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マシンスペック -Specification

中学生の頃、「ひっくり返し難いマシン性能」と言うものがあるのだと言うことを身を以て体感した話をしようと思う。

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六甲山の麓に住んでいた中学校2年生の頃。

連れが新しい自転車を買ったらしく、突然「六甲山登ろうぜ!」と言い出したもんで、オレは軽い気持ちで「(σ゚∀゚)σイイネ!!行こう!」と同意した。

連れのマシンは最新3x7段変速のドロップハンドルのロードバイク。片やオレは10年ものの26インチ5段変速サイクリング車。トップチューブにガチャガチャがついてるやつだ。

裏山から登って裏六甲ドライブウェイへ。当時はまだ有料で料金所があったんだけど、自転車はただやで、と言う連れの言葉を信じてそのまま通り抜けようとすると、残念ながら料金所のおじさんに呼び止められた。

まあ、もう時効だから言うけど、自転車も通行料が掛かり、20円、2人で40円必要なことが判明した。が、2人とも1円も持っていない(今思うと20円すら持たずによく行ったものだ)。

おじさんに正直に「すみません、お金持ってません」と言うと、「しゃあないなー、ほなその線の外通って降りて行きーや。それならタダや」とオッチャンマイルール適用で通らせてもらった。時代だねぇ…

そうしてヒルクライムスタート。

裏六甲走ったことある人は知ってると思うが、まあ、結構な急勾配。ひたすら登って登って登りまくる。カーブを曲がるたびに今度こそ終わりますようにと願うが、繰り返される次の坂道に心折られながらもひたすらジグザグ走行で登り続けた。

時折、登っていく車に罵声を浴びせられつつ、何とか最後まで登りきった時の達成感はなかなかのもんだった。

だが本番はこれから。そう、オレたちは六甲を「下るために」登ったのだ。

そしていよいよダウンヒル開始!!

スタートで連れの前に出て、5速フル漕ぎ!

これは速いっ・・!!

オレ、速いぞ!

・・・と思った、その瞬間、俄かには信じ難いものがオレの視界に入った。

それは、一緒に登った連れのチャリのフロントホイール。

視界の端に入ったかと思いきや、オレの横を悠々と抜いていく・・・

ちなみにこの連れは成長が遅い奴で、チビで体力もなく、何をやってもオレに勝てる要素は何一つない男だ。そんな奴がこのオレの全力走行を抜いていくなどと、断じて許すわけにいかん!!

必死に回すペダル。だがスピードは伸びず、無情にも連れは離れていく。流石に我慢ならず、

「ちょっと待てや(#゚Д゚)ゴルァ!!」

と連れを呼び止める。

「お前それ、速すぎへんか( ・ὢ・ )」(めっちゃ言いがかり)

「しゃあないやん、こちとら21段変速やで( ̄▽ ̄)」

「そんなにちゃうんか」

「そらちゃうわ( ̄▽ ̄)」

「よし、じゃあお前はオレが見えなくなってからスタートな」

と、言うパワハラルール適用して再スタート。

またしても全力フルコギだ。後ろを見ると連れはいない。よし、いいぞ、このままブッちぎってやる、と思っていると30秒もしないうちに

「ぶぅーーーん」

と言うムカつく効果音と共にアウトから連れが被せてきやがった。

「れjwくぉpれmqwぽr!!!!!」

もう言葉にならない。発狂である。目の前の現実が受け容れられない。

だけど裏六甲のコーナーはきつい。

絶対コーナーでもう一度抜き返してやる!!

と、改めて追いかける側へ。ガンガンコーナーで連れにプレッシャーを掛けると、連れも多少は焦ったか、一度対向のダンプに突っ込みかけるなどクソ迷惑な一場面もあったが、直線で離され、コーナーで頑張るバトルは続く。

…が、最後まで抜くことは一度もできず、下山。

ホクホク顔の連れ、茫然自失のオレ。

「こんなにちゃうんか…」

「そらそうよ、こちとら最新マシンやで( ̄▽ ̄)何ならまだもうちょい上げれるで」

「ぐぬぅ…( ・ὢ・ )」

結局、こう言う道具を使う遊びは、生身では100%負けないような奴が相手でも、負けることがあるだけの「性能差」と言うものがあるのだと、あの時身を以て体感したのであった。

プロレーサーが原付で、素人の乗る大型バイクと高速勝負しても勝てないのである。

だから今でも、性能に溺れて速くなったと勘違いしてる奴が嫌いだし、自分自身がマシン性能を負けた言い訳にしたくないので、SBKに乗っている。

ちなみにこのバトル、所要時間は登りが3時間、下りは僅か10分程度であった。

-了-


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