「才能の塊」学園アイドルマスター SS

※こちらは非公式サイドストーリーです
※学園アイドルマスター「花海咲季」「花海佑芽」の信愛度ストーリーのネタバレを一部含む為ご注意ください。


 俺の直感はよく当たる。これまでの人生で俺
は、多くの決断を直感に頼っていた。そして、その直感を俺は外したことがなかった。
 プロデューサー科の俺が担当しているアイドルは花海佑芽。今年度の初星学園の補欠合格者であり、成績最底辺のおちこぼれである。そんな、彼女をプロデュースすることを決めたのは半分は直感で、半分は勢いだった。出会ったその日、俺がプロデュース科の人間であることが分かるや否や彼女は言った。

 「私をプロデュースしてください」

 私は笑った。そして、同時にその申し入れを快諾した。
 今思えばとんでもない条件だったと思う。プロデュース科に所属する人間は、初星学園アイドル科の人間をプロデュースすることが慣例である。そして、そのプロデュース結果で評価され、今後の人生が決定する。そんな中で、なんの調べもしていない、ましてや入学初日から遅刻をしてくる、補欠合格者に自分の人生を賭けるなんて馬鹿げているだろう。
 だが、俺の直感は告げていた。「彼女はアイドルに必要な才能を全て持っている」と。
 

 俺の目の前にいるのは腐れ縁で幼馴染のプロデュース科の同期だった。どういう経緯でココにいるかは忘れたが、彼と行きつけの居酒屋へのみに来ていた。
 彼は学園の成績上位者である花海咲季のプロデューサーである。先日の前期試験で、歴代トップの成績を叩き出し話題となったのは記憶に新しい。もちろん俺の担当アイドルはギリギリ合格だった。


「お前の担当アイドル、前期試験トップだったそうじゃないか。すごいよな」

 俺はマヨネーズをたっぷりつけて頬張った唐揚げを咀嚼しながら言った。花海佑芽の目標は花海咲季に勝つことである。今回の勝負も勝てなかった。というか、一度として勝てたことがない。佑芽には咲季に対する負け癖のようなものがついているのだ。
 だが、その点において心配はない。佑芽は才能の塊だった。これまでのレッスンを見ていると感じるのは、ポテンシャルはあるがそれを上手く発揮できていないということだけ。そして、ポテンシャルを十二分に発揮したときプリマステラを獲ることが出来る。それも圧倒的な首位で。
 そのために必要なのはブレイクスルー。つまり、花海咲季に勝利することなのだ。

「佑芽さんも入学したときと比べると、着実に実力がついてきているようですね。うかうかしていると、咲希さんはあっという間に抜かれてしまうかもしれません」

 彼は言った。その意見については同意だ。実力は着実に積み上げてきた。佑芽に必要なのは「勝てる」という自信。どんな時も前を走り、目標にしてきた姉に勝てるという自信だけなのだ。
 だが、ここへ来て俺は迷っていた。

「そうなるといいんだけどな」

 俺はぼやいた。

「あいつの、花海佑芽の最大の壁は姉の花海咲希なんだよ。生まれた時から今に至るまで、佑芽は一度も姉に勝てたことがない。いや、正確には”間に合わなかった”」

俺は一呼吸おいて続けた。

「だから佑芽はまだ、姉の咲希に勝つイメージができていない。そして、勝った先のイメージも出来ていない」
「勝った先のイメージ…」
「佑芽にとって咲希は 『無敵のお姉ちゃん』なんだよ。だから、勝つことで佑芽の中での『無敵のお姉ちゃん』像が崩れてしまうのが怖いのかもな。それが枷になってる」

 彼女がアスリートをやっていた理由は、姉の咲季に勝つため。トップアイドルを目指すのも同じ理由。だが、その先がない。姉に勝った時、佑芽が目指す次が果たして生まれるのだろうか。

「彼女も同じですね」

 咲季のプロデューサーが言った。

「咲希さんにとっても、自分は佑芽さんの『無敵のお姉ちゃん』なんですよ。だから絶対、妹だけには負けられない。そう思っているようです。まぁ、元々の負けず嫌いな性格もあると思いますが」

彼は水滴が滴る泡の消えてしまったビールをぐいっと飲み干した。

「だけど、それが枷かどうかは本人たち次第です」

 俺ははっとした。花海佑芽にとって咲季は超えるべき相手ではなく、いつか肩を並べて走りたい目標なのかもしれない。そして、咲季にとっても同様なのだろう。咲季は佑芽に対して、常に前を走り、妹に姉は「最高のお姉ちゃんだぞ」と証明し続けたいのかもしれない。
 その動機がどこから来ているのかは分からないが、何となくそう感じた。

「それに咲希さんは世界一を目指すそうですよ」

 彼は私の目を見ながら言った。
 俺は笑った。花海咲季は世界で一番すごいお姉ちゃんだと証明するために世界一のアイドルを目指すのかと。

「ははっ! そうか。それならまずは、プリマステラからだな」

 俺の悩みは杞憂だったようだ。佑芽が咲季を超えた先など考えなくてよいのだ。佑芽が咲季を超えるということは、すなわちそれはトップアイドルになるということなのだ。その先は目標があるのではなく、自分が目標となるのだ。 

「さて、明日もあるしそろそろ出るか」

 俺は明日以降のプロデュースプランを一刻も早く練り直したくなり、お開きにすることにした。会計を済ませ、駅の改札前に来た。

「次の選考会、咲希も連れて見に来いよ。佑芽の成長した姿を見せてやるからさ」

 俺はそう言い残し、彼が改札を抜けるのを見送ることすらせず、自宅方面のバスに乗った。スマホに保存された、花海佑芽の今後のプロデュースプランが纏められた総数100を超えるプランデータを全てゴミ箱に写し、新しいフォルダーを作成した。
 フォルダーのタイトルは「世界最強アイドル育成プラン」。


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