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Peter Ablinger/ Weiss/Weisslich 31 について(増井)

 今回はPeter Ablinger《Weiss/Weisslich 31》についてのお話です。

 ペーター・アプリンガー(Peter Ablinger, 1959- オーストリア)はコンセプチュアルな作品を書く作曲家としてよく知られており、彼の電子音楽作品やサウンドインスタレーションは特に有名です。彼の作品は音の知覚の現実に対する問い、音そのものの聴き方と、音の捉え方に対する疑念(それは音なのか、そして音とは何なのか、それは新しい何かでもはや音楽ではないのか、ノイズなのか、ただの情報であるのか)を聴く者に投げかけます。

”ウィーンの東、ハンガリーとの国境近く、ハイドンの生家近くにある畑を散歩していたとき、私はあることに気づいた。トウモロコシがたわわに実り、収穫の直前であった。暑い夏の東風が畑を吹き抜けると、突然、das Rauschen(ノイズ/音)が聞こえてきた。小麦とライ麦がどう違うのか、よく説明されたものの、私はいまだに言い出せない。しかし、私はその違いを聞いた。美的な状況(例えばコンサート)以外で本当に音が聞こえたのは、このときが初めてだったと思う。何かが起こったのだ。前と後が明確に分離され、互いにもう何の関係もない。少なくとも、当時の私にはそう見えた。今にして思えば、知覚を揺り動かすような体験は他にもあったが、トウモロコシ畑の中を歩いたのが一番印象的だったかもしれない。いずれにせよ、それ以降に作ったすべての作品は、この体験と関係があるように思います。ノイズに特化していない作品や、伝統的な楽器で演奏されたものなどでもです。”(ペーター・アプリンガー)

 今回のコンサートでは彼のコンセプチュアル作品の一つである《Weiss / Weisslich 31, Membrane(皮膜), Regen(雨)》をもとに、ビデオ作品を制作しました。この作品にはさまざまなバージョンがあります。

31a: rain shelters in public places
31b: drum-set, rain
31c: umbrella
31d: glasses, rain
31e: concert installation with 8 glass tubes
31f: membranes, dripping water

 31a-dは実際に外で雨の中にシェルターや打楽器、傘、グラスなどさまざまなマテリアルを置いて行うインスタレーション作品、31eは舞台上にグラスを設置しその上から水滴を垂らす、31fは皮膜の上に水を垂らして演奏するコンサートピースです。今回は実際に雨の中にマテリアルを置いてその様子をレコーディングした作品をつくりました(もちろんアプリンガー本人にお伺いをたて、好きにしていいよという許可をいただきました)。私は現在スイスのルツェルンに住んでいますが、自然あふれるルツェルンの森へ出向き、レコーディングを行いました。そしてこの度帰国してすぐは埼玉の祖父母の家にしばらく滞在していたのですが、1日大雨の日があり、これは!と思い、よく幼少期に訪れていたこれまた自然あふれる公園にてレコーディングを行いました。今回はスイスと日本の音のハイブリットのような作品となりました。

 雨の音に耳を澄ませることはよくあるかもしれません。しかし雨の中に、ある素材を置くことによって(その素材を通して音を聴くことによって)、雨の音に違った表情を与えることができるのです。それは、無数の雨粒の中の一粒、一雫にフォーカスするきっかけを作り出すということでもあり、普段はすることのないであろう雨の聴き方をするということにもなるかもしれません。そして他の雨粒の音、雨全体の音、周りの環境音との関係性も相まって、音の表情の変化を見ることができるようになり、音そのものの概念について思いを巡らせることになるのです。

増井

Klangküche Percussion Duo Concert

東京公演
2022年12月28日(水)
開場|18:15
開演|19:00
会場|トーキョーコンサーツ・ラボ(東京都新宿区西早稲田2-3-18)

名古屋公演
2023年1月8日(日)
開場|14:15
開演|15:00
会場|K・D ハポン(愛知県名古屋市中区千代田5丁目12-7)

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