見出し画像

RED WING 2268

20の頃、連れが「買ったけど足に合わないから買ってくれへん?」と持ちかけてきたレッドウィング2268。

実質新品だし、サイズも同じだし、それで1万ほど安く売ってくれるというのなら乗るわ、と買い取った。何の変哲もない、ど定番の普通のワークブーツだ。でも、バイクに乗る時はほぼ毎日これを履いていた、オレにとって特別な一足。

若かったオレはあまりに稚拙で、「ピカピカのレッドウィングなんてダサい」とかなり雑に扱い、ろくに手入れもしてこなかった。偶にミンクオイルを塗る程度で革の知識もあまりしっかりと持っていなかった。

ソールが減ってきて、釘が微妙に足に刺さるようになってしまい、シフト部分も破れが出てきて水が侵入。そろそろ限界か、、、とりあえずオールソールしてパチ当てしたらなんとかなるか?と、問い合わせてみた結果、その答えは残酷なものだった。

「中底やウェルトがダメなものはオールソールできません。」

「寿命ですね。」

「エンジニアはやっていません」

・・・ここらでやっと、ことの重大さを痛感。

詳しい人には解説不要かと思うが、ソール交換ができるのはグッドイヤーウェルト製法という、高級靴に多い構造がメイン。(その他、マッケイとかノルウィージャンとかあるけど割愛)要は底とアッパーを縫い合わせる「ウェルト」って言う部分があるんだけど、そこが切れてしまっていて、縫い合わせることができなくなっていた。つまり、いわゆる「寿命」。

そんなバカな。レッドウィングって一生使えるんじゃなかったのか?(爆)と無知な自分を悔いた。

ぶっちゃけ、修理しようと思ったきっかけが、「使わなくなったから」。バイクで公道走るとき、いつも使っていたのだが、ドカに乗り出してから、あまりに滑るノーマルステップと相性が悪すぎ、公道でもアルパインスターを使うようになっていたので、「休ませる時間」ができたために修理を考えたのだった。まあ、この状況ではここでお別れもありかな、と思ったのだが、長年使ってきた愛着もあり、どうにもこうにも気持ちが引っかかる。自分が無下な扱いをしてきたから直せなくなってるのに、その責任はとらねぇのか?自問自答を繰り返す。

「…直そう」

気持ちは固まった。こうなったら意地でも直してくれるところを見つけてやる、と片っ端から当たっていった。幸い時代はインターネットという強い味方がいる。状況を伝え、問い合わせることの繰り返し。が、その答えはほとんど上記のもの。

が、捨てる神あれば拾う神あり。

5件目ぐらいだったかに問い合わせた、東京は北千住の「福禄寿」さん。

何となく、人の纏う空気感を感じるのは得意で、どこかでネガティブな空気を纏った返答と言うのは空気でわかる。他にも「バラしてみないとわかりませんが・・・」と言われたところもあったが同じ言葉でも福禄寿さんの回答は「まあ、できなくないんじゃないですか?」って空気を感じた。

だったら見てもらうのが一番だ。東京出張に便乗し、朝イチ、東京駅のコインロッカーにブーツを放り込み、出張帰りに福禄寿さんまで行ってきた。客先での打ち合わせが長引いて時間ギリギリになったが、何とか19:50に店?工房?に着いた。

看板こそ掲げているものの、光の漏れるアルミサッシの中で機械が動く音が聞こえるだけ。ここでいいのかな?とドアをノックして入る。

てっきり1人でやっておられるのかと思いきや、職人さんは3人。

一番手前にいた、比較的若いお兄さんが相手をしてくれた。他は皆無言。(笑)多分、機械の音でオレが入ってきたことにすら気づかない様子でひたすら黙々と作業を続けている。

現物確認してもらい、見積。職人さんに「なかなかどこにもいい返事がもらえなくて」と伝えると「う〜ん、やりたがらないのも無理はないですね(苦笑)」とのこと(笑)

診断の結果は、中底の交換、一部ウェルトの修理、踵の補修。

驚愕。中底もウェルトも交換できるだと・・・他では皆断られたのに。

こちらからのお願いとして、アッパーのシフト部分のパチ当てと、ソールはビブラム100にすること。その内容でざっと見積もってもらい預かってもらった。バラす際にウェルトがダメになることもあるので、正式な価格はバラしてから連絡します、とのこと。

じゃあ、よろしくお願いします、と店を後にしようとすると、奥にいた店主の奥山さん?と他の職人さんも皆さん「ありがとうございました!」と元気に挨拶してくださった。やっぱ気づいていなかっただけみたい。(笑)

4ヶ月後。

無事にオールソールの完了した2268が帰ってきた。

画像1

ズシっと重いビブラム100。アッパーはさほど綺麗ではないが、オレのエンジニアだ。間違いない。

価格は見積通り。つまり「壊さなかった」という事だ。プロだねぇ。

画像3

まぁ、こんなボロを新品買えるぐらいの金出して直すぐらいなら、別に珍しい靴でもないのだから、新しいの買い直せばいいじゃん、って普通は考えるところだし、店としても「そんなことしなくても」という思いはあると思うのだが、福禄寿さんは「新品買った方がいいですよ」とは一切言わなかった。

それがものすごく嬉しかった。

商売とかじゃなく、分かってくれてるんだな、と。

オレは道具ってのは自分のものになった時からその歴史を刻んでいくものだと思っている。

若く、稚拙な時期もその歴史。そして知識や経験を得た自分がその扱いがうまくなっていくのもその歴史。その歴史の中で、新たな出会いや別れというのもあると思う。だけど、真摯に道具と向き合っていると、「要らないから捨てる」と「壊れたから捨てる」は意味が違う。ましてや「壊れた」ではなく、「壊した」のであれば、使い手が何の痛みも受けないことには違和感がある。これは多分、オレが四輪ではなく二輪を好きなこととも関係してる。

このブーツも同じこと。これは若く稚拙なオレがダメにした。ならばこれを捨てるのであれば、外から見たらバカみたいな話で損得勘定で言えばあり得ない話なのだけど、きちんと「直せない」ことを確認する義務がオレにはあった。結果、救ってくれる人に出会うことができた。多くは聞いてこないけど多分、福禄寿さんはそんな気持ちを汲んでくれたのじゃないかな、というのを何となく、感じた。それがめちゃくちゃ嬉しかった。

これによってやっと、オレの懺悔は終わった気になれた。

今は言い方は悪いがいつでも捨てられる。

・・・

・・・と、思ってきたんだがね・・・

色々あって、ステップを換えて滑らなくなったので、公道スタイルにぴったりマッチすることに最近気づいてしまった・・・2021年。

画像2

さあ〜、また一緒にいろんなところに行こうか。

その命、尽きるまで、ね。

-了-

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?