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加藤大治郎 -My 74

彼が逝ってからもう丸18年が経った。

彼は生きていればオレと同い年で誕生日なんて10日程度しか変わらない。

彼が活躍していた20世紀末、彼はスーパースター、オレは人生迷走中のボンクラ大学生だった。

当時、オレはまだバイクに乗り始めて数年で、加藤大治郎と言うレーサーは知っていたが、特に気にも留めておらず、すごいね、程度のものだった。が実は同い年と知って以来、急に興味が湧いた。

当時のオレは親の金と税金で大学に通わせてもらいながら、薄っぺらいアホな友人と大学って一体何なのさ?と何も掴めない感覚に嫌気が差し、学校もろくに行かず、バイクばっかり乗り回していた自分がまた、嫌になっていた時期でもあった。

一方で加藤大治郎はと言うと、気がつけばとうとう250で世界GPで優勝したり、もう、どこまで離れていくんだろう、この人は、と言う感じだった。

当時、既に留年が確定し、先が全く見えない、大学を卒業することに全く価値を見い出せない状態が続き、これ以上親に無駄金遣わせてる訳にいかないし、退学するか本気で悩んでいたのだが、大治郎も先が見えて走ってる訳では無かろう、世界チャンピオンを目標にただ目の前のレースでベストを尽くしているだけに違いない。そう考えてみると、結局、大学に行けなかった親の、「大学は出て欲しい」と言う思いを無駄にはすまいと、まず大学の卒業を目先の目標にして、先のことはそこから考えよう、と思うことにした。

先が分からないまま進むのは苦手だ。自分の意志で進むんじゃなく、時間に流され、選択を一方的に迫られ、どこに辿り着くか分からない恐怖感があり、目隠しされて荒野に放り出されてる気分になる。

そんな時、人間にはやはり「心の支え」と言うものが必要で、オレにとって、それが大治郎だった。

負けてられるか!と言うのがオレの原動力だった、といえば多少聞こえはいいが、要はそれにしかすがるものがなかった。唯一の希望にすがり、怒りにも似たエネルギーを作り出す以外に今の状況を打開するだけのエネルギーが無かった。

留年が決まって流れが変わったこともあり、オレはそこで何かを手繰り寄せたのか、運良く生涯の友人と出会い、社会や大学がどういうものかが見えてきた。そしてやっとおぼろ気ながら見えてきた未来に対して、こともあろうに「進学」と言う結論を出した。

この時の話は別記事に書いているので割愛するが、死にもの狂いとはまさにこのこと。自慢じゃないが、成績は学部で最下位だったのだ。そのオレが進学しようというのだから、ただ事ではなかった。人生でこれだけ勉強したことは後にも先にもない。大学受験なんて比じゃない、「絶対」落ちられないプレッシャー。

寝てるか、勉強してるか。

人生の中でこの時間だけはまさに「自分に勝った」と誇れる時間だった。

そしてその甲斐あってか、何とかかんとか大学院に合格、危うかった卒業もかなりの綱渡りではあったが、何とかクリアでき、やっと目の前の目標は達成し、何かに報いる事はできた気がしたと言うか、ようやく自分の中で大治郎に対する劣等感が消え、「今度はお前の番だぜ」ぐらいに思えるようにはなっていた。

そして更に時は過ぎ、順調に就職も決まり、03年開幕戦の鈴鹿。

前年は4st有利な中、NSR500で唯一RC211Vを蹴散らしていた大治郎。やっぱこいつスゲーなー、と期待も高まって来たところに、念願のRC211Vのシートを得て、無限の可能性を秘めた開幕戦の最中、オレは新たなスタートを切り、新入社員研修中(笑)

帰ってネットを開くとYahoo!ニュースに「加藤大治郎」の文字。

ありゃあ~、結果を先に見てしもたかぁ~?ニュースってことはまさか優勝か!?と、ワクワクしながらニュースを見ると…


…絶句。


無情にも記事の見出しは

「加藤大治郎、転倒で意識不明の重体」


ウソだろ…


いつものオレならこの時点である程度冷静に死を意識するのだが、このときばかりは現実逃避し、復帰するものと信じて疑わなかった。

が、残念ながらオレの希望は打ち砕かれ、その10数日後?無情にも大治郎の命の灯は消えた。

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大治郎の死後、74ステッカーやらグッズがやたら出回ってね。オレは頑なにその手のものには手を出さなかった。何か流行みたいになってるのが嫌だった。こういうものは心の内にあればいい。わざわざ表に出す必要はない。そう思っていた。

が、あれから18年。

世間では大治郎の走りを知らない世代が台頭し、大治郎をライバルと認めていたロッシもついに引退が見えて来ている。

オレもいい歳になり、大なり小なり、「終わり」が見えてくる歳だ。

その中で「自分」というものを表現しようと思うと、やはり大治郎の存在は欠かせない。

そんなオレの「74」を新たなメットに込めて。

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-了-

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