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内燃機関 -Engine

車やバイク好きなら、誰しもエンジンに興味を持つ時期というのがあるだろう。

オレの場合、明確なターニングポイントがあった。忘れもしない、1989年の夏だ。

余談だが、1989年と言えばセナとプロストが鈴鹿のシケインで激突したり、シュワンツとレイニーが鈴鹿で壮絶なバトルを繰り広げた年だ。何か、そういう年だったのかもしれない。

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当時、上の兄姉が免許を取る年齢に達し、中坊のオレも車に興味を持ち始め、めでたくクルマオタクへと成長中だった。ただミッションをガチャガチャやりたくて、暇さえあれば家の車や兄貴の車の中でガチャガチャやっていた。

次第にエスカレートし、親には内緒でこっそりエンジンを掛けるようになった頃、ある日、エンジン掛けているのを忘れ、誤ってクラッチを繋ぎ、見事にエンストし、その拍子で車は駐車場の枠から飛び出してしまった。

その瞬間、オレの中で何かスイッチが入り、しばらく「やるのか?やらないのか?」の自問自答を繰り返し、意を決して車を動かし、元の位置に戻した。(時効につきご容赦ください)

すごい、あの物体を動かすことができるんだ、オレ。当時はただそれだけで満足だった。

そこへ激辛のスパイスを投入したのが、まだ当時20代だった一回り上の従兄。従兄はCR-X SiR (EF8) に乗っていた。初めてVTECエンジンを積んだ量産モデルだ。そのCR-X、エンジンは3,000 rpmまでにシフトアップしないといけないんだと思っていた当時のオレには強烈すぎる5,000 rpmの衝撃。このときのカルチャーショックと言ったらなかった。

家のサニーとは比較にならない加速と吹け上がりの鋭さ。見たことのないような角度と動きで踊るタコメータの針。さらには8,000 rpmまで回してくれた時には、自分でもその感覚が何なのかわからず、もう全身に鳥肌が立った。ジェットコースタとはまた違う、その感覚に取り憑かれた。

結局100キロぐらい?のドライブに連れて行ってくれたのだが、景色なんかまるで覚えてない。コーナーで飛ぶCDの音を聴きながら、ひたすら踊るタコメータの動きがたまらなくて、凝視していたのをよく覚えている。

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間違いなくここがオレのターニングポイントで、この従兄のおかげでオレは人生変わったと思ってる。

従兄は若い頃から二輪ではレースをやっており、特にオフではモトクロスの地方選手権で入賞した事もある猛者だ。当時は1年に1回しか会えなかったが、色々とよくかわいがってもらっていた。

そして月日は流れ、オレは免許を取れる年齢になり、教習所に行き始めた。運転はお手のものなので、バックでS字行かされたり、軽用のクランク行かされたりするなど、あまり無い経験もさせてもらったりもしたが、私的には狭い教習所でちまちまとしたことをやらされてフラストレーションを溜めていた。(笑)

免許取得と同時に家に帰り、姉の車(インテグラZXi (DA5)、ちなみに5MT)に乗り込み、

「解禁だ!」

と、遂に生まれて初めて自分でレッドゾーンまで回したときは、

「やっとオレの人生始まった!」

と感激したのは今でも覚えている。

当然、同様にエンジンが搭載されているバイクにも興味が無いわけはなく、「バイクなら10000rpm以上回るぜ!」と、初めての4スト400のエンジンを期待に胸を膨らませ、いきなりレッドゾーンまで回したときのショックは全く反対の意味で強烈だった。(笑)やっぱり大型しかない、そのとき決意し、当時憧れだったGPZ900Rを手に入れた。

ところがこいつも国内仕様で中速重視だったこともあるが、初めて体験する200km/h overの世界に感激しながらも「何か違うんだよなぁ~」と首を傾げていた。それからも、180ps近いバイクに乗ったり、400psのGT-Rを借りたりもしたが、特に同じ感激を味わえたマシンは無く、次第にあれはただのバージンインパクトで、あの感激をオレはもう味わえないのかもしれない。そんな寂しさを感じ始めていた。

ところが、思いも掛けないところからオレはもう一度この体験をする事になる。

免許取得以来、従兄とは時々バイクで一緒に遊ぶ仲になった。ツーリング、林道、オフロードコース…

そんな交流を続けていたある日、従兄から、

「RZ買ったんだ。乗りにこねぇ?」

という誘い。名車と呼ばれる2stマシンだ。二つ返事で了承し、鳥取まで行き、二人で丹後半島を回った。

正直、回してもパワーはないし、走らねぇし、操作にコツはいるけど、これ、名車か?という感想しか最初は持てなかった。従兄に感想聞かれて、「んー、正直イマイチ。よくわからん」と伝えると、

「進入から燃焼状態を意識して、立ち上がりでパワーバンドに嵌めるんよ。ツボったらたまらんで」

と言う従兄。わかった、と半信半疑ながらとりあえずひたすらパワーバンドキープに努めたら・・・

・・・キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!

とあるコーナーの立ち上がりで、スパーン!と重量感が全くない、まるで空を飛んでいるかのような、ワープ感覚で加速して行く、重さを全く感じない感覚を得た。
加速ってのは基本トルクで、ぐぐっと前に押し出される感覚。だから車とバイクの加速を比較すると、車の方がトルクは圧倒的にでかいので、GT-Rとかの大排気量ターボの加速なんてのはクソ重たいものを無理矢理押しまくる感覚。それも悪くはないが、RZの2stパラツインは全く対局の加速感。

従兄曰く、同じ2stでもV型になるとトルクがあるので、この感覚にはならないらしい。乗る前は「何言ってんだ?」という感じだったが、一度体感してみればそれもよく分かる。

その後も2、3回同じ感覚を味わうことはできたが、あとはもうなかった。ひたすらタコメータとニラメッコで、6,000rpmを切らないようにシフトダウンしていくが、ダメ。ただただパワーバンドキープすりゃいいもんじゃないようだ。恐らく従兄の言うように、進入時のアクセルオフのときの燃焼状態やチャンバー内の気流がキモなんだろうと勝手に推測したが、まあ、とにかくひたすらタコメータを凝視しながら、全身全霊でアクセルの開け方を工夫し、綺麗な気流の流れを作って立ち上がることだけを考えていたので、バイクに乗って初めて「コーナリング?知るかよ!」と思ったバイクだった。

帰って従兄と飲みながら「RZ乗るとタコメータと路面しか見てないよな」なんて話をしていて、ふと、後部座席からEF8のタコメータの動きをひたすら凝視していた20年前のことを思い出した。そう、これだよ、エンジンの楽しさって。あの時感じた五感全てが心地いい感覚。このバイクならオレはまだ「あの感覚」を味わえるんだ。

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エンジンの楽しさをオレに教え、導いてくれた従兄が、20年の時を経て、また新たな扉を開いてくれた。現在も齢57にして現役ライダーであり続け、いつも先でオレを待っていてくれる、オレのベンチマークでもある、バイク乗りの一人。

いつかまた、新たな扉を開いて「こっちへ来いよ」と言ってくれることがあるのだろうか。

もう年齢的にそんなことはないだろうと思いつつも、そんな淡い期待を抱いてしまう。

-了-

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