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努力は天才に勝る -Potential Growth

昔から言われる「努力は天才に勝る」と言う言葉を過去に身を以って体験したことがある。

高校の頃、オレはズブの素人としてバスケ部に入部した。

当時、一世を風靡したスラムダンクという漫画の影響で30人程度の入部希望者がいて、部全体では50人を超える大所帯。ユニフォームさえもらえない部員が半数以上いたと言う異常な状況だった。そんな中、やはり中学からの経験者は強く、優遇され、さらに経験を積み、伸びていく。実力社会なのだから当然の話。

そこに一人、イヤ~な奴がいた。

もちろん、中学からの経験者で、確かに上手い。体も柔軟で、瞬発力こそそこそこだが、運動神経も良い。マイケルジョーダンを崇拝し(笑)、理論にも詳しい。

でも極度のサボり魔。

しんどい練習は何かと膝の故障を理由にやらない。休日は毎週法事。(笑)

でも上手いので誰もあまり表立って文句を言わなかった。
「天才」とまでは言わないが、努力せずして生き残るだけの実力があったし、オレ自身もこいつより下手なうちはこいつに、真面目に練習しろや、なんて言うつもりもなかった。

ところが徐々に変化が表れ始める。

2年生になり、下級生も入る頃、まず明らかにスタミナ不足が露呈してきた。

ユニフォームをもらえない部員は半数近くが辞め、随分と全体のレベルも上がっている中、彼はなお、故障を理由に半年近く全く練習に参加しなかった。その間、我々は苦しい練習に耐え、少なくとも体力には圧倒的な差がついていることは明白だった。そして多数の下級生の入部でさらに増えた人数で練習にならんと言うことから、部としては時間を分けて、一軍と二軍で分かれて練習するようになった。そんな彼もとうとう一軍には入れず、少し危機感を感じたのか、二軍の練習に参加したある日のこと。

オレは一軍だったので二軍の練習が終わる頃、トレーニングルームから体育館に上がると、そこには思わず笑ってしまうような光景があった。

彼の持ち前の個人プレーが一切封じられている。

二軍の、しかも下級生でさえ、ただの一歩も突破できない。

ドリブルひとつ付けない。

付いた瞬間持って行かれる。

痛快。(笑)

夢中でやってると案外自分の成長って分からないもの。でもこうやって止まってる奴がいると劇的に自分が成長してることが相対的に見て取れる。

厳しい練習に耐えてきたことが部員全員、「報われた」と思った瞬間。帰る場所の無くなった彼は、この一件の翌日に辞めた。

彼はただ、「努力しなくても上手い」そんな天才肌なところを見せつけたかっただけなのかもしれない。そして、そのフィールドは我々部員の前ではなくなってしまった。でも多分、彼はまた大学のサークルとかで、素人の前でいい格好してただろうな、と思う。そう言う奴は必ず、低い方へ、低い方へ流れて行く。そして高みを目指して、今まで限界だと思っていた領域を超えることなく消えて行く。自らが「今の立場で」想像できる高さまでしか行けないんだよね、それでは。

バスケの神様、マイケルジョーダンは言った。

「限界とは自分が作り出した幻影、妄想に過ぎない」

人間の限界を突き抜けて来た人だけに重みが違う一言。

ジョーダン崇拝者の彼だったが、この言葉は彼には届いてなかったのだろうか。

-了-

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