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大型二輪に乗ると言う資格 -Real License

オレには大好きな伯父がいた。

仕事は何をしていたか知らないが、Y31セドリックに乗るシブい伯父で、奈良県生駒市に住んでいたことから、オレは「生駒のおっちゃん」と呼び、対して向こうはまるで我が子のようにオレを呼び捨てにしてはからかってきて、それをオレは本気で怒る、怒れる人だった。今この歳になった視点で思い返しても、憎めない、何をしても許される系のキャラクターの人だった。

オレがバイクの免許を取った頃、伯父がアミロイドーシスという血液の癌みたいな病気に罹患したと聞き、実の兄妹である母親と生駒の病院を訪問した。余命いくばくもないとのことだったが、本人には告知されていないと聞いていたので、オレもあまり意識せず、いつも通り振る舞い、バイクの免許を取り、中型のバイクに乗っていることを自慢げに話した。すると告知されていないはずの伯父だったが、どこか寂しそうな表情で、自分がバイクに乗っていた頃の昔話を始めた。原付に乗って旅した話、CBXだったかの話、BMWに乗って、事故に遭い、トラックの車体の下に潜り込むように転倒し、何とか九死に一生を得た話、その後バイクは降りて乗っていない話・・・

そして最後に一言、真剣な面持ちで「あんまり大きなバイクに乗るなよ。大きなバイクはごっついスピードが出るからな。そのくせ重いし止まらんからな。」と言われた。

・・・当時のオレは中免なんて通過点、大型こそがゴールだと考えていたし、事故ごときでバイクを降りた伯父にとやかく言われる筋合いは無いと反論しようとしたが、その場は伯父を安心させる意味も含め、「ああ、せやな、わかった」とだけ答えた。

そして、残念ながらそれが伯父との最期の会話になった。

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月日は流れ、オレは当初の予定通り、大型二輪免許を取ろうとしていた。もうオレの時代には限定解除なんてものは無くなっており、大型二輪の教習制度がちょうど始まった頃だった。だが、オレは一発試験にこだわった。単純に学生で金がないのもあったが、「免許を金で買う」のが嫌だったのと、何より一発試験を通って来た連中に舐めた態度を取られるのが我慢ならなかったからだ。

しかしながら問題が生じる。

試験を翌週に控えたある日、バイト帰りの道で何と、とあるボーヤン小僧と大クラッシュを演じてしまったのだ。

当然、試験はキャンセルし、ボロボロのマシンを前に、この先どうしようかと考えた時、ふと事故でバイクを降りた伯父の話が頭をよぎった。

「お前にはまだ早い」

そう言われた気がした。

・・・そうかよ、おっちゃん。

だったらおっちゃんが納得できるところまでやってやろうじゃねぇか。

改めてオレの闘争心に火が点いた。

今でこそ正統派ライダー?を気取ってはいるが、昔はオレも半袖でチャラいバイクで走っていたし、バイクの走り屋なんぞダサいオタクだけだと思っていた。が、この一件で「要は事故らないよう上手くなればいいんだろ」とライテク本を買い漁っては空き缶相手やワインディングで「練習」と称しては走るようになった。でも、どうなればおっちゃんは納得する?と思った時に

「大型飛び込みで一発合格すれば文句ねぇだろ」と考えた。

若い人は知らないかもしれないが、いわゆる限定解除と呼ばれていた時代、一発で合格なんて夢のまた夢の案外高いハードルだ。よく聞く話で8回ぐらい、10回を超えたという人の話も珍しくはなかった。オレの周りには4〜5回で合格した人はいたが、一発というのはオレ自身、聞いたことがない。そのレベルを達成できれば、オレは充分に大型に乗る資格あるだろ?おっちゃん。と思っていた。

そして、1年程度だったか、練習し、自分でもずいぶん上手くなったと自信がついた頃、オレは再度大型二輪免許の飛び込み試験の予約をした。

試験当日、落ちる理由が分からないくらいには自信があったオレは、「何がそんなに難しいんだ?」ぐらいに思っていた。レバーもちゃんと四本がけで慣れたし、安全確認も普段の運転から完璧だ。だが、実際に受けてみてなるほど、と思った。コースの覚え方が曖昧で、ミスコースで少し遠回りをしてしまったのだ。まさかそんな落とし穴があるとは考えてなかった。

挙動不審になりつつも、何とか最後まで走らせてもらうことはできたが、当然、結果は不合格。

目の前は真っ暗。

オレはもう一生大型二輪には乗れないのか?

絶望の淵に立っていると、当時の風潮だったのか、係の人から「はい、次はいつにしますか?予約してくださいね」と言われ、「えっ?」となりながら、勢いに押され、とりあえず翌週を予約した。まあ、キャンセルすればいいかと思いつつ・・・

・・・で、翌週。オレはやっぱり試験会場にいた。何となく、諦めきれなかったのだろう。大型に乗る乗らないは別にして、試験合格の「ハク」だけは欲しい。そんな浮気の言い訳みたいな事を考えながら。

そして、今回は入念に、完璧にコースを覚え、何度も頭でシミュレーションし、今度こそイケる、と思っていた。軽く雨が降り出したにも関わらず、急制動の距離はドライの11mのままと言う、何ともハードな試験となったが、オレにとってその程度のことは何てことはない。無事完走し、実技試験は明言こそされないが、おそらく、合格。

だが、どうにも釈然としない。このまま免許交付されて、本当にいいのだろうか?免許交付されても乗らなきゃいいか?それとも免許は取れたのだから伯父との約束なんか忘れてしまって、乗ってしまうか?でも本当にそれでいいのか?オレは伯父との約束を果たせたと言えるのか?ものすごく葛藤した。

合格したにもかかわらず頭を抱えるオレ。

そこに年配の試験官の方が声をかけて来た。

「君か?最初に合格したのは」

「え、あ、はい。そうですね、最初に完走したのはオレの方(2名いた)でした」

「君はどこかで練習してるんか?」

「(峠とも言えず)いえ、特には」

「そうか。なかなか上手いこと乗れてるやないか。大型に乗っても気をつけてな」

とだけ言って年配の試験官は去って行った。

・・・何だこれは?

乗っていいと言うことか?

この人は伯父の言葉を代弁でもしてくれているのか?

自分の中の胸の支えがスーッとなくなり、引いた波の後に残る確固たる信念。

「・・・乗っていいんだ…!」

溢れ出そうな涙を必死で堪えながら、年配の試験官の背中に頭を下げ、見送った。

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その後、オレは中古でA10のGPz900Rを購入した。

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初めての大型の世界。

バイクに乗ろうと思った時から大型に乗るつもりだったオレにとっては、「やっとここまで来れた」と言う感覚だった。

コイツに乗って「オレ、大型に乗ってるぜ」と伯父の墓に事後報告に行こうと思っていたが、悪ぃ、おっちゃん、まだ行ってなかったな(笑)

まあ、行ったところでどうせ「お前、オレは乗ってええなんて言うた覚えないぞ?人の忠告を無視するとはどう言うことや(苦笑)」と、『分かってるくせに人を困らせるような言い方』で、こちらのリアクションを楽しんでくるだけだろうしな。

また、いずれ、な。

-了-



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