店員に認知されたくない

小学生の頃、ミッキーマウスのキャップをかぶってディズニーストアへ行ったことがある。


もちろんディズニーランドで買うようなでかい耳がついているものではなく、ミッキーマウスが陽気に刺繍されているわりとさりげないものだ。

そのキャップは母が買ってきたもので、取り立てて気に入っていたわけでもなく、暑いから持っているキャップを被ったらたまたまミッキーマウスがついていたレベルで、
ディズニーストアへ着いた頃にはミッキーマウスのキャップであることさえ忘れていた。

こんな感じのキャップ

ところが会計の時にお姉さんに「ミッキーのキャップ、かわいいですね」と言われて、やっとミッキーのキャップをかぶっていることを思い出し、非常に恥ずかしくなり「もう二度と店に店関連商品を身につけるもんか。」と心に決めた思い出がある。



それから10年ほどしてタイ料理にどハマりした私は
毎週土曜、遅く起きてすっぴんのまま家から徒歩5分のタイ料理屋さんにランチを食べに行くのが日課になっていた。

すっぴんだから帽子を深くかぶって、メガネをかけて、密やかに。

そこのランチは生春巻きもついていて、さらにスープがトムヤムクンに変えられるのだ。味はもちろん、このありそうでないランチセットが気に入っていた。

ところがある日注文の際「いつものでいいですか?」と言われてしまう。


密やかにしてたのにいつからこの顔もよく見えない私を認識していた?
「毎回グリーンカレーセットピーマン抜き」って言ってたせいで印象を強めてしまったのだろうか?
百歩譲って認識してたとしても話しかけるなオーラーは感じなかったのか?


「・・・はい」


10年近くぶりにディズニー事件を思い出しすほどの恥ずかしさだったが、
タイ料理はそれでやめられるほど生半可な愛ではなく・・・
恥ずかしさを堪えて次の土曜も来店してしまった。

そこからは注文時と退店時以外話しかけてはこないものの、発言がもう常連に対してのそれになってしまった。
席も定位置を案内されるようになってしまった。


オフの自分を認識しないでほしかった。
常連とはこんなに苦しいものなのか。
なのにランチに来るのをやめられない自分。
というジレンマのもと自身史上初の常連になってしまった。


世の中には常連でいることを楽しむ人が多いのは知っている。
私もどこか常連に憧れる気持ちも少しあって、上記の体験があってもそれを捨てきれず、
数年後に(いやいやタイ料理屋事件はオフだから・・・)と、時々友達と行っていたバーにオン状態で一人常連トライしてみたこともあるが、
やはり無理をしている自分に気づく。
「最初だけ」と思って10回は通ったがどう考えても認識されていない方がゆっくり飲める。
周りの常連も怖い。


この話をそこらじゅうで常連になっているコミュ力お化けの友人にすると
宇宙人でも見るかのような目で見られた。


今私は社会人になり企業のマーケティング部に所属している。

ロイヤルカスタマーという言葉があるが、タイ料理屋にしても客側が接客が好きなのか、味が好きなのか、雰囲気が好きなのかでも大きく変わる。

例に挙げた店員さんたちは店や接客も好きになって欲しいが故の行動だったのかもしれない。
いやそんな深くは考えず、身につけて来店してくれることや頻繁に来店してくれることが嬉しかったのかもしれない。

世の中にはいろんな人がいる。
私はロイヤルカスタマーへの施策が全く刺さらない、密やかに生きていきたい人間と気づいたのは30代前半だった。(バーを諦めた時)



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