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卒業 〜立ちはだかる単位の壁

※この話は「進路 -My Way of Life」をお読みになってから読むことを推奨します。

大学院合格を果たしたオレは楽しく学生生活を送っていた。
研究も24時間体制だったので、好んで夜担当をして、そのまま帰りの足で釣りに行って、朝帰って夕方まで寝る、みたいな生活。

とは言え、スレスレで2度目の留年を回避したレベルなのでまだ落としている必須科目の単位があった。

一番面倒なのが数学だった。線形代数。

数学は割と得意な方だった。
院試勉強中も、過去問の回答を分担して作ってた時は数学担当だった程度には得意だった。

それで無駄な自信を付けたのがまずかった。

特に出席を取る科目ではなかったので講義には出席しなかった。
で、最後の試験だけ受けに行って青ざめた。

解けない。分からん。

なんだこの問題?

時間は容赦なく過ぎ、試験は終わった。

即、その数学の先生の所に行き、
「すみません、4回生で進路も決まってるんですが、試験、とてもできたと思えません。追試を受けさせていただくとかはできませんか?」
と頼んでみた。こういうときは「もしかして」なんて甘い期待は捨てるべきだ。しかしながらこの先生、外部の大学から来られてる先生で、いかにも数学者という感じで頭も固く、

「君だけ特別扱いはできません」

と一蹴された。

一旦食い下がりかけたが、まずはインパクトさえ残せればいいと思ってたのでそのまま引き下がった。

さぁ、どう攻めるか。

「他の誰のためでもない、自分のためだ」

なんて言葉があるがオレには通用しない。自分のためだなんて、自分が諦めれば済む話。けどこの時ばかりは違った。

「二度と院試勉強なんてゴメンだ」

何とかして卒業してやる。
可能なものは全て使うぞ。
湧き上がる殺意。(いやこれマジでこの先生コロしたろかと思ってた)

留年3バカと首席女士に話したら、

「大丈夫やろ・・・まさかそんな学生落としたりせーへんって・・・」

「いや、手は打っておくべきやろ・・・」

「とりあえず先生に相談行っとけって!」

と言われ恩師の先生へ相談に言った。

先生に伝えると、先生は「(ノ∀`)アチャー」って顔をし、0.5秒ほど猛烈に頭をフル回転させた後、「進路指導の先生を使いましょう」と進路指導の先生のところへオレを連れて行った。

そしてオレを紹介して「数学の〇〇先生という方がおられるはずです。多分外部の先生です。その先生に連絡をとって、『進路調査をしてるのだけど、この学生の単位がギリギリなので取れてるか知りたい』と、連絡してください。もし取れてなかったらどうすれば認めてもらえるか、交渉お願いします」と。即、調べる進路指導の先生。某大学の教授であることが判明し、その場で電話。この間、5分。

見事に落ちてた(笑)

だが、進路指導の先生の熱烈交渉の結果、何とかチャンスは得ることができた。

恩師の先生伝いにその条件が告げられる。

「単位取得のためには条件が2つ提示されました。1つは今回の試験を再度全て解き、解答を持参すること。もう1つは口頭試問です。〇月〇日に〇〇大の〇〇先生を尋ねてください。それでOKと判断されれば単位は貰えるところまで交渉しました。あとは頑張ってください、グフフフフ(←先生、ちょっと楽しんでる)」

さあ、ゴングだ。

試験問題を出して院試の戦友全員集合。

全員で今回の試験問題を解いては擦り合わせる。でもどうしても解けない問題が一問ある。首席女士も「いやー、これはムズイやろ…コレ解けな単位くれんとかあり得んわー」とお手上げ。とは言え諦めるわけにいかんのでそれなりの形は作っていかないといかん。

「ここ、コレで合ってるよな?」
「いやちゃうやろ、こうや」
「何でや、結果一緒やんけ」
「あれ?そっか」

なんてやってると何か盛り上がって来て楽しそうに見えるんだろう。M2の先輩達も寄ってくる。もう研究室総出で対応である。

「パイセン、この問題が解けん。オレの卒業かかってんねん、何とかして」
「えー!こんなんもう覚えてないでー」

とか言いながら流石は学生のうちにFE(Fundamental Engineer、試験は全部英語)取ったパイセンだけあってそれなりの解答を作ってくれた。

「よっしゃ、コレで何とかなるやろ」

と友人F。お前何もしてへんやんけ(笑)

当日。

どうやって見知らぬ大学の見知らぬ先生を訪ねたか、全く記憶にない。何を聞かれたか?覚えてない。とりあえず皆で一生懸命解いた問題は提出を求められず、このボケ、と思ったことは覚えてる。(笑)
そして手短に質問と解答を2、3回繰り返した後、「んー、、君の専攻は何?」と聞かれた。そこで思わず「〇〇です。なので線形代数はあまり使いません( ー`дー´)キリッ」と言って、ヤバい、一言余計だったと思った(笑)だけど逆に先生は笑って「そうか、△△とかならこのレベルで卒業させてやるわけにいかんが、〇〇ならまあ、いいだろう。単位は可にしかできんが修正しておいてやろう」と言った。

全身の力が抜けた。

卒業できる・・・!

「ありがとうございました」と言って部屋を出た。が、真にオレが礼を言うべき相手はこの野郎ではない。

ひとまず連れに連絡だけ入れて大学に戻る。

戻って真っ先に先生のところへ。

「本当にありがとうございました。一応、単位は修正しておくと言っていただきました。」と礼を言うと先生は「僕は何もしてません。調整しただけです、ぐふふふふ( ̄ー ̄) あ、進路指導の先生にも御礼言っといてくださいね」と独特の笑い声でサラッと流されてしまった。(笑)

先生の部屋を出るとパイセン含め皆集まる(笑)

よっしゃーーーー!!!みんなありがとう!!

と、院試合格の時の再来。(笑)

「解いた問題、出せって言われんかったから出してないねん。みんな頑張ってくれたのに、悪ぃ」
「良かったやん!アレ出してたら落とされてたかもしれんぞ!(笑)」
「何聞かれたん?」
「かくかくしかじか」
「えぇーー!よう言うたな、それ(笑)それはかなりのギャンブルやぞ(笑)先生によっては落とされてたかも知れんな(笑)」

そんなこんなで線形代数を5年で5回落としたくせに卒業した奴がいると言うキレネンコ伝説を研究室に残し、オレは何とか進学できることになった。

今思うとオレが「社会は何より調整力、ルールには例外が存在する」と学んだのはこの時かも知れない。

力や能力は人を救うことができる。救うべき人を救い、守るべき人を守るためには力が必要。不特定多数を救う警察ではなく、特定の人だけを救い、守る力があればいい。オレにはそっちの方が向いている。進学の道を選んで良かった。そう思った瞬間。

安西先生の言う通り、諦めたらそこで試合終了なんですよ、何事も。

-了-

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