スーパーヒーローのいる時代

僕にとってのスーパーヒーローは将棋の羽生さんだ。もうホント好き。羽生さんが負けると僕までガックリきて精神的にダメージを負ってしまう。

いまの羽生さんと若い頃の羽生さんってずいぶん変わったと思う。そういうところも好き。一貫性とか意味わからない。それって単に成長してないだけでは。そういやイチローなんかもすごく変わったよね。イチローも好き。どちらも人間臭さがない機械みたいな感じが一見あるけど、なんかすごく人間臭い。

寝癖がトレードマークでなんか天然ぽい感じのキャラだけど、対局相手にとっては驚異のラスボス。あのラスボス感がすごい。

強い若手が台頭してくるとわりと負ける。羽生さん曰く「なんか読みが合わない」かららしい。そして何回か手合わせしてるうちにお互いの読み筋があってくるんだそうだ。

オールラウンダーでも有名で、居飛車振り飛車どっちも指しこなし、序盤中盤終盤に隙がない()。 また、「テニスで言えば厳しいコースを打ち返すのが楽しい」ということで相手の得意戦法を受けて立つのが好き。わりとマゾ寄り。普通の人は易しいコースを厳しいところに打ち返すのが好きだと思います。

そして最終的に「相手の得意戦法を受けて立ち、しかもより深く読み、勝つ」ということになり対局者は精神的にも大きなダメージを負ってしまう。あれだけ強かった谷川浩司も「羽生さんには負けすぎて怖い」みたいなことをいう。ちなみに谷川さんも僕は大好き。ひふみん以来の中学生プロ棋士で最年少名人となり「光速の寄せ」の異名を持つほどの人でありながら年下でしかも負かされっぱなしの羽生さんのことが大好きなのだ。あふれる人格者の風格。

全盛期の羽生さんに対して勝率5割を超えていた数少ない棋士である4人目の中学生プロ棋士・渡辺明も、最近では羽生さんにすっかり負け越してしまっているように、羽生さんは相手の良いところを丸呑みにしてしまう恐ろしいラスボスなのだ。

羽生さんは「将棋はゴルフに似ています。ミスをしてからのリカバリーが大事なんです」という。とはいえ、対局者に言わせれば羽生さんはほとんどミスをしないのだからお茶目である。羽生さんは対局者と戦っているのではなく将棋そのものと戦っているのだろう。

僕自身は将棋はサッカーとものすごくよく似ていると感じている。同じ戦力で戦い、ボールを持っている方が手番を握り、フィールドの形や先取の配置も将棋の盤面に似ている。羽生さんがよく言うように将棋はバランスだ。ゲーム理論的に言うと完全情報ゼロサムゲームで、どちらかが一手有利になれば片方は同じだけ不利になる、完全に対称的なゲームなのだ。だから攻めと守りのバランスを取りながら駒組みを進めていくが、どこかでリスクを取ってバランスを崩して攻めていかなければならない。また、あえて攻めさせることもあるが、これは高度な攻撃の技の一つでそんなところも同じだ。そして終盤はきっちり理詰めで得点できることもあれば、まさかの華麗なプレーで得点することもある。

羽生さんの将棋は教科書通りと言われることもあるし、強情だと言われることもある。右サイドを攻めたと思ったら大きくサイドチェンジして左サイドから攻めることもあるし、かと思えばスッと守って相手に手を渡すことも多い。しかし基本的には羽生さんの将棋は攻め将棋だと思う。52銀で有名な羽生加藤のNHK杯戦はその顕著な例かもしれないが、結構無理やり突破を図ることも多くてワクワクする。

そんな羽生さんも50の声が聞こえてきて、ここ数年衰えが囁かれている。昨年はついに無冠になった。しかし僕はこれは直接的な年齢的な衰えが原因ではないように思うのだ。歳を取るといろいろ先が見えてくる。周りの少し先輩たちの生き方なんかをちら見しながら、また、これまでの道のりを振り返って「これから先もこの努力を続けていけるのだろうか」という自問が出てくる。こういった間接的な年齢による意欲の減退はあると思う。羽生さん自身もかなり前からそれは口にしていた。7冠をとった若い頃にすでにその大変さを語っていた。体力のある若いうちにしかできないことだ、と。

おそらく多くの棋士は重視するタイトルがあって、緩急をつけているのだと思う(普通は名人順位戦)。羽生さんはどのタイトルも自身がタイトルホルダーであるか、挑戦者であることが多く、すべてに全力投球しなければならない責任があった。これが今年はかなり軽減されている。景気の浮き沈みのようにある程度自律的な好不調の波が羽生さんの中にもあって、今年は負担が軽いことから結構勝つんじゃないかと思っている。とはいえ、かつてのように勝率7割というのは厳しいだろう。これまでが異常すぎた。

ここ数年でソフトが急激に強くなってAI世代の若手が台頭してきているが、すでに多くの棋士が指摘しているようにソフトに頼りすぎると自分の将棋を見失いがちだ。必ずしも若手が有利なばかりではない。今年の羽生さんはソフトと距離を取りながらも着実に吸収して、若手を再び凌駕してラスボスとしての存在感を発揮することになると予想している。というかそうなって欲しい。

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