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髙橋果鈴さんに梅棒に出てほしい(初出:2018年5月6日)

 2023年5月2日、髙橋果鈴さんが「『ワールドトリガー the Stage』B級ランク戦開始編」に出演することが発表された。「ワールドトリガー the Stage」は第一作より梅棒が振付を担当しており、今作においては

振付
天野一輝(梅棒) 野田裕貴(梅棒)
泰智(KoRock)

https://worldtriggerthestage.com/caststaff/

と発表されている。

 つまり、「髙橋果鈴さんに梅棒に出てほしい」と望み喧伝してきたことがついに実現すると言って差し支えない事態となった。
 そこで、2018年5月6日の第二十六回文学フリマ東京で初頒布した小冊子に掲載した全文をここに転載することにした。

※小冊子の頒価だった50円を有料エリアに設定しようとしたが、noteでの最低金額が100円だったのでそのようにしている。有料エリアの内容は頒布時の奥付のみである。


髙橋果鈴さんに梅棒に出てほしい

《2018年4月、『ゴリラ』公演中の中目黒キンケロシアターで》

 今回も梅棒は痛快だった。3月28日にシアター1010で観た『Shuttered Guy』は商店街の人々のストーリーだ。昔ながらの(という形容で想像してしまいがちな)商店街にやってきた外資系大型ショッピングモールと闘うという筋書きは、ありがちな善対悪の展開になりはしないかと恐れはしたが、梅棒にしかできない力技で登場人物すべてにハッピーエンドを与えた。キャラクターもラーメン屋、床屋、八百屋といった人たちが記号的な出で立ちで登場する。その中で、野田裕貴さんと古川小夏さん(アップアップガールズ(仮))が演じるフリーマーケットを出店するカップルはぺこ&りゅうちぇるそのもの。こんな引用も作り込んでいるから上滑りしていない。それどころか、ノスタルジックな商店街なのに観客たちのいる今の日本と同時代であることを伝えてくれる優れた仕掛けになっている。

 いや、こんな説明がしたいのではなくて、ダンスに見とれてギャグで笑って、2時間ずっと座っていたのに終わったら心地よく疲労していて、とにかく梅棒は楽しいんだということが言いたい。そして、自分が好きな俳優が、梅棒に出演してほしいと思ってしまう。初めて梅棒を観た古川小夏さんファンの友人が、観劇後とても充実した笑顔をしていたからなおさらだ。

 そんなことを言うからには意中の人がもちろんいるわけで、それが自分にとっては髙橋果鈴さんだということ。果鈴さんは2000年7月22日生まれの現在17歳。ガールズダンス&ヴォーカルユニット・Prizmmy☆のメンバーとして活動しながらミュージカル『「美少女戦士セーラームーン」-Un Nouveau Voyage-』(2015年)のセーラーサターン/土萠ほたる役で初めて演劇作品に出演。以来『舞台版「実は私は」』 黄龍院凜役(2016年)、『「美少女戦士セーラームーン」-Amour Eternal-』(2016年、同役)、『デスノート THE MUSICAL』(2017年)夜神粧裕役、『クジラの子らは砂上に歌う』(2018年)サミ役など、舞台を中心に俳優としてのキャリアを重ねている。最新の出演作はこの4月に上演された爆走おとな小学生『ゴリラ』。本作で初めてのヒロインを演じることになったが、その役どころは動物実験によって人間を超える知性を獲得したメスのゴリラだった。腰を屈めて歩いたり鳴き声を発したりと未経験の演技に果敢に取り組んでいながら、どこか余裕を感じさせた。俳優としての進化を感じるに十分だったが、それと同じくらいオープニングテーマに合わせてダンスを観れたことがうれしかった。踊っているところが観たいという眠っていた願望は、簡単に目を覚まして動き出した。

 Prizmmy☆を初めて観たとき、果鈴さんはまだ小学生だった。幼い少女4人が歌って踊るのを観て、人はダンスで感動できるということを知った。アニメ・ゲーム作品である「プリティーリズム」シリーズから生まれた彼女たちは、少女たちの憧れとなるというコンセプトを体現する存在だった。「なりたい自分になる」というキャッチコピーは、表現活動を通して「なりたい自分を探す」というプロセスを表してもいた。本人が何度も語っているように、果鈴さんが演技を志したのは2013年にリリースされたシングル『CRAZY GONNA CRAZY』のドラマ仕立てのミュージックビデオがきっかけだ。それから初舞台まで2年近くを要したが、AiiA 2.5 Theaterに立った姿の堂々としたさまに、安堵も驚きも超えて唖然としてしまった。初めての本格的な演技をうまくこなせるのだろうかという、親か何かを気取ったファンにありがちな勝手な心配は杞憂というのも恥ずかしいほど。「なりたい自分」をつかみ取った果鈴さんは、2017年3月にPrizmmy☆が惜しまれつつ解散したあと、当然、本格的に俳優業に取り組んでいくことになった。

 それからの順調すぎるほどの活動ぶりは観ていて楽しくないわけがなかった。常に新しい姿を見せてくれる。そのこと自体に何の不満があるはずもない。けれども『ゴリラ』で踊っているのを観たら、四つ打ちのキックが強烈な音楽でダンスして歌っていたPrizmmy☆のときのことを思い出さないわけにいかなかった。しばらく観ていなかったからよけいに、もっと見せてほしいと思ってしまった。

 その願望と、わずか3週間前に観た梅棒が結び付くのは自然なことだった(実を言うと『Shuttered Guy』観劇後のアンケートの「今後梅棒に出てほしい俳優は」という設問に髙橋果鈴と回答しているので、この言い方はだいぶ持って回っているのだけれど)。果鈴さんの踊る身体と演じる身体を両方とも存分に楽しめるのは梅棒をおいて他にない。『Shuttered Guy』で小柄な体躯を躍動させていた東理沙さんとも体格的にも重なる。華奢な少女は、男性、女性、中性的な人、異性装の人などとともに踊って舞台を賑やかに、華やかにする。今後、Prizmmy☆が歌っていたTRFの楽曲が梅棒で使われて不自然であるはずがない。「BOY MEEETS GIRL」なんて観れたら最高だ。ダンスの能力だって梅棒が求める水準に達しているはずだ。主に取り組んでいたのはヒップホップのはずだがジャズの経験もあるに違いないからそこは大丈夫だろう。ノンバーバルの演技も、『CRAZY GONNA CRAZY』MVでは台詞がなかったから問題としないし、不思議に符合が起こるのも楽しい。これまで出演した作品はダークな世界観だったり登場人物が命を落としたり(時には自身も)するものが多かったから、ピースフルな梅棒で笑顔いっぱいの果鈴さんが観てみたい。かりんスマイルは彼女の代名詞、Smile Forever...

 などとぶつぶつ唱えていたら、『ゴリラ』で共演した新木美優さんが『Shuttered Guy』を観に行っているではないか。果鈴さんと新木さんはキッズダンス雑誌『DANCE STYLE KIDS』でともに活動していて、再会を喜ぶ写真をツイートしていた。新木さんは東さんと友人であるということだった。これは近い。果鈴さんが梅棒を観たかどうかは確認できないし興味を持っているかもわからないが、存在は知っているに違いない。あぁ、プレゼントボックスに『Shuttered Guy』のチケットを入れておくべきだったか…

 好きなものどうしを結びつけたいというのは、きわめて安易で平凡なファンの欲望。本来手紙に書くような話なのかもしれない。でも、その前にこの望みがどれだけ可能性があるのかを考えてみたくなった。むしろ、この内容をPowerPointに落とし込んで今人さんに送りつけるべきか? いやそれはマネージャーの仕事であってファンがやったら迷惑行為か。いずれにしても、まずは果鈴さんと梅棒の話をしなければ… と、ぐるぐるとこんな空想をしてしまうのは、果鈴さんと梅棒の魅力が理由であることは言うまでもない。そう一方で、出演することが絶対に彼女の表現を広げる機会になるはず、といういわば「エア親心」が発動してしまうし、果鈴さんの幼さを演じる能力は新しいパーツとなって梅棒にフィットするのではないか、などと本気で考えてもいる。

 ひと昔前だったら妄想や与太と片付けられかないコラボレーションが次々と生まれるこの時代なので、これくらいの願望を表明するのは許されたいと思うが、どうだろう。

(了)

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