孤高の少女 ―短編小説―

投げ銭作品です。

………………


『孤高の少女』

 中島千尋は言語を持たない。

 いつだって自分の机を眺めている。もちろんその机に何かが書かれているわけでも、不思議生物がそこにいるわけでもない(たぶん)。ひたすら、像になっているのだ。彼女は誰とも言葉を交わらせることもしなければ、表情という感情を表す言語すらも発しない。まさしく、像。物言わぬ、ただそこにあるだけの物体なのだった。

 そんな彼女は、クラスの中で浮いているわけでも、ましてや虐められているわけでもなかった。ごくごく自然にそこにいて、風景と一体になるかのように見事にぴったりと収まっているのだ。

 どうして彼女が何もしないのか、僕にはわからない。クラスの誰もわからない。もしかすると、彼女すらも。

 彼女に同情したこともあった。あんなにも空気になっていて、さぞかし寂しいことだろう、と。しかし違うのだ、彼女は寂しいという言語すらも持ち合わせていなかった。

 彼女は、何か役目を与えられ、それを実行するロボットを思わせた。そこに彼女の意思はない。

 彼女が何を考えているのか――いや、何をするつもりなのかを、いつしか僕は想像するようになった。

 彼女はもしかしたら未来から来たサイボーグで、僕たちの知るよしもない戦いを繰り広げているのではないか。彼女の美しい、作られたかのようなその腕は、ビームサーベルへと変形して……いや、それならまだ超能力とかの方が良いか。手をかざすとそこから音波が飛ぶのだ。闇に紛れ、暗躍する。標的を見つけたら音波でビビビ。彼女を操るのは秘密結社で、幼い頃の彼女をかどわかしてサイボーグにした。初めは自我があった彼女も次第に心を失い……なんて。

 絵空事を考えてしまっている自分を自虐的に笑った。

 そうじゃない、きっと。

 ずっと彼女を見ていたら、いつしか僕は……。

 その思いを彼女に伝えられるときが来るだろうか。嬉しい苦さを帯びる、絶対的なこの思いを。そのとき彼女はどんな言語を放つだろうか。考えたくないような、知りたいような。

 まずは彼女に話しかけるべきだろうか。

 僕は席を立ち、彼女のもとへと向かった。

 そして――。



『獣の少年』


 平山浩太は監視する。

 彼の視線に気づいたのは入学して三日目でした。

 人見知りの激しい私は、誰かが話しかけてくれないかな、なんて希望的観測を胸に秘めて、でもそれを悟られたらきっと上に立たれるはずだから、何でもないようなポーカーフェイスで「ふふん、友達?なってあげてもよろしくってよ」的な空気を装っていました。でもなかなか私に話しかけてくれる人はいなくって、だからといって今さら私から話しかけちゃったら友達欲しくてたまらない人みたいだから私はそれでもポーカーフェイス。

 そして運命の入学三日目。

 この日もポーカーフェイスで席に着いてて頭の中じゃ、誰か話しかけてくれないかなぁ!話しかけてくれたっていいんだよ!それともみんな人見知りなのかなぁ!私もだよ!仲間だよ!話しかけてよぉ!と叫んでたんだけど、もちろんそれが誰かに伝わるはずもなく、今日もぼっちでポーカーフェイス。入学初日とか二日目ならまだしも、三日目にもなればいい加減私の寂しさメーターが振り切れそうで、でもそれを顔に出してつけ込まれるのは癪だからポーカーフェイス。ぼーっと机のシミを見て、時計の針が進むのを待つ。もしかしたら私、この学校で生きていけないかもしれません。と、心が折れかけたとき、ひとつの視線に気づいたのです。

 私の後方、右斜め後ろ、平山とかいう男子が私のことをまじまじと見ているじゃありませんか! もしかして、話しかけてくれるのかな。この際、男の子とか女の子とか関係ない。話しかけてくれさえすればよいのです。話しかけてくれた瞬間、私の輝けるハイスクールライフが始まるような気がします。

 でも彼は話しかけてはくれないのでした。

 ただただ、じぃーっと私を見るだけで、それだけで、なにかアクションを起こしてくれるわけでもなくって。

 きっと明日にでも話しかけてくれるのでしょう。何しろ、まだ入学三日目です。あっちにだって心の準備というものがあるのですから。私は賢明です。こんなことで喜ぶわけないじゃないですか。だからポーカーフェイスで彼が話しかけてくれるのを待ちます。

 翌日、まだ話しかけてくれません。
 翌々日、まだまだ話しかけてくれません。
 翌々々日、まだまだまだ話しかけてくれません。
 翌々々々日、学校お休み。翌週に期待。
 翌々々々々々日、………………。
 翌々々々…………々々々日、ついに一ヶ月です!

 もしかすると私は誤解していたのかもしれません。彼は私に話しかけたいわけではなく、私を監視しているのではないでしょうか。となると話が別です。私を監視し、私を食べるつもりなのです。男は魔物だとお母さんは言いました。魔物ということは人を食べます。食べて栄養にして、やがて世界を征するつもりなのです!

 なんということでしょう!

 ということは、私、絶体絶命のピンチです!

 ガタリ、と彼が立ち上がる音がしました。つ、ついに私を……。

 彼はやはり、私の前に立ち、大きく口を開けて

「あ――――」
「でえぇぇぇい!」

 お母さんから教えてもらった、対魔物の男専用チョップがまさかここで発揮するとは。

 私は魔物・平山くんの脳天へと垂直にチョップを繰り出すと、彼はぐったり倒れ「音波じゃなくてビームサーベルの方か……」などと意味のわからないことを口にしていました。

 こうして世界は救われたのです!



夢想する男女

「……え? 僕が魔物?」
「はい。私を付け狙い、世界を征し、魔王になるつもりなのでは……?」
「なにその三段論法!? てか、中島さん、話せたんだね」
「む。平山くんこそ何を言っているのですか。あたりまえじゃないですか」
「……そっかぁ」
「なんで残念そうなのですか」
「いやいや、なんでもないよ。あ、そうだ中島さん」
「はい?」
「メアド教えてよ。LINEでもいいけどさ」
「まあ、さっきのお詫びがそれでよいのであれば……」
「ありがと!」

 夢想する男女は微笑んだ。

 ふたりの行く末は誰も知らない。

 それを夢想するのも、よいかもしれない。


  〈了〉


………………


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つまり私は飛ぶのです。


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