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『東方原曲分析入門』補足


はじめに

どうも、Klavierです。まずは皆さん、例大祭お疲れ様でした!といってもこの記事を執筆している時点では例大祭はまだなんですけどね。
本記事では、例大祭21にて頒布した拙著『東方原曲分析入門』の補足や訂正を行いますが、基本的には、一通り本書を読んだあとで、この記事を読んでもらうことを想定しています。この本を買いそびれてしまったという方は、申し訳ないのですが、再版をお待ちいただければと思います。以前頒布した『東方紅奏論』よりは色々と再版しやすい本なので、秋例か次回の例大祭あたりで再頒布できると思います。なお、本記事は随時追記予定です。

p.4 ①方針

「U.N.オーエンは彼女なのか?」の譜面を掲載していますが、この譜面を試聴できるQRコードを載せられませんでした。以下のリンクから試聴できます。(本書においてはサビと間奏部分の譜面しか載せていませんが、リンク先では曲全体の譜面の試聴ができます。)

p.6 ②音階・音名

波線部で「ピアノの鍵盤は1オクターブの間に鍵盤が12個あり、これは1オクターブという距離を12等分して設定されている」と書いていますが、「音の距離」は、厳密には周波数比で決定されます。具体的には、例えば「CとC♯」のような、半音同士の周波数比はどこも「1:1.056…」となっています。「どこの半音も距離が同じ」というのは、「どこの半音も周波数比が同じ」ということに他なりません。なお、1オクターブ離れている音同士の周波数比は必ず「1:2」になります。このように1オクターブを等分して各音を導き出す音律を平均律といい、特に1オクターブを12等分する平均律のことを十二平均律といいます。
私たちが日常で目にする楽器には大体平均律が使われているのですが、平均律の楽器というのは、1度と8度以外の音程の周波数比を整数比で表すことができません。音というのは周波数比がすっきりしていればいるほど綺麗に調和して聴こえるとされていますので、実は平均律というのは音同士が完全に調和しては聴こえない音律なのです。

このような平均律の欠点を持たない音律に純正律があります。これは各音の周波数比が単純な整数比になるように設定された音律で、音が完全に調和して聴こえるのが特徴です。例えば、純正律では「CとG」の周波数比は「2:3」、「CとE」の周波数比は「4:5」になっています。ですが、純正律は各音の距離が一定でなく、自由に転調ができないという欠点があります。この欠点があまりに大きく、結果として現在は、音が完全に調和して聴こえはしないものの、自由に転調して演奏できる平均律が広く使われています。

p.7 ②音階・音名

「『全全半全全全半』から導かれる音階は、12音それぞれから始めた12種類がある」と書きましたが、実際には異名同音を別の音とみなすことがあるので、12種類以上あると考えてもらった方が正確です。
大抵は「F♯とG♭」「C♯とD♭」「BとC♭」を別の音とみなして12+3の15種類とします。

p.8 ③調

「スケールと音階には厳密には区別がある」と書いていますが、これについて補足しておきます。具体的には、「音階」というのが「ある調で使用されうる音を音高順に並べたもの」であるのに対し、「スケール」というのは「あるコードで使用されうる音を音高順に並べたもの」です。特に、ジャズ理論においては両者をきちんと区別しておくことが重要だと思います。

また、この部分では進行の都合上「『Cメジャースケール』を略して『Cメジャー』や『C』のように呼ぶことがある」と書きましたが、これは不正確な説明です。実際には、「Cメジャースケール」を用いる調(キー)のことを「Cメジャー」や「C」と呼ぶので、必ずしも「Cメジャースケール」と「Cメジャー」「C」という呼称は同じ概念を指しません

p.9 ③調

メジャースケールの用いられている曲として「蓬莱伝説」を挙げましたが、実際のところ、掲載した譜面の部分はキーがAメジャーともF♯マイナーともとれます。1,2,5,6小節目はAメジャーと言ってよいと思いますが、3,4,7,8小節目はF♯マイナーのような音使いです。

p.11 ③調

「『Aマイナースケール』のことを『Am(Aマイナー)』と書くことがある」と書きましたが、上記の「p.8 ③調」のところで長調について説明したのと同様に、実際には「Aマイナースケール」を用いる調(キー)のことを「Am」と呼ぶので、必ずしも「Aマイナースケール」と「Am」という呼称は同じ概念を指しません

p.12 ③調

平行調同士を見分けたい時には、主音を見極める方法が有効です。平たく言うと、「曲が終わった感じがする音」が主音です。詳しくは「調判定の方法」などで調べてみてください。

p.32 ⑧分数コード

「C/E」の読みは「シー・オン・イー」である、と書きましたが、この他にも英語読みにならって「シー・オーバー・イー」のように読むこともあります。「シー・スラッシュ・イー」や「E分のC」のように読んでも通じますが、あまり一般的ではないと思います。

p.37 ⑨ディグリーネーム

ディグリーネームの読み方について、本書では「1度マイナー」「フラット3度」のように「度」を付けて読む方法を紹介しましたが、他にも「1マイナー」「フラット3」のように「度」を付けないで読む人もいれば、「ワン・マイナー」「フラット・スリー」のように英語で読む人もいます。これについては自分の感覚的に読みやすいように読めばよいと思います。

p.38 ⑩コード進行

本書では、コード進行を設定する際に、メロディの音は考えず、コードを担当している楽器が鳴らしている音をコードに起こしていますが、メロディを考慮に入れてコード進行を設定する方法もあります。メロディも考慮に入れることで、その時点で鳴っている全体的な響きを捉えることが可能になりますが、採譜カロリーが高いので本書ではこの方法は採用していません。

また、コードを採譜する際に、ベースラインをコードとは別に表記することがあります。例えば以下のように。

「月まで届け、不死の煙」

この譜面では、下段の、コードよりも下の部分にベースラインを採譜しています。このように書くとベースの動きがわかりやすいというメリットがあるのですが、その説明を省かざるをえなかったので、本書ではこの書き方を採用していません。

p.47 ⑫東方原曲のコード進行

「ドリアの6度を用いる進行」の部分に誤字があります。
×「ドリアの6度は多用な使われ方をしますが」
○「ドリアの6度は多様な使われ方をしますが」

p.51 ⑬転調

「転調を分析する際には調の主音を参照する」と書きましたが、厳密には、転調する時に変化するのは「主音」というよりも「調性感(トーナリティ)」です。とはいえ、「主音」を感じ取れるようにする雰囲気が「調性感」ですから、実質的には同じことです。

p.58 ⑯拍子

本書では拍子記号の分母についての説明を省いたので、ここで説明しておきます。具体的には、拍子記号の分母は、その拍子の基準となる音符の種類を表しています。例えば、「4/4拍子」のように、分母が「4」の拍子の基準は「四分音符」、「6/8拍子」のように、分母が「8」の拍子の基準は「八分音符」といった要領です。「4/4拍子」は「1小節に四分音符が4つ入る拍子」、「6/8拍子」は「1小節に八分音符が8つ入る拍子」などと一般に説明されます。

p.64 ⑰実際に原曲を分析してみるには

色々書きましたが、最初に耳コピをする際に問題になるのは、「耳コピしたい曲のキーの把握」だと思います。これには、曲に使われている音を全て調べて地道にやっていく方法もありますが、これだと時間がかかります。ここで便利なのが、「主音を見極める」方法です。主音さえわかれば、その曲のキーはわかったも同然なので、まずは主音がどの音かを判別できるようにしましょう。詳しいやり方は気が向いたら記事を書きますが、私が書かなくともこれについて言及なさっている先人がたくさんいらっしゃるので、その方々の言葉を参考になさってください。これについての詳細は「調判定の方法」などで検索すると色々出てくると思います。

おわりに

今回の記事は以上です。今後もこうして音楽関係の同人誌を出したり、東方原曲のコード進行を分析したりしていくつもりなので、どうぞよしなに。
次の記事もなるべく早いうちに書きたいです。書けるかなあ…書けたらいいなあ…。あと、やるぞやるぞと言って一向に進められていない『妖々夢』楽曲のコード進行分析も、いい加減やろうと思っています。
ではまたどこかで。

2024/04/20 「香る樹葉花」を聴きながら

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