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Go Toと感染拡大の因果関係について

Go Toトラベル利用者は感染リスクがある!?

 師走に入ってから「Go Toトラベル利用者は新型コロナ感染リスクが非利用者よりも高い - 東大」( https://news.mynavi.jp/article/20201208-1571425/ )といったような見出しで各メディアで取り上げられ、『GoTo=失敗、悪い政策』かのような根拠として脚光を浴びた論文があります。

Association between Participation in Government Subsidy Program for Domestic Travel and Symptoms Indicative of COVID-19 Infection

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.12.03.20243352v2.full

まだ査読前論文ですので論文の質については割り引いて考えないといけない論文ですが、概要の結論と重要度(relevance)には次のように書かれています。

「The participants of government subsidies for domestic travel experienced a higher incidence of symptoms indicative of the COVID-19 infection.」
(government subsidies for domestic travel(国内旅行に対する政府助成金、要するに「GoToトラベル」のことを指していると思うので、以下「GoToトラベル」ないし「GoTo」と略称します)のparticipants(参加者≒利用者)は感染を示す症状の発生率が高い)

つまり、「GoTo利用者は非利用者に比べて感染症状の発生率が高い」と述べていますが、統計学上において有意な相関関係、ましてや因果関係があるとまではいっていません。つまり、「利用者と非利用者の間に発生率についてポイントの差があったけど、これが意味ある差かどうかについてはまだ何もわからない(今後の研究で明らかにします)」程度の結論と、私は理解しています。因果関係というか"causal effect"との記述があるのはDISCUSSION(検討)における以下の部分です。

There are several mechanisms through which participation in this subsidy program was associated with a higher incidence of COVID-19-like symptoms. First, traveling itself may have led to a higher risk of incidence of COVID-19 due to increased contact with people in dining and sightseeing at the destination (causal effect). This explanation is supported by a recent genome epidemiological study of SARS-CoV-2 in Japan that found the possibility that the COVID-19 clusters in Tokyo metropolitan areas might have spread throughout Japan after the lifting of movement restrictions.

として、"causal effect"を示す根拠として次の文献を上げているだけです。

National Insitutute of Infectious Diseases. A genome epidemiological study of SARS-CoV-2 in Japan as of July 16, 2020. Published online 2020. Accessed December 1, 2020.

https://www.niid.go.jp/niid/images/research_info/genome-2020_SARS-CoV-MolecularEpidemiology_2.pdf

因果関係と相関関係

 ここで自分なりの理解を再度整理する意味も込めて、因果関係相関関係について、谷岡一郎先生の著書『データはウソをつく』(ちくまプリマー新書、https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480687593/ )の記述を引用して説明させていただきます(73~76頁)

---------------(以下引用)
 重要なことなので、あえて確認しておきます。「相関関(correlation)」と「因果関係(causality)」とは、よく混同される概念ですが両者は同じではありません。まず両者の定義を見てもらいます。
 ☆ 相関関係…変数の一方(㋑)が変化するとき、もう一方の変数(㋺)の変化がランダムでない関係(または同じことだけど、変数㋺が変化するとき、変数㋑の変化がランダムでない関係)。〔記号で㋑↔㋺のように、両方向の矢印を使用する〕
 ☆ 因果関係…変数の一方(㋑)の変化によって、もう一方の変数(㋺)の変化を引き起こす関係。つまり変数㋑が原因で、変数㋺が結果。〔記号で㋑→㋺のように、一方向の矢印を使用する〕
 相関関係と因果関係の違いをわかりやすく説明すると、因果関係の変数㋑、㋺は、時間的に㋑が㋺に先行しますが、相関関係ではどちらが先かわかりません。㋑が㋺に先行するかもしれないし、その逆かもしれないし、はたまた同時かもしれないのです。
「(統計学上有意な)相関関係が存在する」ことは、因果関係の前提です。つまり有意な相関関係は、因果関係があることの必要条件となります。逆に言えば、相関関係がある、というだけでは、因果関係についてはまだ何も言えません。
 さて、これはむかし別の本で説明したことですが、大切なことなのでもう一度同じテーブルを見てもらいます。変数㋑と㋺の間に今、統計的に有意な相関関係があるものとします。つまり「㋑↔㋺」が成立しています。この時、㋑と㋺の間には、次の図2-4のような九つの可能性があります。

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(以上引用)---------------

以前の記事( https://note.com/ko_ko_oz/n/n158f22ffd292 )で引用させていただいた馬の眼氏(https://note.com/ishtarist)の記事( https://note.com/ishtarist/n/nbefb8f7a0931 )にあった「データ分析の世界ではgarbage in, garbage out「ゴミを入力すれば、ゴミしか出力しない」という点については、この図の「可能性1」にあたるものかなぁと思っています。今回の論文においてもこれについて検討を加える必要があるのでは?と思っていますが、今回はそこには目を向けないことにします。元の論文では相関関係について何もいっていないという理解ですが、仮にそれが有意な相関関係であったと仮定した上で、今回注目するのは谷岡先生の著書にある図2-4の「可能性5」についてです。

活動自粛、ステイホーム、ゴーホーム、お家時間を強いられていて人との接触が恋しくなったのではないか

 人は1人では生きていけません。他の誰かと交流し、誰かの顔を見て直接話すことなしでは生きていけない動物だと思います。オンラインでつながれるとはいっても、何千年ものあいだ直接会って会話しながら社会というものを形成してきた人類が、急にすべてをオンラインに切り替えることなどできないですし、それで済む問題でもないはずです。やはり「直接会いたい」、「会っていろいろ話したい」、「時にはバカな話で盛り上がりながら時間を過ごしたい」はずです。GoToを持ち出すまでもなく、単純に「他者との接触機会が増える」という要因が感染増加と相関(もしかしたら因果)がある、で説明できてしまうのではないでしょうか。

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もしこの「他者との接触機会」と感染発生リスクとに相関(もしかしたら因果)があるという説が成立つとするならば、医学や疫学の専門家には『どのような接触が発生リスクを高めるのか』ということについてより詳細に明らかにしてもらいたいのです。接触ゼロを求めることは現実的に不可能ですから、発生リスクを抑えたい人にとってはどういう行動が有効なのか、曝露したり発症した際にはどのように行動するのが適切なのか、PCRで陽性反応がでた人がどれくらい他人に感染する可能性があるのか、といった現実的に実行可能な知見を恐怖を煽るようなやり方ではなく適切に、正確に、冷静に研究し、公表してもらいたいのです。

こんなに大騒ぎするほどのウイルスなのか?

 これまでの私たちの生活を思い出してみましょう。確かに昨年までもインフルエンザウイルスによる感染拡大はありましたし、それ以外のウイルスの流行もありました。

http://www.werise.tokyo/declaration/

このサイトによれは、今年の12/1時点のこのウイルスによる死者は昨年のインフルエンザによる死者の2/3です。12月31日までのデータを加えても、おそらく昨年インフルエンザの死者数を超えることはないでしょう。
 阪神大震災や東日本大震災の直後は、その恐怖を目の当たりにしたせいか地震保険に入る人が多かったと聞きます。しかし、月日が経つにつれ、地震への恐怖心が薄れ保険に入る人も減っているのではないでしょうか。そして忘れた頃に地震がどこかで起こります。地震だけでなく、例えば富士山だって今後噴火などしない、と言い切れるほど科学技術は進んでいるのでしょうか?(いつかはわかりませんが、噴火する可能性はあるでしょう)自然災害に限らずとも人間の予測がつかないことは、これからも数多く起きるでしょう。そんな世界に住んでいる私たちにとって、このウイルス感染の問題について日々の多くの時間を費やすことは本当に大事なことなのでしょうか? 見えない、計算できない危険は本当に私たちの周りにたくさんあります。そういった危険を知らなくても、考えすらしていなくてもこれまでは生活してきました。COVID-19だけがそれらとは全く別次元の、本当に重要で差し迫った問題なのでしょうか?

 今だからこそ、『必要以上に木を見ず、森を見ながら生きていく』ことを意識する時ではないでしょうか。

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