おじさん規約

アフィリエイトサービスで考える利用規約変更交渉

先日、利用規約をテーマとした法務互助会のイベントに参加してきて、そこでインスピレーションが沸いたので久しぶりの投稿。

利用規約と一口に言っても、B向け(企業向け)のものとC向け(一般ユーザー向け)のものがあって、性質は当然異なる。今回は、一般的ではないかもしれないが、B向けの規約の中でも、トラブルや契約交渉が発生しやすいと感じるアフィリエイトサービス(通称ASP)に関する規約について述べる。

ASPの利用規約

ASPの利用規約は、なかなか奥が深い。ASPは、成果報酬型の広告を出稿する広告主(代理店も含む)と、広告を掲載する媒体(メディア保有会社やアフィリエイター)がそれぞれ登録して、その間をつなぐサービスである。

一般的には、ASPを使って掲載した広告を経由して、発生した成果(事前に決めた条件、具体的には「会員登録」等)の数に応じ、1件あたり○○円などの金額を広告主がASP運営会社に支払い、ASP運営会社は、マージンを抜いてから、残額を媒体側に支払うというモデルになっている。

そのため、ASP運営会社は、広告主向けと媒体向けの2つのB向けの規約を駆使し、間に入ることで生じるリスクを最小限にする必要があるのである。

成果報酬型広告は、不正アクセスなどで想定外の成果がでて、請求額が想定外の金額になることがある。そういう場合に、広告主は支払い拒否を、媒体社はMAXの請求をしてくるので、なかなかの金額規模になりうる。

少なくとも自社に帰責事由のない状況で、持ち出しが発生することは避けなくてはならないし、請求可能な額を不当に削られないようにしないといけない。

ちょっとしたウェブサービスの利用規約が異様なまでに免責しまくっていても「まあいいか」で済ませられるが、法務として交渉しないのが怠慢になると言えるのがASPの利用規約なのである。

利用規約を法務は見ないのか

前述したイベントの発表において「規約にすると法務があんまり見ない」という興味深い内容があった。内容は、「あらゆる契約を規約形式にする」というのが趣旨で大いに賛同できる内容だったが、本当に法務は規約を見ないのか。

規約には代表印がいらない事が多い(申込書への角印が多い印象。メールベースの同意というケースもあった)から、決裁も不要で、法務まで上がって来ずにノーチェックで通してしまうというのが実際のところだろう。

確かに、規約を全部法務チェックを入れるようにすると大変なので、そういう運用で済ませているところも多いかもしれないが、ことASPの規約のように一定程度のお金が動いて、リスクの高い契約については、漏れないようにチェックできる仕組みが必要である。

PDFを法務は見ないのか

先の発表「規約はPDFにするともっと見られない」と言うことも述べられていた。規約にしている時点で直接修正は難しく、覚書を作らないといけないので、そこはあまり変わらない気もするが、契約書をPDFで出されるとやる気が削がれる。直接の修正を入れにくいので、テキストで修正依頼を仕上げる必要があるので、単純に手間が増えて嫌だ。

私は「自社が少しでも相手より有利な契約締結をすること」を目指すより、「(自社の重大なリスクを排除・低減した上で)ほどよく対等な条件で速やかに合意できること」を目指したいので、一方的な契約書や規約を突き付けられるとイラっとする。

契約書だろうが、規約だろうがPDFで出してくるのであれば、バランスの取れた対等な条件の内容にすべきだ。一方的な内容をPDFでドンと出されると、契約交渉を受けつける気がないような姿勢を感じ、戦闘態勢になる。むしろ、強めの修正依頼を出して、相手に自ら修正案を出させるように仕向ける。体感では、PDF型で契約条件を出してくるところの方が、反撃に弱く、丸のみしてくれることも多い。

ASPの規約には要注意

ASPは、基本的には広告主にとっても、媒体にとっても便利なサービスなので、いずれかの立場の会社であれば、利用することもあるだろう。だが、そこで多額のお金を動かす場合は、利用規約をすみずみまで確認したほうがいい。かなり一方的になっているはずだ。

これには少し事情があって、ASP運営会社は、立場の強い広告主等から「規約には同意できないので当社の契約書ひな形でお願いします」ぐらいのことは言われる。そうなると、媒体側の責任も含め、あらゆる責任を負わされることもありえる。そうなると、少なくとも媒体側に対しても、ぬかりなく定めておかないといけないのである。むろん、媒体側が強い場合もあるので、デフォルトとしては、広告主側の規約も強くしておかなくてはならない。間に立つというのは、なかなか難儀な話なのである。

規約変更交渉の効果

規約交渉の結果、合意した規定は実際にトラブルが起きた場合、適用できるのにしない事がある。例えば、広告主側に過失があった場合に、規約を適用すれば、一銭も払う必要はないのだが「そんなことを言ったら、今後の取引に差し支えるので今回は規約を適用せずに、当社が補填します」なんてことを自社の営業責任者に言われ、結局自社が無駄に負担したりするのである。

自社有利の規定が最も効果を発揮するのは、立場の弱い相手に対して、権利を主張するときが主なのである。これは悲しい。…とはいえ「契約ではこうなっていますが、適用しません」と言う事で相手に貸しを作り、今後の取引が優位になれば、無駄にはならない。

最終的に、規約に限らない契約の話になってしまった。次回はユーザー向けの規約について述べたい。




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