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『守破離』 -Three Stages of Mastery

かれこれ17年も前の話だ。

オレは遅咲きの社会人としてスタートを切った。

その時、新入社員研修の一環でマナー研修なるものがあった。
この時の先生が、噂ではなかなか強烈な年配の女性の先生で、昨年の新入社員は冒頭の挨拶から「挨拶の声が小さい!やり直し!」とボロカスに怒られたらしく、とにかく恐い先生だと聞いていた。

実際に研修を受けてみると、確かに怒らせると恐い一面はあるが、凛とした小綺麗な身なりの先生で、マナー講習の先生らしく、いいところはしっかり褒めてくれるが怒るところはガッツリ怒られる、そんな先生だった。


その中でオレたちは「マナーというものは相手に不快感を与えない事。色々と基本は教えるが、まず何よりもそれが大前提。」と教わった。なるほど納得。全ては受け取り手次第なのだと。

詳細は本論ではないので割愛するが、この先生からは色々教わった。オレ自身のポリシーとも一致していて、しっかりと心を鷲掴みにされ、驚くほどの充実感で研修を終えた。

そしてその研修修了時、先生はひとつの言葉を贈ってくださった。

それが、『守破離』

弓道の精神の話らしいが、非常に理に適っていて、まず最初は「守る」。決められた事、形を守る。
そしてそれを「破る」。決められた形を破って次なるステージへ。
最後は「離れる」。既存の形から離れて新たな世界へ。

ざっとこんな感じの内容だ。
なるほど、いい話だな、とその時は漠然と思っていた。

それからコツコツと仕事を覚えながら1年が経ち、何となく疑問に思っていたことがあった。
オレは研修での教えの通り、メールの本文に頑なに二重敬称を使わなかった。何とか部長殿、や、各位殿、って奴だ。
誤ってると分かって使うのが嫌だったのだ。

最初は二重敬称を使う人を「分かってねーなぁ」と小馬鹿にしていたのだが、ある時何となく疑問を感じ始めた。

二重敬称を使う人はそれがいいと思っている。
ならばその人に二重敬称で返さなければ、その人は「何だこいつ、失礼な奴だな」と思うかもしれない。
だが、一般的なマナーの上では付ける必要はない。
おかしくないか?一体どっちが正解だ?

若かったオレは割と悩んだ。

が、結論は出ていて、先生は「マナーとは相手に不快感を与えないこと」と仰ってた。
ならばやはり相手に合わせてやるのが真のマナーのはずだ。
それで合ってるよな?

今ひとつ、自信が持てなかったオレはしっかりと背中を押して欲しかった。
そこで、先生にメールでも送って質問しようと思い、人事に先生のアドレスを聞いた。
そしてその内容のメールを作成していた時、ふとオレの頭にあの時教わった、『守破離』の言葉が思い浮かんだ。

…そうか。

オレは『破』のステージに来たんだ。

オレの考えは間違ってないんだ。

オレは既にそれが正解である事を教わっていたんだ。

そして、あの時の研修が、今、終わった気がして鳥肌が立った。

なんて完璧な研修。

オレは作成中のメールを保存せずに閉じた。
これを確認するのは野暮ってもんだろう。

この先生にはいつか礼を言いたいが、それすらも憚れるほど、全てはあの研修にあったのではないかとすら感じる。

そんな17年前に頂いた、今でもオレの礎となる、大事な言葉。

それがこの、『守破離』なのである。

-了-

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