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地元住民によって創生される地域

人口減少への対応が急がれている今日、地域創生というワードは政府も主体となって取り組まれています。同じ人材業界であるパソナグループが取り組んでいる、淡路島復興の一つである、「二次元の森」はSNS上で人気が増し、話題となっているので、訪れた事がある方も多いのではないでしょうか。このように地域を盛り上げようと言っても、成長エンジンとしての大都市の役割が、グローバルの観点から見ても大きく、都市の一極集中もどんどん進んでいるのが現状で、地域創生の理想と現実にギャップが深まるばかりです。まだ試行錯誤を繰り返している最中である地域創生では、何が求められているのでしょうか。

「地域住民の思い」

私が地域創生をする上で一番大切にしたいのは「地域住民の思い」です。良くも悪くも創生の影響を受けるのは当事者である地域の住民だからです。よく、地域創生の問題点としても挙げられていますが、外部から手が加えられ、開発が進むうちに、地元住民の尊重がなくなり、その土地らしさも無くなってしまうという事があります。例えば、私が就職活動で受けたある企業は、緑豊かな土地に不釣り合いでかなり目立つホテルを建てていました。私は企業説明を聞きながら、その地域に住む住民の人の気持ちは考えていないように感じました。その大きなホテルは、経営者にとっては利益がありますが、地元住民への還元はありません。むしろ、今まであった懐かしい景色が奪われ、地元への愛情も薄れてしまう可能性があるかもしれません。私は、長期的に続く地域創生にする為には、地元の人の協力があって、その土地の良さを活かした、唯一無二の魅力が必要だと考えます。

「魅力の発見」

地元の人が主体となって、その土地の良さを活かした例があったので紹介したいと思います。三重県多気町勢和地区にある「まめや」という食堂です。ここでは米、味噌、漬け物などの伝統的な名産がありましたが、継承が難しく、危機に陥っていました。しかし役所で農業産品の広告の仕事をされていたある女性が、この土地のお米の食感を測定すると、コシヒカリ以上の数値である事に気づき、特産の大豆を使用して作る地元野菜の漬け物や、味噌も他の地域にはない魅力だという事にも気づきました。これらの名産は、販売されている場所も少なく、味わえる食堂もなかったので、世間で有名にならないのではないかと考え、食堂を作ることを決めました。

「地元住民の協力」

地域住民に呼びかけたところ、30名以上の女性が合計1050万円の資金を持ち寄りました。また、三重県の補助制度にも応募しましたが、食器や細々した設備までは足りなかったので、古着を座布団に仕立て、それぞれが自宅から持参したもので補ったそうです。このように住民が協力し合いながら「まめや」は営業を開始し、年間800万円強の売り上げ増加を達成しました。

「まめやがもたらした地域創生」

食堂で使用する食材はもちろん地域のものですが、米や味噌、地元野菜の漬け物の店頭販売を開始したことにより、地元で生まれた利益が地元の方へ還元されている事がこの活動の素晴らしいところだと思いました。日本の農業が仕事としても、産業としても危機に面している事は、言うまでもありません。農業に従事する人は、1960-2010年の50年間で5分の1になり異常に減少しています。また、上記と同じ50年間で、農業に従事する60歳以上が18%から75%まで増加している事も問題です。産業としても市場が縮小していく中で、今では観光客の方にも人気である「まめや」の活動は、地元の農家の生活源に大きく貢献し、地域創生としての役割を担っています。この例のように、地元にあるちょっとした特徴を気づくことができるのも、活かす事も、やはり地元の人が主体となって動く事で実現すると考えます。

「まとめ」
今後の地域創生では、地元発信を求められると考えます。理由は、ネット社会に生きる私たちは、行きたい国や場所の写真をいつでもどこでも見ることができるので、富士山や東京タワーといった観光資源だけでは、わざわざ足を運ぼうとはしません。実際に現物を見ても、普段からSNSなどで見ることができるので、感動が薄れてしまうのです。その為、観光に求められる事も変化していて、自分の国や地域では見ることも触ることもできない、特別な体験を求めるようになっています。私は観光への期待や目的が変化した事は地域創生をする上ではプラスになるのではないかと考えます。なぜなら、先ほど私が大切にしたいと挙げた、「地元住民の思い」があれば、その土地ならではの魅力を発信でき、多くの観光客を引き寄せる事に繋がると思うからです。地元住民が今まで気づかなかった新しい魅力に気づき、47都道府県分以上の観光資源が生まれると、地域創生は定着化していくのではないでしょうか。


参考文献
岡本厚(2018.07.25)キーワードで読み解く地域創生 岩波書店
月尾嘉男(2017.12.15)転換日本 地域創生の展望 東京大学出版会