理関係者に加わり奮闘した結果、このたび最優秀賞を受賞いたしました。このnoteでは、受賞に至るまでの私の「問い」と「解」への想いをお伝えします。

「問い」

同じ空を見上げても十人十色で感じ方が違うように、山積する食の課題をどう感じるかは人によって違います。

肥満と栄養失調、フードロス、フードデザート、安全性、孤食、食糧難、食品包装プラスティック、温暖化ガス排出、動物愛護などの倫理問題。数えればキリがない社会問題、あなたは一番どれに心を痛めますか。

目を瞑っておいしさだけを求めれば、2022年いまは飽食の幸せな時代でしょう。しかし、私たちが目を閉じた瞬間から未来のおいしいが失われ始めているのも事実です。

私は思います。


「おいしい」だけの時代は終わったんだ、と。


これは料理人だけの問題ではありません。食を営む全ての人が、おいしいの足元と向き合うべき時が来ています。一方で、山積する課題には表裏一体の部分があり、全てを同時に解決することはできない葛藤に直面します。例えば、食品ロスを取れば賞味期限の延長のためにプラスティックの使用は不可欠となる場面が出たり…。課題に優先順位などないし、優劣をつけるべきではありませんが、一度に全ての課題が解決できないからこそ、あなたがいま何を「問い」として選択するか、「自分の問い」を見つけることが必要だと感じます。

今回、Creative Chefs Box 2030の出場にあたり私が最も時間をかけたのはレシピ作りより、何の「問い」を選択するかです。持続可能に向き合い続けられる私の「問い」、いわば使命は何か本当に深く・広く考えました。

選択のきっかけは、母からの段ボールの中にありました。コロナ禍で何年も会っていない両親から送られてきたのは故郷の名産品 三浦製菓のお茶羊羹。押し出す式で食べやすく、お茶の産地ならではの抹茶ではなく「緑茶」味の羊羹です。変わらぬおいしさに安堵しました。なぜなら、この3年という時間が私の家族を大きく変化させたからです。会えない時間に、祖母は施設に入りました。父と母は急に歳をとっていました。私の大事な故郷は、過疎化が進み茶畑が太陽光発電に変わりつつあります。
私の故郷は、いつまでおいしいお茶を届け続けられるだろうか。
会えない悔しさの中、距離も時間も超えて私を幸せにしてくれたお茶羊羹から、私にしかできない「問い」を見つけました。

故郷の茶畑を守りたい


私の「問い」は、本当に足元にあったのです。


「解」

言葉にその人の人柄が出るように、「解」にはその人の人生が現れると感じます。導き出された手段の正解不正解が真理ではなく、本当にあなたが「問い」を「解」に逆転させられるか決意こそ真理だと信じています。


わたしの「解」は記憶の中にありました。

わたしにとってのお茶は、マグカップに入った冷めた緑茶です。『朝の一番茶は全員に。』早朝4:30、仏様と家族全員のコップに今日の一番茶を注いでくれた祖母の姿、私が起きるまで大事に置かれた冷めた緑茶。その記憶から「そうだ。朝、起きてすぐ緑茶を飲む習慣を紡ぎたい。」ここからストーリーを組み立てました。

私の「問い」と「解」は、好評を頂き、コンテストの結果としては最優秀賞。さらに特別審査員のunis(ユニ)エグゼクティブシェフ薬師神陸シェフ、FARO(ファロ)エグゼクティブシェフ能田耕太郎シェフから特別審査員賞を頂くというW受賞で幕を閉じました。私にしかできない、料理人としての「問い」と「解」が皆さんの心にも届き、結果が出せたことに感謝しています。

本当にあなたが「問い」を「解」に逆転させられるかの決意こそ真理。
今回気付けた「問い」をコンテストで終わることなく、未来を紡ぐ「解」になるよう更に歩みを進めることが、私にしかできない使命であり、天職だと感じます。料理には幸せを与えることも奪うこともできるのだとすれば、私はこれからもずっと幸せを与える料理を届ける人でありたいと思います。


【Creative Chefs Box 2030 /小鉢ひろか】
緑茶で食べる玄米グラノーラ
朝、輸入された原料のグラノーラとミルクを習慣にする人々を見て違和感を覚えました。簡易で健康を追い求めるあまり、私たちは大事な『歴史や文化』を消し去っているのではないだろうか、と。
私の祖父母は静岡県川根町でお茶農家をしていました。茶畑の緑が美しい大事な故郷は、高齢化と担い手不足により茶畑が荒れ果て、かつての美しさを失ってきています。これは産地の問題だけでなく、私たちが「緑茶を急須で飲む」文化を失い市場を衰退させているのも原因の一つです。ペットボトルでも抹茶味でもない日本の緑茶を残すために、伝統を無理に受け継ぐのではなく、持続可能に続く文化として時代に合わせて進化し続けてほしいと願いを込め、緑茶に合うグラノーラを組み立てました。小豆の和菓子感、玄米の香ばしさが緑茶の必然性を出し、冬に熱々の緑茶を入れて食べたい味に仕上げています。小麦の消費量が伸びる中、国産米の消費量向上に貢献したいと想い、米×緑茶×朝ごはんの新しい提案ができるよう努力しました。2030年も、川根町に美しい緑の光景が続くよう願いを込めて。

「問い」グローバル化により衰退する日本文化。2030年も急須で緑茶を飲む習慣を残し、米の消費量を高めるにはどうしたらいいだろうか?

「解」緑茶で食べる玄米グラノーラ
2022年Creative Chefs Box 2030 小鉢ひろか

#天職だと感じた瞬間


一緒に社会問題をおいしく解決しましょう!