星降る夜に出掛けよう

「好きなところをくすぐられる」経験をした。ひたいを撫でられたネコのような気分だ。
人には「好み」というものがある。懐かしくて、温かくて、照れくさい、誰にも理解されなくて良い「自分の好み」がある。
思いがけずそれに出会ったから、嬉しくてどうしようもなくて、やっぱり誰かに聞いてほしい。



ルーツ

世界を描くエンターテイメントが好きだ。そこには何も因果がなくて良い。
爽快感のある「お後がよろしいようで」や、見事にハラハラドキドキさせるストーリーは、時に"頭が良すぎる"。

例えば、時間としては瞬間である出来事の、色や香りや心の動きを、ひとつひとつ汲み取っていくこと。伝えたい想いは一言であるが、何分もかけて表現すること。「なんでそんな1日を切り取ったんや」と感じるけれど、確かに誰かが生きた1日である証拠を描くこと。

舞台「星降る夜に出掛けよう」は、そこにある世界を、そこを流れる時間を、そこで得た感情を、ただ切り取っていた。

ジャニーズエンターテイメントにもそういった演目はよくある。物語はどうして急にそんな展開に?主人公はどうして急にそんな感情に?
「なんかよう分からんかった」を「独特な世界観」と誤魔化して美談にするわけではない。「トンチキ」なんて甘えた言葉で揶揄するのも"しょうもない"と思う。

無理をして例えるなら、人生で1番初めに読んだ(読み聞かせられた)絵本のような感覚。そこには綺麗な絵と、抽象的な夢世界と、明快なようで奥妙かつ自由なメッセージ。これが「私の好み」である。

筋道を立てて理解する前に、SHOWの真髄へ ジーっと吸い込まれる感覚。
「観劇をしている」という自覚を失い、板の上に立つ人間から目をそらすことができず、身体と心が満ちていく感覚はゾーンだ。
作中に「美しいものは目に見えない、心で感じるんだ」というニュアンスの台詞がある。私にとってそれが可能となる作品は今作であって、そう感じている瞬間に、その通りを言いあてられると、ただ嬉しい。

論理的に言語化したがるくせに、ややおめでたい性格で、綺麗ごとを求めていて、いつまでも感覚的なおとぎ話が良くて、生まれる前から"ジャニーズ"が好き。そんな人間にとってあまりにも「好み」な作品だった。
またジャニーズアイドルで、エネルギーが満タンになってしまった。



髙木雄也(33歳・入所19年)

ここ数年、ゴリゴリの本場ミュージカルも、ドロドロに重い作風も果敢に挑戦している。彼もまた「一年に一板」なアイドルである。
そのような認識を持っていても、やはり【流石】という言葉を使うほかない姿だった。数々の苦悩と不安と達成を経験してきた説得力がある。

場数エンターテイナーが好きだし、冷静沈着の創造を確立した上に見える熱量が好きだ。確実に、この最年長が作品を引っ張っている。
カナリアでは完全に髙地さんをいざなっていたし、コーリング・ユーをあんな風に歌える人は彼以外にいない。

3人の中で圧倒的な色気、ムードが定着していて、当然のように紫の照明に焼かれて踊る。



中山優馬(29歳・入所17年)

正直、中山優馬と共演できるジャニーズは羨ましい。サマリー、プレゾン、滝沢革命、ジャニワ、J銀座、アナザー、ドリボ、SHOCK。
青山、帝劇、梅芸、日生、新橋、松竹座、世田谷、パルコ、博多座、新歌舞伎座、森ノ宮、グローブ座。
まだまだ書き表せていない、本当に「ヤベェやつ」。

一番この作品の落とし込みが早いと思う。「真剣に生きた」という台詞で涙を流せる役者。

優馬を見るとどうしようもなくなる。私の青春を形にしたら中山優馬になる。いつ見ても誰よりも強い。世界で1番あなたの三方礼が美しい。
相変わらず"好きな顔"してるなぁ、踊りも歌も魅せるなぁ、honestyもThe Strangerも自分の曲やん。
赤い照明は、やっぱりあなたを照らすために生まれた。



髙地優吾(29歳・入所14年)

この舞台には彼が必要である。
抜群に姿勢が良くて映える胸板があって、数々の作品と闘ってきた先輩2人と並ぶと正直異質だし、外部舞台2作目の契約社員4年目は、圧倒的に若手だと思う。
でも彼だから、華奢で無垢で無知で正直でマントを"着せられた"王子様を演じることができる。
あの愛らしい容姿と溌剌とした声は、板の上において武器だし、相反する無骨さと不気味さもまた、板の上において武器だ。

自担に「歌をうたおう」「夢を見よう」と繰り返す【初歩】のアイドルソングを歌われた気分はどうだ。自担がThe Sage of Jennyを表現する世界に来た気分はどうだ。自担が歴戦の勇者と人間国宝と仕事をしている気分はどうだ。
髙地担が羨ましい。



幻想のような青年たち

お前はなんのために観劇を続けるかと問われると、スタンディングオベーションをするためである。
あまりにも大好きなフィナーレだった。丁寧に順を踏んで行われるけれど、余計な私語があるわけではない挨拶。
満点の星空の中、優馬を赤に、雄也を白に、優吾を黄色に、思いっきり輝かせる。
久しぶりに、立ち上がって手を伸ばせば役者に届く席で観た、好みのエンターテインメント。懐かしくて、温かくて、照れくさい、誰にも理解されなくて良い「自分の好み」のエンターテインメント。

あなたはリフレインする【Tender Youth】をどう訳したか、あの星に聞いてみたい。
ジャニーズに生きる選択をし続けている3人が、想う星は同じだと信じていたい。

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