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同名の彼女 -a Girlfriend

「四月は君の嘘」と言うアニメを友人の薦めで見てみた。

恋愛モノというのは好きではなく、どこか冷め切った目で見てしまうので全く楽しめないのだが、この作品については好きなピアノが題材になってることもあり、まあ軽い気持ちで見始めてしまったら最後、一気に最後まで見終えてしまった。

見事な純愛で、心の錆びついたところをガシガシと削られた感覚で、もう自分の人生の中で無かったことにしている記憶を蘇らせてしまったので、そんな話を垂れ流してみようと思う。

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オレには幼馴染みの女の子がいた。
小柄で目のクリっとしたとても可愛らしい子だった。
彼女がオレの人生に与えた影響というのは比較的大きく、単なる偶然だが何と、「下の名前がオレと同じ」だったのだ。

「女みたい」と言われるのが大嫌いだったオレは、極力男らしく生きたいと思って生きてきた。今のオレの生き方の一番ベースになってる所かもしれない。

彼女はと言うと、まあ、底抜けに明るい子で、それこそ宮園かをりみたいなタイプの、いいと思ったこと、やりたい事はゴリ押しするタイプで、どちらかと言うと女の子と遊ぶのが苦手だったオレにも、男ばっかの中でもグイグイ入ってくるタイプだった。嫌いではなかったが、特別な感情を抱いたことはなく、何よりも「結婚したら同姓同名じゃん!そんなん結婚できんの?」って言う謎があったのでネットも何もない時代では調べる術もなく、自らそう言う感情を抑えてた気もしなくはない。

彼女は運動神経もそこそこ良く、サッカー好きで、サッカーのスパイクで学校に来て怒られる程度には破天荒な子だったが、見かけによらず頭は良かったようだ。校内でオレの「自分より賢い奴リスト」にはいなかった癖に、オレの知らない日本語を時々上手く使うことに驚嘆したこともあった。

兄貴同士が同級生と言うこともあり、母親同士が仲良かったので幼稚園入る前からの付き合いで、あんまり気が合った記憶も無いが、とにかく常に楽しそうにしている子で彼女が怒ってるのを見た記憶はほとんどない。

中学では一度も同じクラスになったことは無かった。
彼女はそこそこモテたので誰かと付き合ってた気がするが、誰だったか忘れてしまった…と言うぐらいにはオレも何にも思っていなかった。

高校受験の頃。
オレ含む学区No.1の進学校を受ける奴らは全部で8人。まあそれなりのメンツ。彼女は学区No.2の高校を受験。え、あいつそんなに頭良かったっけ?と思ってたんだが、後から本人に聞いた話、彼女もオレと同じ高校に行く実力はあったのだとか。

まあその話は後でするとして。

高校に入り、部活に明け暮れてたオレは暗くなってから帰宅していた。ある日、最寄り駅を降りて疲れたサラリーマンに紛れて家に帰ろうと歩いてると後ろから「こんばんは」と声を掛けられた。

すぐに彼女の声だと気付いたのだが、そこは最寄駅だし、雑踏の中で自分に言ったのではなく、近所のおっさんにでも挨拶したんだろうと無視していた。すると「ちょっと、無視せんとってよ( ・ὢ・ )」と怒られた(笑)

家までの坂道を10分ほど登りながら彼女と他愛もない話をしながら帰った。坂道の向こうに見える星が綺麗で、その時の風景が四月は君の嘘を見てると思い出されてね。

大体同級生に「こんばんは」なんて挨拶、したこともない。けど彼女はそう言う「人がやらない事」を平気でやる。そう言う子だった。どことなく同じ名前からくるライバル心を持っていたが、彼女のそういうところは素直に凄いと思っていた。

それから何度か帰りの電車が同じで、最寄駅で彼女に会うと一緒に帰るのが普通になっていった。
とは言えその頻度はホントにたまたまで、週に1回もあればいいとこで、1ヶ月に1回の時もあればもっと少ない時期もあった。

特段、面白い話をした記憶はない。ただ、あまり口が上手くないオレから彼女は色々と話を引き出してくれて、凄く楽しく過ごさせてもらったことを覚えてる。

色んな無駄話をした。その中で彼女がオレと同じ高校に行けたかも知れないけどやめたことを知った。何で?と聞くと彼女は珍しく答えにくそうにはにかんだ。
「いや、そこまで言ったら気になるやろ!言えよ(#゚Д゚)ゴルァ!!」と押すと彼女は渋々答えた。

「え、だってあそこ(オレの高校)、制服ダサいやん(爆)」

オレは爆笑した(笑)何とも彼女らしい理由。確かにウチの女子の制服はダサい(笑)

まあ、私服オッケーだからなぁ、と言うとウチの女子のあの半分制服、半分私服みたいな格好がとてもダサいと言うのだ(笑)
オレも私服オッケーだが学ラン派だったし、春は白シャツ、夏はヘインズTが制服代わりで過ごしてたのでその感覚はとてもよくわかった(笑)

そんな他愛もない話をしながら帰ってるといつもの坂の向こうの星空に、何と流れ星が。生まれて初めてみる流れ星。2人で顔を見合わせ、
「流れ星や!( ゚д゚)」と声を合わせた。

やたら盛り上がった。
「願い事や願い事!」
「あの短時間に3回とか無理やろ!」
「一つだけあるぞ!」
「何?!」
「カネカネカネ」
「夢ねぇ┐(´д`)┌ヤレヤレ」

ひとしきり笑って盛り上がった後、ふとウチの高校とは違う、カッコイイ制服を凛と着こなして夜空を見上げる彼女を見てあれ?こいつこんなに可愛かったか?と思った。(笑)

その流れ星事件から何となく彼女を意識しだした。

しかし現実はそんなに甘くない。その後はドラマチックな展開もなく、その後も何度か一緒になる事はあったものの、彼女にとっては夜道を女1人で帰るためのボディガード程度のもんで、オレに興味があったはずもなく、部活を引退した頃にはほぼ会わなくなった。

何となく、自分の中で彼女に対する好意を感じていたが、オレの方もガッつきたくないプライドもあるので取り立ててアクションを起こす事は全くしなかった。そしてやはり「結婚したら同姓同名」が引っかかって(笑)「メンドクセェ」が先走り、感情に蓋をしてた感は否めない。何より、昔からずっと変わらない接し方の彼女にそんな感情があるようにも思えるはずもなく、そのままただの楽しかった思い出としてだけ残すことにした。

それから8年ほどの月日が流れ、少しだけ面白い機会が来る。

当時オレは3年付き合った彼女と別れ、新たな展開のきっかけが欲しかったところに何と、中学の同窓会の案内が届いた。

へー、面白そうだな、と参加を決めたところでふと、彼女のことを思い出した。
こう言うのが好きな彼女が来ないはずはない。思い起こされる蓋をしていた感情。
変に期待をした訳ではないけど、何となく、タイミング的にも過去のモヤモヤに結論を出す時かもな、と思った。

当日、宴会場に行くと、彼女はいた。化粧こそしているが、相変わらず賑やかな友達の輪の真ん中でワイワイと独特の甲高い大きな声で喋る彼女は、オレの中では何も変わらない、昔のままの彼女だった。

同窓会は「センセー、オレ覚えてるん?」「アホか、覚えてるに決まってるやろ、むしろ忘れたいわ」などと言った会話をそこかしこで展開しつつ、懐かしい面々と楽しく飲んでいたが、たまたま彼女の近くにいたら、たまたま残念な話が聞こえた。まあ、ある程度予測はしていたが、彼女は既に結婚していた(笑)まだ結婚が珍しいぐらいの年齢だったから格好の話題になる。少し離れた席から「えっ!お前結婚してんの?!∑(゚Д゚)」と割って入ると「してるでー。子どもも2人おるし」と言う。もう笑うしかないよね(笑)

まあ、ここで人生そんなもんさとキッパリ諦めが付いた(笑)
最後に彼女にとってはあの時の流れ星、どんな思い出なのかなと言う興味はあったが、今更、誰も知らないはずの過去を人前でする話でもないな、とオレは彼女の前から早々に去った。
まあ、あの時、変に盛り上がってたのはやはり自分だけで、おかしな期待をして彼女を困らせずに済んで良かったと逆に安心した。強がりではなく、本気で。もう感情に蓋をする必要もない。

まあ、そんなこんなでオレに淡く美しい思い出と割と大きな影響を与えた「オレと同じ名前の彼女」はまだ、同じ市内で別の人生を歩んでるはず。

感情に蓋をする感覚、青春の夜空。

四月は君の嘘を見て、そんな懐かしい思い出がふと湧き出した。

またいつかどこかで出会ったら、しれっと「こんばんは」と声を掛けてくるだろうな。アイツはそう言う奴だ。

-了-

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