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スピードの向こう側 〜出会い、そして別れ。編

48秒を狙って出したオレは割と充実感に包まれていたが、45秒切りと言う目標を掲げている以上、ココで満足する訳にはいかない。
だがタイヤを換える余裕がなく、半年ほど過ごし、このままではいかんと2017年10月に再度2Sの走行枠を予約。
ゼッケンプレートも塗装し、それなりに絵になる走りもできる様になって来たが…

第一ヘアピン
ダブルヘアピン2つ目


残念ながらタイムは振るわず、1回目の走行枠は49秒止まり。
RS10Rでは3回目の走行とは言え、そこまでタイヤを追い込めてる訳ではないのでタイヤのせいにしたくはない。こんなタイヤでもこの程度のタイム、出せる人は出せる。

2回目の走行枠も、悶々としながら試行錯誤をしつつ、49秒と50秒を行ったり来たりするオレ。

すると何周目だったか、パイパーと言うインフィールドの左コーナーに侵入しようとした時、ベストラインを通っているはずのオレの、更にイン側に飛び込んできた黒いマシンがいた。おおっ?と一瞬オレは怯んでラインを譲った。

流石2S、この程度の隙間にでも入ってくるんだな。怒りなどは湧いてこない。この世界の常識はオレには分からないのだから、こちらが常識を上書きしていくしかない。むしろこっちの事も信用してないとあの隙間には入れない筈で、高次元の信頼関係がある領域に自身がいる事を嬉しく思ったぐらいだ。

そして次の短いストレートでアクセルを開けていると、圧倒的な速度差で加速していった先ほどの黒いマシンはもうダブルヘアピンの入口だ。
リヤタイヤをズバーっと滑らせながら更に先行車のインを突く!うおー!それ行くんだ!と驚いた次の瞬間、黒いマシンはクルッとコッチを向いた。
えぇ?ナンボなんでもやり過ぎちゃうか?あかん、飛ぶぞアイツ!?と思い、回避のために行く末を見守ったが、その黒いマシンはこちらを向いたままフロントを持ち上げ気味に猛然と加速してヘアピンを曲がって行った。
そしてオレがダブルヘアピンのひとつ目を曲がり終える頃にはもう見えなくなっていた。

…スゲーものを見た…


間違いなく40秒切りの走り。
こちらだって一般よりは速いタイムで走ってる筈なのだが、それをまるで止まっているかの様に置き去りにする圧倒的な差。

ただ、それを外からではなくコース上で見れた事を物凄く嬉しく思った。あー、オレでもこんな人たちを、観客席ではなく、同じコース上の視点で見られる世界まで来れたんだな、と。

結局その日は49秒止まりで振るわなかったが、あの衝撃の黒いマシンのお陰で謎の満足感と共に帰宅。
またあの走りから自分に足りないものが少し見えて来て、次回に活かすヒントにはなった。
毎回ベスト更新の記録はとうとう阻まれてしまったが、次こそは自己ベスト更新してやる。

…と意気込んでいたのだが、ここでとんでもない事件が起こる。

何と、岡山国際、この冬からコースを改修しますとの事。

しばらく予約が取れなくなっていたので嫌な予感はしていた。とは言えアスファルトを補修する程度のもんだろうと思ってたら、どうやら完全なる一部コース改修のよう。

つまり持ちタイムは何の意味もなくなる。
それどころか目標としていた45秒が何秒に相当するのか分からなくなる。

終わった…

一気にテンションが下がる。

それだけではない。

意気消沈したオレに、更に追い討ちを掛けるように不幸は続く。

何と、オレをサーキットに誘ってくれたバイク屋さんの店主が、悪性白血病のため、1年ほどの闘病生活の末、とうとうこの世を去ってしまった。

ライセンスの取得に一緒に岡国に行ってくれたり、原チャリレースに一緒に出てくれたり(何と2位獲得(笑))、岡国のままちゃり6時間耐久レースに家族総出で出場したり、時には暇つぶしのバス釣りを一緒にやったりした仲で、歳も近かったせいか、「ただバイクにやたら詳しい友達」的な感覚で付き合わせてもらってたのでショックは大きかった。

彼のために走ってたつもりはさらさら無いが、いつかタイムを出す事で「あいつ連れてって良かったな」と思って欲しかったのだが、それも叶わなくなってしまった。

これでオレの「頑張る理由」と言う名のガソリンが完全に尽き、オレのエンジンは動力源を失った。あとは半ば自然消滅的にライセンスの有効期限が切れたため、オレの牛歩サーキット活動は一旦終止符を打つことになった。

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こうしてオレ自身のサーキットコンプレックスを吹き飛ばす遊びは終わった。

ただこの数年のサーキット走行経験で初動のハードルは下がったので、今度はそれを活かして、いつかまた1098でサーキットに戻り、レースに出場、勝利を彼に捧げられたらコレほど嬉しいことはないだろう。

そんなキッカケを探しながら日々生きている。

いつかまた、その堰を切ってくれる人が現れたら、一気に行くぜ。今度はあの黒いマシンの背中を追いかけにな。

-了-

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